※「INTRO」のむっち様の手乗りよりとくんで漲り滾りまくった結果。 【マンドラゴラ永井くん、よっぱらう】 永井頼人。体高10.8cm(本人は11cmだと言い張る)。 沖田宏(31)独身の同居……人、ではなく、植物である。 種族はマンドラゴラ。インターネットで調べたところによると、マンドレイクとも呼ばれ、魔法薬の材料である架空の植物、らしい。架空どころか、沖田の前で元気に動いて喋っているのだが、ファンタジーな存在には違いない。 伝承によれば、その悲鳴を聞いた生物は発狂死してしまうという。……実際どうなのか気になるところだが、永井自身が沖田の前で叫んでしまわないように気を使っているので、これは確認しようがない。 そんな物騒な特技を持っているに関わらず、永井の容姿はたいそう可愛らしかった。 「おかえりなさい!」 テーブルの上で背伸びをした永井が、帰って来た沖田に大きく手を振って歓迎してくれる。この懐きっぷりが、また可愛い。 花が咲くような明るい笑顔を見ると、一日の疲れが全て吹き飛んでしまう……ので、最近の沖田は付き合いが悪いと評判だ。あれは女ができたんだと噂されているのも知っているが、否定するでもなく受け流している。 まさか、差し出し人不明で送られてきた株を育てたらそれが小人になったんです!!なんて本当のことが言えるわけがない。 「ただいま、永井」 永井の笑顔に釣られてにっこりと返事をすると、永井ははにかんだ風情で体を揺らした。うずうずと、何かを待っているような仕草が意味するところは知っているが、わざとゆっくりと上着を脱いで椅子の背にかけ、ネクタイを緩める。 そうして、今か今かと見守る永井の前でソファに腰を下ろすと、永井は待ちかねたようにテーブルの端から跳ねて沖田の胸に飛びついてきた。 「沖田さんー」 ずり落ちないように、沖田が下から掌で支えてやると膝立ちになり、へへへぇ、と嬉しげに笑いながらシャツの胸元に頬擦りしてくる永井は、サイズと、足首から先に生えているふわふわしたヒゲ根さえ無視すれば、短い髪の少しやんちゃそうな青年に見える。 そう、植物に雌雄があるなら、永井は雄株だ。下半身には小さいながらも成人男性らしい形状をしたナニがくっついているのを目撃したし、意外と低い声も紛れもなく男のものである。 だが、可愛いものは可愛い。 小さな背中を指先で撫でてやると、永井はくすぐったそうに身をよじって掌の上に尻餅をついてしまった。 「あー、沖田さんを満喫した」 感慨深げに言われて、なんだそれとつっこみかけた沖田は、中途半端に笑いを引っ込めて永井をまじまじと見つめた。 植物の癖に、一人前に羞恥心のある永井だが、人形の服は窮屈だと言ってハンカチを縫い合わせて作った膝丈のワンピース状の布を纏っているため、座った拍子に裾がめくれて太腿まで見えているのが、妙に……なまめかしい。 ―― いや、永井相手に何考えてんだ、俺。 己を叱咤しようとも、いったん持ちあがった不埒な思いは消えず、触れれば弾むような張りがありそうな健康的な脚から視線が外せない……と、永井は沖田の視線に気付くこともなく、腕を滑り下りてテーブルに戻ってしまった。 残念なような、ほっとしたような複雑な気分でシャワーと着替えを済ませ、いつものように永井と他愛のない会話をしながら食事をして(永井は水を飲むだけだ。たまに液肥のアンプルをやると大事そうに抱えて吸っているので、そういうところは本当に植物らしい)、食後に焼酎のグラスを傾けているところで、事件は起きた。 「それ、美味しいんですか」 「ん? 焼酎?」 訊き返すと、好奇心でいっぱいの顔にこくこくと頷かれる。大概は缶ビールの晩酌、そういえば永井は焼酎を見るのは初めてだったかもしれない。匂いはあまり気にならないらしく、興味深そうに覗きこんでくるのが可愛らしい。 炭酸水は嫌う永井だが、焼酎はほとんど水のようなものだ。もしかしたらいけるかもしれない、と悪戯心が湧いた。 「飲んでみる?」 「はい!」 差し出したグラスに目を輝かせた永井は、いそいそと寄ってくると表面張力ぎりぎりに傾けたグラスの縁に掴まり、躊躇なく口をつけた。水面に波紋が立って、小さな喉がくっと上下するのが見える。なかなかいい飲みっぷりだ。 見守ること五秒ほど、グラスから離れて息をする永井は、くりっとした目をしきりに瞬かせている。 「どうだった?」 「思ってたのと違ってました」 「好きな味じゃなかったかな」 「味っていうか……舌の上がぴりぴりして、変な感じ、っすかね?」 首を傾げながら、ケシ粒ほどの歯が綺麗に生えそろっている口から舌を出して見せてくるのが無邪気で愛らしい……というより、猫のような淡い桃色の舌がそこはかとなくいやらしい。 ―― だから、永井だぞ、永井。 邪念を払おうと深呼吸する間に、永井は沖田の手元を覗きこみ、「もう一口もらっていいですか」と訊いてきた。 「何かに似てるんすよね、この感じ」 「いいぞー、ちょっと待ってろ」 永井がふだん水を飲むのに使っているミニチュアのコップ……それにしたって永井の大きさに比べれば居酒屋のピッチャーぐらいはある……に、これも常備しているスポイトで焼酎を移してやると、永井は真剣な表情でコップを持ちあげ、勢いよく呑み干しはじめた。 ここが職場の飲み会で、相手が永井の外見年齢、二十歳そこそこの後輩だったら止めてやるところだが、植物に急性アルコール中毒もないだろう。 半分ほど飲んで、ぷはっと息をついた永井の頬は、先ほどより赤くなっている。 「うー……なんだろぉ、絶対、知ってんだけどなぁ」 ゆらゆらと体を揺らしながら呟く声も、微妙に呂律が怪しい。 「もしかして……酔ってる、のか?」 「なにがっすか?」 こちらを見上げる永井の目は、とろんと潤んでいる。紅潮した頬と濡れた唇から漂う、邪気のない言動や童顔とはアンバランスな色香に、知らず、喉が鳴った。 「もうやめとけ、な?」 なにやら越えてはいけない気がするラインの瀬戸際で踏みとどまった理性が働き、コップを取りあげようと伸ばした指先は「だめですー」と、かわされる。 「もうちょっとで、わかりそうなんですから……んっ」 止める間もなく、テーブルの端まで後ずさった永井は一気にコップの中身を呷ってしまった。 「うわっ……」 固唾を飲んで見守る沖田の前で、永井はコップを飲みほした体勢のまましばらく停止、それから、重力に従って下方に向かうコップに引っ張られるように崩れ落ちた。 「永井!?」 立ち上がった拍子に、まだ中身の入っている沖田のコップが倒れて手を濡らしたが、構っていられない。 慌てて体を摘まみあげた沖田の手の上、永井は真っ赤な顔ではぁはぁと短い息をしている。名前を呼んで揺さぶっても、身体に力が入らないようで起き上がる気配がない。 「えっ、どうしよう、水、水飲ませないとダメか」 それとも、永井がたまにやっているように水を張ったタッパーに全身浸けてやるほうがいいのか。 おろおろとうろたえる沖田の目の前で、永井は唐突にむくりと上体を起こした。 「永井、大丈夫か? 気持ち悪くないか!?」 「あつい……」 「水に浸かるか?」 「んー……ううん、いらない」 たどたどしい舌足らずの拒絶を返し、ゆるゆると首を横に振った永井は、ふたたびくたんと体を伏せて、両腕を沖田の中指に縋るように絡ませてきた。吐息が指の腹にかかるのが擽ったいが、取り落とさないように神経を使っているのでそれどころではない。 「苦しいのか、永井?」 「……んん、あつくて……根っこが、変かもぉ……」 「根っこ?」 はふ、と熱い溜息をついて、永井は緩慢に抱きしめた沖田の指に唇を寄せてきた。キスをするように押し当てたかと思うと、くすくす笑いだす。 「え? な、永井くん?」 動揺のあまり妙な呼びかけをする沖田を妙に艶っぽい目で見上げると、永井は血色を増した桃色の舌で、コップを倒した拍子に濡れてしまった指の腹を舐めた。生温かく、指先の神経が痺れるような官能を伴う感触に驚愕して、びくっと指を跳ねあげてしまう。 「あぅ」 指に縋ったまま、ずるずると崩れた永井は、今度は膝立ちの姿勢になって指に抱きつき、ゆるゆると体を擦りつけてきた。 「永井……?」 「んん……おきたさぁん……」 切なげに名前を呼ぶ上擦った声、微かに眉を寄せて口を半開きにした恍惚の表情は、後にも先にも見た事のないものだが、何を意味するかはよくわかる。ついでに、永井の細い腰が前後に揺れてしまっているのも……アレだ、アレ。指をつんつんとつつく固さがなんなのかも、それはもうよくわかる。 ―― 酔っぱらって、欲情してるのか? そんな馬鹿な、と打ち消そうにも、掌の上で喘ぐ永井の様子は尋常ではなく、それ以外考えられない。 マンドラゴラは酒が媚薬代わりになるのか。 「んっ……はぁ、あ……あぅぅ……沖田さん、つらいですぅ」 腰をしきりに沖田の指に擦りつけながら、ぐすぐすと涙声で訴えてきた永井が、茫然自失から沖田を現実世界に引き戻した。 「ど、どうした永井!」 「根っこの、付け根んとこがぐじゅぐじゅってしてぇ……んっあ、沖田さん、おれ、へんになっちゃってる」 根っこ。 永井の言う根っことは、足のことだ。その付け根ということは……。 結論が出たと同時、沖田は、これからの行動方針を一瞬で決めた。 「永井、じっとして?」 我ながら気持ち悪いぐらいの甘ったるい猫撫で声に、永井はふるふるとかぶりを振る。 「ん、だめ、ぐじゅぐじゅするの、とまんない……っ、きゅうってして……つらいよぉ……」 「大丈夫だいじょうぶ、俺に任せてくれれば切ないの治まるから。な?」 手塩にかけて栽培しているいたいけな植物に変質者もどきの声をかける三十路過ぎ独身男。ああ最悪。 冷静に自分を客観視しながらも、沖田の口角は隠しようもないほど持ちあがっている。 ―― だって可愛い子がえろいことになってるんだよ! そりゃもうしょうがないだろ! 良心や罪悪感はぽいぽいと捨てて心の底からこの状況を楽しむことにした今、迷いなど無い。 ある意味、男らしい決意を胸に、沖田は永井にしがみつかれている左手の中指を軽く揺らした。 「んんっ!」 途端に跳ね上がる永井の声、歯を食いしばって耐える表情に、はっきりと興奮を覚える。 右手の指先で背筋を撫でてやり、永井の力が抜けたところを狙って、脇を摘まみあげ、テーブルに甲をつけた掌の上にあおむけに転がす。 「根っこのとこ、俺に見せて?」 「やだぁ」 うつぶせになろうとするのを指先で押さえて止めて、「見ないと治せないだろ。ほら、めくるぞ」永井の服の端を摘まんで持ちあげると、なんだか途轍もなく悪いことをしている気分になる。 少年期の沖田は女の子の持っているお人形さんの服を脱がして喜ぶような悪ガキではなかったが、感覚的には近いかもしれない。 「おっと」 一度だけ、偶発的な事故で見てしまった永井の股間には、あの時とは様子が違い、薄赤く色付いたオスの象徴がしっかりと立ちあがっていた。ご丁寧にとても小さなコブが根元にふたつ、肌とあまり色が違わないため判りづらかったが、薄いヒゲ根が辺りに生えているのもわかる。 「ちっちゃくても立派だなー」 よくできてる、と感心して呟いた沖田の呼気がかかるのも辛いのか、永井は「ひっ」と声を裏返して身を縮めた。 「おっと……ごめんな。ちゃんとしてやるから」 そのまま触ると痛いかもしれない。テーブルに零れた焼酎を掬いとった指先でそろりと屹立に触れると、永井の腰がびくっと跳ねる。 「な、なに……?」 戸惑いの声は、沖田の指先が上下に擦り始めたことで、艶めいた喘ぎに変わった。 ぬるぬると、酒ではない液体で指の滑りがよくなるにつれて、あがる声も高くなる。さらに布をまくりあげて、突起物のないすべらかな胸も撫でてやると、永井は背をのけ反らせて啼いた。 「んあ、あっ、……んん、ぅ!」 「かーわいい声出すなぁ、お前……」 喉に絡むような自分の呟きを、どこか遠くに聴く。衣服を乱され、息を荒げて悶える永井から目が離せない。掌の上で身をくねらせる永井の素肌がしっとりと温かく湿って肌をくすぐるのも心地よくて、たまらない。 かわいい、いろっぽい――ヤりたい、と、脳のいちばん原始的な部分で本能が主張する。 いつのまにか責める指に両脚を絡め、自分でも腰を動かして悦がる永井を、組み敷いて手酷く犯しているような気分になって、沖田は口の中に湧きでる生唾を飲み込んだ。 「なぁ永井、気持ちいい?」 「いいっ、きもちぃ、おきたさんっ、ひゃふ、あ、おきたさ、の、ゆび……っ、気持ちいいよぉ……!」 どくんと、こめかみで鼓動が鳴った。切羽詰まった声に劣情を刺激されて下半身が重くなる……が、オスだとか異種だとか以前に永井相手ではどうにも発散しようがないのも理解済み、もどかしい気持ちで指先が狂い、力が籠もってしまった瞬間、永井は絡めた脚でぎゅっと沖田の指を締めつけ、ひときわ高い嬌声を上げて身を震わせた。沖田の指と永井の腹の間で、びくびくと脈打つ熱が、透明な液体を断続的に吐きだしていく。 「ふぁ、あ、あぁぁ……」 啜り泣きめいた声をあげて、くたりと弛緩した永井の手足が掌の上に落ちる。熱を持った本能に唆されて、呼吸に大きく上下する平らな腹と胸にまで飛び散った液体を指ですくい、口に含むと、少し青臭く、それでいてすっと清涼感のある味がした。 ―― 樹液かな、これ。 悪くない味だ。 「沖田さん……」 「……永井……大丈夫、か?」 永井が絶頂に達したのを見届け、こちらも幾らか冷えた頭……ただし腰の奥に未だ燻る熱はいかんともしがたい……で、弱った様子の永井を覗きこむと、こくんと小さく頷いたのに安堵する。 気だるそうに身を起こし、沖田の手からテーブルに下りた永井は湿ったワンピースの裾を下ろして体育座りのポーズになる。 顔はまだ赤いが、一発出してスッキリしたのか、もうひどく酔っ払っている様子はない。 「沖田さん……いまの、何ですか?」 「あー……雄しべと雌しべってわかるか?」 「交配に使う器官っすよね」 さらっととんでもないことを口走るマンドラゴラである。 「それな。今のは、永井の雄しべが活動してたってことで……あれ? でも根っこだっけ?」 うーん、と考え込む沖田を、永井はちょっと口を尖らせて睨みつけてくる。 「そうですよ! 根っこの根っこはすごく大事な場所だから、やたらと人に見せちゃだめだって株ン時に教わったっすよ!」 「でも、ぐじゅぐじゅしてつらいのは治っただろ? ……気持ちいいって言ってたし」 「ぅぐ……そ、それはそうっすけど……えっと……ありがとうございました……」 うつむいて、ぼそぼそと礼を言うのが可憐でいじらしく、きゅんと胸が高鳴ってしまった自分は本格的に変態だと思いながら、沖田は表情だけはにこやかに「気にするなよ」と請け合った。 どちらかといえば、かなり楽しかったし。 「でも、もう焼酎イッキは禁止な。危ないからな」 主に、沖田の理性が。 良識人ぶって言い渡すと、永井はもじもじとワンピースの裾を握り、上目使いに見上げてきた。 「あの、俺……沖田さんが助けてくれるなら……また、飲んでみたいです」 その後、沖田の週末の晩酌には必ず、永井用のコップと焼酎が用意されることになったのは当然の成り行きである。 (2013/03/07) 「そういえば、何に似てる味だったのかわかったのか」 「あ、わかりました。濡れたコンセント触った感じっす! あんな風にはなりませんけど」 「なるほど、感電か。……って、それ本気で危ないからやめろよ!?」 |