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 ダンブルドアからの通達を受け、私は急いでその家へ向かった。
 家の中へ直接姿現しはできない事は予め把握済みであり、到着地点はそのすぐ近くへ設定した。足が地面に着くと同時にその小奇麗な家へと走り寄る。音を立てずにドアを開け、家の中へ足を踏み入れれば、異様な雰囲気の中で下卑た笑いと乾いた叫び声が聞こえた。
 声を頼りに歩みを進めれば、家の奥に一つだけドアの開け放たれた部屋を発見した。そちらに目をやれば、すぐに人が居るのが見えた。死喰い人は3人、内1人は床にぐったりと倒れて居る。幸い向こうはこちらに気がついていない。無言呪文を背後から飛ばせば、方がつく。難しくはない。
しかし私はこの件を受けたことを後悔していた。助けるべきであった者たちから、既に全く生気を感じないのだ。
 男が1人、目を見開いたまま倒れている。彼はもう息をしていないだろう。女が1人壁にもたれかかった状態で動かない。彼女の服は赤く染まっており、周辺にはおびただしい量の血が流れていた。息はあるようだが、正直もう助からないだろう。
 そして、床に倒れている屋敷しもべ妖精の隣に少女が1人。聞いている限りではこれで全員だ。後の確認は、死喰い人を引き渡してからでいいだろう。
 私はまず少女の傍に立っている死喰い人に呪文を飛ばした。もう1人がそれに気づいて杖を構えたが、既に遅く、私の呪文が放たれた後だった。2人は床にくずおれ、私は奴らの杖を回収した。さらに動けないように呪文を唱え縛っておく。そしてすぐに女の元へ歩み寄った。何を言うべきか悩んでいると、女は苦しげに唇を震わせ、涙を流しながら呟いた。

「……娘を、頼みます」

 その眼差しは、死の淵に立っている人間とは思えないほどに力強かった。果たして母親とは、自分の命より先に娘の心配をするものか。そう思いながらも私はゆっくり頷いた。それを見ると、女は安心したような表情で、静かに息をひきとった。
 ゆっくりと、彼女の娘であろう少女の元へ向かうが、ぴくりとも動かない。しかし、浅くはあるが息はしているようで、腹が微弱に上下していた。

「ポラリス・ブラン」

 微かに、少女の肩が動いた。どうやら意識もあるようだ。しかし額には脂汗をかき、呼吸も酷く苦しげだ。そういった彼女の様子を見てどのような呪文を使われたのかは察しがついた。恐らく磔の呪文だろう。使われた者は何度も見てきた。自身も使ってきたのだ、間違うはずがない。

「じきにダンブルドアがいらっしゃる。それまでは、寝ていなさい」

 聞こえているかはわからないが、それだけ言って、私は眠りの呪文をかけた。起きれば地獄が待っている。ならばせめて今だけは眠らせてやろう。 私は少女、ポラリスをソファーまで運んでやった。

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