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 ポラリスがここに来てから、3日が経った。その間、彼女は殆どの時間泣いているか、吐いているか、見えないだろう目でぼんやりと宙を眺めて過ごしていた。話しかけても涙を流すばかりでろくに会話もできず、食事を摂らせようにも一向に食べる気配がない。無理矢理口に詰め込んだ所で、本人に食べる意思がないのだから仕様がない。栄養を体内に流し込むくらい魔法でどうとでもなるだろう。しかしそれでは意味がないのだ。じりじりと侵食する焦燥感を振り払い、今日もそのまま残ってしまったスープを片付ける。焦ってはいけない、きっと声から、指先から、それとも眼差しからか、伝わってしまう。

「ポラリス、このまま何も食べなければ死んでしまうよ」

 ひゅう、と苦しげな息を吐いて眠る少女は、見るからに痩せこけて衰弱している。生きているのか死んでいるのかわからない程に肌は青白く、血管が浮かび上がって不気味ささえ感じさせた。できるだけ優しく、涙の跡を柔らかなタオルで拭う。泣き叫び大声で両親を求めたかと思えば、静かにはらはらと無表情で涙を流す。彼女の目から涙は絶える事は無く、視力を失った目でいったい何を見ているのかと考えずにはいられなかった。
 この3日間で傷も増えた。魔力の暴走はしょっちゅう起こり、暴れ、時には自らの手で自身を傷つけるのだ。先程また新しくできた腕の傷に薬を塗り、包帯を巻く。そこまで深い傷でもないが、動いて傷口が開くことも、むしろ自身で開かせることも考えられる。ずっと縛り付けておいた方が良いのかもしれないと思ってしまう程に、ポラリスの体は痛々しかった。暴れている時の力も、子供のそれとは思えない。気が触れてしまっているのだろうか、行動を制限してしまった方が安全かもしれない。正気に戻ったところで、家族が帰ってくる訳でもない。辛い現実しか待っていないのだ、受け入れるよりも拒絶している方が楽なのではないか。
 幼い寝顔を見て、首を振った。そんなことを望んでいる訳ではないのだ。
 そっと彼女の手に触れ、まるで子供のするように祈った。触れれば壊れてしまいそうなこの小さな体が、どうか朽ちることのないように。見た目とは裏腹に暖かいこの手が、再び幸せを掴めるように。いつの日か、笑顔を取り戻す日がくるように。握り返されることのない小さな手は、暗澹とした闇の底を進むには幼く頼りないから。
 目が覚めれば、彼女は再び涙を流すのだろうか。それでもどうか、受け入れてほしい。拒絶するのは簡単で、悲しみに浸っているのは楽だ。けれどもそこにあるのは虚無のみで、未来なんて見えもしない。どれ程辛く苦しくとも、必ず私が君を受け入れるから、どうか君は現実を、人生を受け止めて、前に進んでほしい。それがせめてもの、私の償いだろうから。

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