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 私には、そんな価値はない。愛されていいはずがない。幸せになんてなれない。私のせいで、皆は死んだのに。そうだ、私のせいでお父さんもお母さんもタバサも死んでしまったのだ。私を守ろうとしたから、皆あんなに傷ついて、死んでしまったのだ。私が居なければ皆生きていたかもしれない、私がもっとしっかりしていれば助かったかもしれない。私のせいなんだ、まるで死神犬のグリムのように不幸を呼び寄せてしまったんだ。

「ポラリス、君は幸せになっていいんです。愛されても、いいんですよ」

 彼が紡ぐ言葉は、今の私にはどこか恐ろしかった。そんなはずは、ない。だって、私一人が幸せになるなんて、不公平じゃないか。

「い、や、やめて」

 耳を、塞ごうと手を動かす。だが、それも彼に阻まれてしまった。

「過去の中で、人は生きられません。ポラリス、傷は癒されるべきものですよ」

 やめて、癒されたくないの。忘れたくないの。私はずっと、覚えていたい。癒されなくてもいい、ずっと痛くて苦しくてもいい。覚えていたいの。可哀想な子供でいいから、周りにどう思われたっていいから、家族とずっと一緒にいたいの。

「や、だ。忘れたくない。傷だらけでいい」

 お母さんの優しい笑顔も、お父さんの大きな背中も。ずっとずっと、覚えていたい。死んだ、なんて。認めたくない。

「ご両親が、そんな事を望んでおられるとは、私は思いませんが」

 彼の声は真剣で、その分その言葉は厳しかった。わかっている、お母さんもお父さんも、いつだって私の幸せをねがってくれた。きっと今も、私が前向きに、幸せに生きる事を望んでいるのだろう。恨んでなんか、これっぽっちもいないだろう。そう、これは私の思い込みであり、我儘でもあった。ふつふつと苛立ちが募り、沸き立つ。知ったような口で私の傷を抉って、何がしたいの。あれからずっと目も見えないし、不便で息苦しいばかりだ。

「わかってる、そんなことくらい!」

 つい、語気が荒くなる。わかっている、愛されていたことも、私が罪に感じる必要はないってことも。だからって、あんまりじゃないか。なんの罪もないのに殺されて、忘れ去られるなんて。それなら、全て私のせいにしてしまった方がずっと楽に思えた。
 だからこの道を選んだのに、どうしてこの人は、こんな風に私を諭すのだろう。私を一人の人間として扱おうとするのだろうか。哀れな幼い子供として、同情だけを向けてはくれないのだろうか。実際に、私はまだ10歳で、彼から見ればちっぽけなものだろう。それなのにどうして、目の見えない私と同じ目線になって、明るい道を歩ませようと、真剣に話そうとするのだろう。

「私も家族を亡くしていますが、忘れたことなんてありません。本当に愛した人なら、ずっと心の中に居るでしょう」

 妙に、重い言葉だった。彼の家族のことは知らないけれど、なんとなく空気でその重みが伝わった。

「だから、もう、いいんです。自分を傷つけるのは、やめなさい」

 目が、熱い。涙が止まらない。まるで生まれたての赤ん坊のように、泣きわめいてしまった。私は、許されていいの? 幸せになってもいいの? あの日のことを、過去にしてしまってもいいの?

「ポラリス、愛してるよ」

 再び呟かれた言葉と同時に、涙で濡れた瞼にキスをされた。ああ、もう、いいのか。

「わた、しも、愛して、る」

 ゆっくりと瞼を開けば、鮮やかな灰色が見えた。

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