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体が、痛い。全身がぎしぎしと軋む。視界には相変わらず何も入ってこない、真っ暗闇だった。ただ、感触から、自分がベッドに寝かされているということはわかった。
あれからの事はあまり覚えていない。ただ、闇の中で、ひやりと気持ちのいい手が、まるで壊れ物にでも触れるかのような、優しく遠慮がちな手つきで、私の肩に触れたことだけははっきりと覚えていた。
「起きましたか」
それ程遠くない位置から、声が聞こえた。この声は誰のものだろう。どうして真っ暗で何も見えないのだろう。私は今どこにいるのだろう。少し恐怖を感じ、後ずさろうとするが、痛みで思うように動けなかった。
「あまり動かない方がいいですよ。君の体は相当疲弊していますから。何か食べたら、薬を飲みましょうか」
凛とした、それでいてどこか憂いを帯びた声が響いた。何も見えないのはわかっていたが、声の主を探そうと、思わず顔を動かしてしまう。
「ここに、います」
そっと、肩に手が触れたのがわかった。記憶の中と同じ、ひやりと冷たい、大きな手。この手に触れられると、どこか安心してしまう。私はそっとその手に触れ、疑問を口にした。
「ここは、どこですか。貴方は誰ですか」
自分で思ったよりも、掠れた弱々しい声で驚いた。少しの沈黙の後、その人はゆっくりと、しかしはっきりと答えた。
「ここは私の家で、私はレギュラス・ブラック、君の後見人です」
どこか驚いたようなその声に、何故か安心感を覚える。なんだかちぐはぐで意味の解らない言葉をゆっくりと飲み下し、理解したと同時にふわふわしていた脳に記憶が戻ってきた。気持ちが、悪い。
「吐きたいなら、吐いていいんですよ」
そう言って、レギュラスさんは、私の口元に、いつのまにか用意されていたバケツのようなものをあてた。もう背中をさすってくれるお母さんはいない、慌てて病院に連れて行ってくれるお父さんはいない。
そう思うと、一層気分が悪くなり、胃液がこみ上げてきた。ただ、背中をさする手が悲しかった。
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