2016年の12月に書いたネタですが、書いたこと完全に忘れてましたね……。 なんだこれ……。 心の広い人向けです。
※絵で見たいですの心。 ※あほのこ注意。
『俺の自慢話を聞いてくれ。 大雨が降った翌日の話だ。 登攀訓練中にザイルを留めてた杭が抜けて、後ろにいた沖田さんを巻き込んで滑落、と、ありえない事故に見舞われたんだ。 しかしそこはさすがの沖田さん。 受け止めた俺を片腕でしっかり抱えてもう片方はザイルを放さずに綺麗に斜面沿いに滑り落ち、泥まみれにはなったけど二人とも打ち身を作った程度でおさまった。俺のバディはすごい人だ。 と、それだけなら俺の沖田さんへのリスペクトが増すだけで終わる話だ。 そうはならなかった。 沖田さんと折り重なって転がった時に、距離の近さを、泥と草いきれに混ざった沖田さんの香りを、見た目はちょっと心配になるぐらい細いのに体幹がしっかりしてる逞しさを意識してしまった。 それが良くなかった。 いつも通りの何気ない接触のたび、心の奥の方がざわつく。 嫌なわけじゃない。 音にするなら、たぶん、きゅんって高鳴ってるあれだ。ときめきってやつだ。
なんでだよ。
そりゃ沖田さんはかっこいいよ。いい男だよ。 俺が女子なら沖田さんに彼女がいないのはリサーチしたうえで、いや、いたとしても、沖田さんって自炊してるんですかァ週末一人なんですかァそれならアタシがごはん作りにいっていいですかァ〜?ぐらい言ってるよ。グイッグイ行くよ。 働き者で人当たりのいい沖田さんは土日祝日もなにかとほうぼうに呼び出されて、俺より若い陸士の面倒見たり地域のボランティアしたり、ついでに自衛官限定街コンとやらの司会もしてたの知ってるけど。 俺としては沖田さん狙いの女が群がるんじゃないかって真剣に心配したのに「ああいう場じゃ、三十路すぎたおっさんは空気だよ空気」なんて笑ってて、世の女どもの見る目のなさに心底感謝しつつ、でもそれってただの謙遜なんじゃないかなとか要らんことまで考えた。 ……いやいや、若さなら俺ぜんぜん負けてないけど、俺は女子じゃない。つまり沖田さんの恋愛圏外。 でもな? 圏外ってことはむしろ逆に警戒心を持たれず自然に接触を深められるってことでアドバンテージにもなり得るだろ? いやいやいや、なんで可能性について真面目に考えてるんだ俺。ねーから。それはねーから。
これは、そう、全身全霊で課業に打ち込んでからっぽになってる俺のアタマが、癒しを求めて暴走した、ちょっとしたエラーだ。 沖田さんを好きって気持ちは間違ってないと思う。 自衛官として、男として尊敬してるし、この命預けたいって心から思ってる。 ただ優しいだけじゃなくて、締めるところはきっちり締める、でも、むやみやたらに偉ぶるわけでもない、懐の広い、兄貴みたいな存在だ。 そんな存在へのあこがれが、ちょっとズレちまってるだけ。 そのうち、軌道修正できるだろう。 たとえていうなら、女の子がアイドルに恋するみたいな、そういう気持ちだ、たぶん。 ナントカくんが好き、大好き、結婚したい!!って目をハートにしてキャーキャー叫んでるけど、現実にはそうならないのはよくわかってる。 実に理性的な恋だ。 そうだ。 俺は、アイドルにガチ恋してる女子だ。今日からそう思おう。 そうと決めたら、心が軽くなった。 沖田さん好き!大好き!恋人になりたい! でも、具体的にどうするってのはねえな!ポスターあったら飾るし毎朝キスするぐらいかな!! だって沖田さんの恋人になれないって知ってるから、うしろめたさも遠慮もなく好きって思ってられるぜ!!!!』
『どうしよう。 珍しく深酔いした沖田さんが、俺の膝枕で寝てる。 こんな時、アイドルガチ恋女子ならどうする? ……だめだドキドキしてなにも考えられない。前髪が下りてると五歳ぐらい若く見えるんだよな沖田さん。 つまり俺が前髪を上げれば大人っぽくなんのかな? まあとにかく前髪下ろした沖田さんはちょっと可愛い。つつきたい。 ああ、さわりたい。撫でたい。 いや、スケベな意味じゃねえよ。周りに人いっぱいいんだぞ。 そもそも、ガチ恋女子は恐れ多くてそんなことしないだろ多分。知らないけどさ。 肉付きの薄い、シュッとして男らしい輪郭、優しい笑顔をつくる……薄くひらいて寝息たててる唇に、ちょっと指でさわるぐらいはいいんじゃね? いやいやいやいや無理無理無理無理、あごとほっぺた触るだけで心臓爆発する! こうなったら、沖田さんが起きるまで膝の上のぬくもりと重みを堪能するしかない。 この時間が、いつまでも続けばいいのに……俺のどきどきが、沖田さんの夢の中に響けばいいのに……とか、女子ならそういう感じだろたぶん!』
『うすうす気付いてたけど、俺は、対策を間違えた。 ガチ恋女子になりきってたら、芽生えたての双葉ぐらいだった恋心が、俺の身長ぐらいまでは育ってた。 だってもう、沖田さんを見るだけで、なんなら沖田さんのこと考えるだけで、きゅうんって切なくなってくる。 いっしょにいて、話してるとすごくうれしい、楽しい、大好きって気持ちがどんどん高まっていく。 離れると寂しくて、俺のことなんかただの後輩としか思ってないんだよな……なんて思うと悲しくなってくる。
ガチ恋だ。これは、どこをどうひねくりまわしても、ガチ恋ってやつだ。 俺は健康優良日本男児なのに、俺の恋心はキュン女子になってしまったのか。 むしろガチ恋男子なのか。 思わず、ツテをたどってアイドルのコンサートチケットなんか取ってる場合じゃねえよ。大丈夫か俺。』
『コンサート行ってきた……すごかった……。 キラキラしてた……。 アンコールで女の子たちと一緒になって泣いてきた……。 歌もいい。 恋する気持ちを励まして、諦めんな、って、応援してくれる。 そうだよなー! 可能性なくっても、恋する心はいつだって正義だし、間違ってないよなー!! 俺ファンクラブはいるわ。 あ、もちろん、一番好きなのは沖田さんだからな!!!』
『なんならフリも完コピしようと思って、俺の心のナンバーワン神ナンバー「いつだって君に全力」を踊ってたら沖田さんに見られた。 以前の俺なら恥ずかしがっていたかもしれないが、今の俺はむしろ憧れのアイドルと目が合ったキャーって気持ちだ。 「宴会の出し物か?」 「趣味っす!」 沖田さんにあいつらの良さを説明し、ついでにCDを貸した。 背が高くてオールバックにしてるタカミチが一番かっこいいんだって力説しといた。 五人の中じゃちょっと引いた立ち位置にいて、みんなのアシスト役って感じなんだけど、二階席のファンにもちゃんと目線をくれるし、踊りが正直あんまりうまくないマナブ、音感がちょっとだけ残念なユッタのフォローもよくしてる。 ソロパートの声の伸びはダントツだし、踊ってるときのターンなんかイケメンの放つキラキラオーラが目に見える気がする。 ライブDVDでもタカミチばっかり見てるぞ俺。 「永井がこういうの好きだなんて、意外だな」 「ハマったの最近っすからね。自分の方向性に悩んでた時に答えをくれたっつーか……」 「なんだ、水くさいな。悩んでたなら、俺に相談してくれよ」 「え、沖田さんには無理ですよ!」 思わず叫んだら、沖田さんは寂しそうな顔を……ああ!違うんです!! 「ガチ恋の話なんです」 「がちこい?」 「ええと……手の届かないアイドルに、本気で恋しちゃうって話です」 「……永井は、この……タカミチ、って奴が好きなのか?」 「や、断然タカミチ派ですけど、ガチ恋じゃないですよ」 「気になるな。参考までに、誰にガチ恋なのか聞かせてもらってもいいか」 なんでそこ食い下がっちゃうかなー。マジメな顔かっこいい……ってうっとりしてる場合じゃないなー。 「沖田さんには言えないです。……言えたら、悩んでないんで」 あ、沖田さんが露骨に『しまった』って顔してる。レアだ。ちょっと可愛い。 って、俺のせいだよな。フォローしないと。 「踏み込みすぎたな。ごめんな、永井」 「いえ! 沖田さんいっつも俺のこと見ててくれて、ほんと嬉しいです。男としてっつーか……人として本気ですごいって思います。 だから俺、沖田さんのこと好きなのも間違ってるとか全然思わねえし、それぐらい憧れてるんで! 誰かは言えないっすけど、沖田さんに隠したいわけじゃなくてケジメの問題なんで……心配してくれたのは、嬉しいっす!」 「…………あ、ああ、うん、ありがとう。そこまで持ち上げられると、さすがに照れるな」 俺の全力ヨイショにしばらくびっくり顔で固まってたけど、ちょっと茶化すみたいに笑ってくれた沖田さんはやっぱり優しい。 はー、これからも沖田さんにガチ恋していこう。』
『……なんだろう。 気のせいじゃないと思うけど、沖田さんの距離が前より近い。 なんか教えてくれる時とか、顔が近いし、手の甲を指が掠めたりとか、そういうの。 男同士だし、沖田さんだし、なんでもないんだってわかってても、頭がかーってなる。声震えそう。 心臓もたねえ。バクハツする。』
『うおおおお!!!??? 沖田さんが、あの、ちょっと待てよこれは夢か? 落ち着け永井頼人、平常心だ。 ……状況を整理すると、沖田さんが、すんごっく優しい、俺の骨という骨が溶けてばらばらになるんじゃねえかってぐらいの熱い目でこっち見ててだな。 「永井ががちこいしてるのは俺だって、うぬぼれてもいいか? それなら、俺も同じ気持ちなんだけどな」 ってだな、俺の手を……指絡めて握って……だめだ泣きそう……。 「永井。教えてくれよ」 「お……」 「?」 「おそれおおすぎて爆発します!」 「!?」
その場で沖田さんの指を全力で握り返して泣き出した俺を沖田さんがなんとかなだめてくれて、落ち着いた時には、沖田さんの手には俺の指の跡ががっちりついてた。 ……ガチ恋男子の本気の握力で握手して申し訳なかったなって、そんなどうでもいいこと考えてやっと、これ現実なんだって納得した。
それから、なんで俺が沖田さんのこと好きだって気付いてくれたんですかって訊いたら、沖田さんが本気でびっくりしてたんだけど。 あれかな。 目は口ほどにものを言うって聞いたことあるし、恋する女子のキラキラが俺からも流れ出てたってことか。
俺に希望を与えてくれたアイドルと、コンサート会場で声を枯らして叫んでたあの子たちに感謝だ……!』
※さらっと告白してることに最後までまったく気づいてない前のめり永井くんですよ。
あと途中で、沖田さんに抱かれて幸せ……!!っていう夢を見ちゃって、頭抱える永井くん入れるつもりでしたがはいりませんでした。
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