16

 私を真っ直ぐに見つめる灰色、艶のある黒。無限に広がる闇だけだった世界に、色が戻ってきた。まるで王子様のキスでお姫様が目覚めるかのように、私の世界は色づいたのだ。頭がくらくらする。ぱちぱちと何度か瞬きをしてみるが、やはり視界は変わらなかった。
 視力が戻った。もう一度、灰色の瞳を覗き込めば、驚いたように見開かれていた。ああ、私の見たかった物が目の前にある。

「ポラリス? まさか、目が」

 言葉が、出ない。伝えたい事が余りにも多すぎて、私にはその全てを言い表す事ができない。それは唇の震えとなって表れた。とにかく彼の問いに答えようと首を振って肯定した。再び涙が溢れ出て、久しぶりに手に入れた視界は揺らいで見えなくなってしまっていた。なんだかそれすらも愛おしくて、何度も何度もまばたきをした。ああ、この部屋の壁の色も、柔らかな照明も、窓から差し込む光も、シーツの皺でできた影さえもが目に痛くて眩しくて、嬉しくて仕方がない。
 もう一度よく見ようと目を擦り、隣で優しげに微笑む彼の顔を覗き込んだ。冷たい灰色の瞳は柔らかな光を宿していて、かち合った視線から温かなものが流れ込んできた。私は、どうして忘れていたんだろうか。

「ああ、レギュラスだったんだ」

 道理で懐かしく感じるわけだ。私は彼を知っている。人見知りの私がすぐに慣れ、信頼できたのもそのせいだろう。今になってわかる、だからあの時レギュラスは、覚えていないのかと悲しそうな声で言ったのだ。ということは、彼は私との約束を守ってくれたのだろう。そう思うと、涙は止まらなくなった。

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