19

「レギュラス、ごめんね、わたし」

 それ以上、出てこなかった。滲んだ視界ではあまりわからなかったけれど、確かにレギュラスは笑っていた。ああ、どうしてこの人はこんなにも優しいのだろう。あの時から、ずっと変わらない。

「ポラリス、約束をしよう」

 私の涙――鼻水も少し出ていたかもしれない――を拭いながら、レギュラスは悪戯っぽく言った。

「自分のことを大切にするんだ、自分で自分を傷つけてはいけない」

 そう言って、レギュラスは私の顔を覗き込んだ。その瞳は相変わらず綺麗な灰色で、柔らかい光を宿していた。この目が、好きだった。どこか遠くを見つめる優しいこの目が好きで、あの場所へ毎日走っていたんだ。

「約束、する」

 鼻を啜りながら答えれば、レギュラスはまた柔らかく微笑んだ。

「私も、約束しよう」

 そういって、花冠を私の頭に乗せた。魔法で出したのだろう。その花は瑞々しく、色鮮やかだった。キザだなあ、と笑えばどこか驚いたような戸惑うような表情で見返され、逆にこちらが戸惑ってしまった。
もう、やめよう。自分を縛り付けるのは。愛されることも、幸せになることも、諦める必要はない。新しい家族ができたからといって、お母さんとお父さんがいなかったことになる訳でもない。強く、生きよう。辛くても、苦しくても、生きていこう。

「レギュラス、ありがとう」

 あの時言えなかった言葉が、ようやく空気を震わせた。

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