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 空を飛んでいるかの様に、ふわふわと意識が上昇する。また眠ってしまっていたのかと、ふと自分が嫌になった。まだ会ったばかりだというのに、嫌な所ばかり見せてしまっている。ああ、でも体がだるい、起きられそうにないな、などと考えていると、ふと、呟くような声が聞こえた。

「ポラリス、君が俺を嫌っても、俺はずっと君の幸せを願ってやろう」

 確かにそれは彼の声だった。凛とした、どこか含みのある声。聞こえていないと思っているのだろうか。
いや、そんなことよりも、どうしてこの人はこんなにも私のことを大切にしてくれるのだろうか。出会ってまだ少ししか経っていないのに。こんなに大切にされてもいいのだろうか。私はきっと、それには値しない。何もできなかった。私の為に、お父さんとタバサは死んでしまった。さらに視力を失うことで、見たくないモノに蓋をしてしまっている。あの時、私が死んでいれば、皆助かったのかもしれない。
 かといって、死にたい訳ではない。お母さんの最後の言葉を忘れた訳ではないし、文字通り、命がけで守られた私の心臓を、わざわざ自分の手で止めるなんてことはしない。ただ、死にたい程苦しいのは確かだった。

「レギュラス、さん」

 喉がヒリヒリする。こんな痛み、罰にしては軽すぎる。

「起きましたか」

 平坦ではあるが、優しい声だった。その優しさが、今の私には辛かった。

「何でしょう」

 こつり、と靴が床を叩く音が二つ、三つしたかと思うと、近くから声が聞こえた。

「あの、私、これからここで生活するんですよね。少し、この家を歩いてみたいです」

 本当に言いたい言葉は胃の辺りに留まって、口はすらすらと思わぬ形に動いた。

「そうですね、いいですよ。その前に軽く何か食べて薬を飲みなさい。終わったら、案内しましょう」

 手を出すように言われ、そっと出してみると、冷たい、硬いモノが触れた。コップだろう。そっと口元に持っていけば、匂いもしない。水だろうか。

「ただの水ですよ、毒は入ってません」

 かちゃり、と音をさせながら言う声からは、感情が読み取れなかった。彼を無愛想だと言ったのは誰だっけ、確かにそうなのだろうと納得した。

「スープを用意しましたが、食べられますか」

 水で喉を潤していると、不意に尋ねられた。

「はい」

 だいぶ、声はましになっていた。まだ少し掠れてはいるが、なんとなく安心する。

「そうですか。では、口をあけてください」

 なんとなく気恥ずかしいけれど、そんな事は言っていられない。見えないのだから、一人で上手く食べられないだろう。スープを口に含むと、それはちょうどよく冷めていて、するりと喉を通った。なんだか、綿の中に沈み込むかの様だ。こんなにも優しい。不思議なくらい。
 私にこの恩が返せるだろうか、と、四口目のスープを与えられながら考えた。

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