2013.06.19
【あなたに似てる人】 【たとえばそんな世界線】
「帰りたい場所のことをうんと強く思い描いて。大丈夫、きっと帰れるよ」 異界を渡り歩く少年がやけに訳知り顔でそんなことを言うので、永井は赤い波に身を投じながら、心を、全身の細胞を絞りきるようにして願った。 沖田が、三沢が、皆が生きていて、誰もころさずに済む世界に帰れますように、と。
願いは叶ってしまって、取り返しはつかない。
【case A. 沖田さんがマダオだった】
「永井、いつまで寝てんだよ。朝飯食わないの」 「……おきる」 スコップの呆れた調子に、ベッドに転がったまま答える。 開け放した窓のそとは真っ青な空、嫌になるくらい晴れた日曜日だ。 目を腕で覆い、動かずにいると枕元が軋んでスコップが座る気配がした。 「あんまり食わないし、寝ないし、どうしたんだよ」 「暑いから」 こいつは俺のことよく見てるなと感心しながら、短く応じる。 「去年は俺らがバテてんのに永井だけ元気だったろ。永井がそんなんだと、俺も調子でないしさ……悩みでもあんなら、話してくれよ」 気遣うことばの続きは予想がついて、耳をふさぎたくなった。 「バディなんだから」
この世界に、沖田はいない。
いない人間は殺しようがないのだから、たしかに願いは叶えられた。
<ここで寝た。>
もとは昨日のつぶやき。 ↓↓↓↓
並行世界で自堕落沖田さんと出会う本編後士長に再燃。 「元カレと俺ってそんなに似てる?」 愉快そうな彼に、込み上げる物を堪える。 「双子みたいです」 「そいつになってやろうか。なんて名前?」 「……宏さん」 「俺も宏だよ」 永井の表情を見て、沖田は手元のグラスを揺らし笑う。 「嘘じゃないって、ほんと」 「知ってます」
士長を財布扱い、阿部ちゃんとは違って自覚的にヒモやってるしょうもない沖田さんにしょんぼりしつつ、それでも仕草の端々にある面影に依存しちゃうとかね。 望んだ世界に行き着けなくても、生きてるだけでいいって達観したとこで悪夢がやってくる。 絶望エンドと希望エンドと維持エンド、どこにいきつくか。 うーん
****** 到:希望エンドかもしれない沖田視点きれはし。 ******
まだ21だという彼は、なかなか可愛い顔をしている。 言ってしまえば好み。 適度に鍛えられた体も、悪くない。 それでお小遣いもくれるんだから、当分、手放す気にはなれない。 // 死んでしまった恋人と沖田がどれほど似ているのかは知らないが……永井は瓜二つだという……、時折、なにかを探すような目でこちらを見つめているのは知っている。 なんとも健気だなと内心で笑っていたのに、いつからか、その眼差しに微かな苛立ちを覚えるようになった。 // 「宏さん……」 青ざめた頬と、目の下に浮かぶ隈に舌を打つ。腕を掴むと、永井はちいさく抗った。 かっと、怒りが脳を灼く。 「来いよ」 無理やり引きずり立たせ、「勘定!」カウンターにくしゃくしゃの札を叩きつけた。 「寿司屋じゃないのよ、うちは」 「居酒屋だろ」 「……その子のこと、ちゃんとしてあげな」 // 「お前のせいでオカマに説教されただろ」 「すみません」 「……謝るなよ」 悪いのは俺だろう。 そう怒鳴り散らしたい気分を押さえ込む。 「頼人。おまえ、『宏さん』にどんな負い目があるんだ」 「あなたには、関係ありません」 ひどく傷付いた顔で拒む言葉に、とうとう、理性が焼き切れた。 路地に引きずりこみ、壁に押しつける。 「お前は……!」 顔の横に掌をついて睨む沖田に、永井は微かな笑みを浮かべた。 「……もう、殴らないんですか? そんな気もなくなりましたか」 「……」 「宏さんにとって、俺は……俺じゃなくてもいい奴なんでしょう」 「いつ、誰がそんなこと」 「最初です。宏さんは『俺が代わりになってやるから、君も付き合ってよ』って」 でも、と、永井はひどく疲れた目で呟いた。 「俺にとっては、やっぱり違う人間だった。同じでも、代わりでもない、替えなんかきかない……嫌いになれたら良かったのに」 「永井」 「……違うところが、最初は嫌だったんです。だけど、違うから、一緒にいられるんだって気付いた。……違うから、違う風に好きになったんだって」 ずるずると、壁沿いに座り込んだ永井の目は乾いていたが、声は震えている。 「ごめんなさい。俺はもう、宏さんといられない。……あのひとのかたちをしたあいつが、俺を呼ぶんです」 聞きたくない。だが、聞かなければいけないことなのだと沖田は、本能で悟っていた。 「『俺を殺した癖に、ぬるま湯に浸かって虫が好いな』って。……俺に、そんな資格ないって、わかってたのに」 見上げ、沖田の表情を見て、永井は笑おうと唇の端を持ちあげたが、痙攣しただけに留まった。 「引くでしょう? ……この世界の法で裁けなくても、俺は、ひとごろしなんだ。だから」 「だから、今さら手を引けってのか。お前がワケありだなんて、最初っからわかってたよ。だから、付け込んだんだ。……けどな、俺は、俺のものをたかが夢如きに持ってかれるのなんか、我慢できねえんだよ」
<終わらない>
2013.06.30
ヘリが墜落し、瀕死の重傷を負った永井は意識を取り戻さないまま、夜明けを待たずして息を引き取った。 ……そして、動き回る死体と化して、起き上がった。 終わりのない悪夢じみた状況は、理性派をもって任ずる沖田にとって到底受け入れがたいものであった。だが、同時に、その冷静さが故に、沖田はこれが紛れもない現実であり、絶望的な状況であることを否応なしに理解していた。 おそらくは島全体を覆っている異変の中、脱出手段はなく、外部との通信もできず、弾薬は限られているが、敵は多い。……しかも、敵の大半は数時間前までの仲間だ。 そして、永井頼人だ。 どうしようもないとわかっているからこそ、三沢三佐とはぐれてからも積極的に合流する気になれず闇雲に歩きまわり……とうとう、見つけてしまった。 相手の視界を盗む、奇妙な異能を駆使し、永井を捕らえるのはそう苦労しなかった。 否、永井と呼んでいいものか。 白目を剥き、意味のない言葉を発しながらうろついては人間を攻撃する。これはもう、快活で負けん気の強い後輩じゃない。 可愛い、恋人ではない。 (……永井は俺の腕のなかで死んだ。) がちがちと歯を噛み鳴らす死体の上着をはだけ、腕を後ろ手に固定した。迷彩の布地がきしきしと悲鳴をあげる。動きはにぶいがたいした馬鹿力だ。 誕生日に買ってやった赤いTシャツを黒く染めた血はまだ乾いていない。 Tシャツの下、胸郭を貫通した傷は既に出血を止め、白く濁ったゼリー状に固まっていた。傷跡が残りやすい体質の永井の肌には細かな痕が至るところに散っていたが、胸はきれいだったのに。 不憫に思いながら、赤く汚れた胸に手を這わせ鼓動がないのを確かめていると、肺のあたりが膨らんだ。 ひゅう、と永井の喉が鳴る。 「お…ぎた、さん」 成る程、声を出すには呼吸が必要だ。しかし、死体になっても沖田を認識できているとは。 急に笑いの衝動が込み上げてきて、目の前が滲む。 ―― 俺は何をしているんだろう。 「永井」 歯を食い縛り、口元を歪め唸る血の気のない顔を覗きこむ。 「俺がわかるなら……お前は永井なんだよな?」 永井は答えない。しきりにもがいて沖田の手から逃げようとするだけだ。 「逃げるなよ」 嘆きとも苛立ちとも、よろこびともつかない感情のまま、永井の血に濡れた指を冷たい頬に擦り付ける。 「俺を、置いていくなよ。永井」 ただ、繋ぎ止めたかった。 これは俺の愛した永井なんだと、自分を納得させたかった……それならまだ、喪失感に苦しまずに済む。 沖田は身勝手を胸中に詫びながら、永井の装備を解き、ベルトに手をかけた。
*******
というあたりから屍人姦をやらかす沖田さんを見たいなって思ったの。
2013.07.17
【よりずきんちゃん。】
「沖田さんはどうしてそんなに肌が白いの?」 「暗い場所でも見つけやすいだろ」 「どうして着物を着こんでるの?」 「抱き締めた時、お前が寒い思いをしないようにね」 「どうして笑ってるの?」 「永井がいて嬉しいからさ」 「どうして体が冷たいの?」 「すぐに、気にならなくなるよ」
もういいだろうと引き寄せる狼は、やけに赤い口をおおきく開いて牙を見せる。 突き立てられるまえに、もうひとつだけ、言っておきたかった。
「大好きです」
籠のなかに隠してきたTNTを掴んで、沖田さんの口に押し込んで信管を作動、冷たい体にぎゅうっと抱き着く。 沖田さんが何か言って俺を押し離そうとしたみたいだけど、聞かないで腕に力を籠めた。
たしかに、すぐに気にならなくなった。
2013.07.22
【幸せの定義】
生前→ 「へへっ」 わけもなく笑いが込み上げてきて、永井は沖田の肩に頬を擦り寄せた。 「ん?」 つられて微笑んだ沖田が、どうした、と問うように髪を撫でてくる感触が心地よくて、身体がふわふわと浮き上がりそうだ。 「俺…沖田さんといられて、幸せです」 「…俺も」 こめかみに口付けられて、擽ったい多幸感に目の奥が熱くなる。 こんなに誰かを好きになって、幸せだと心から言えて、これ以上なにが必要だろう。
死後→
喘ぎ続けた喉が渇ききり、ひりついていても、涙は流せるものらしい。血臭の纏わりつく舌が涙を舐めとり、甘く囁く。 「俺といられて、嬉しいよな」 挿入ったままの雄に強く突きあげられ、腰が跳ねた。絶えず与えられる痛みと過剰な快楽とが永井の思考を散らし、大事なことも辛いことも忘れさせていく。 「おきたさっ…あっ、ん、あぁ!」 名前を呼んだ途端に抽送が深くなり、たまらずに反らした背を強く抱かれる。その腕にも、火照った肌に触れる僅かに乱れた呼気にも温度は無いのに、吹き込まれる沖田の声と体の奥を繰り返し苛むものに熱を感じては喘ぎ、涙を落とす。 「幸せだろ?」 「ひっ…ぅ」 腹の奥で弾けた白い痺れが脊柱を駆け上がり、思考を灼いていく。 「なぁ、永井。幸せか?」 どうして幾度も同じことを訊くのか。恋人とふたりきり、幸せに決まっている。答えようとわなないた唇からは、末期の悲鳴に似た嬌声だけがあふれた。 途方もない解放感と失墜の目眩を伴って脈打つ熱を放つ。絶頂にうねり、搾りあげる永井のなかを深く穿った沖田も、身を震わせて種を吐き出したようだった。 快楽の余韻に末端まで麻痺したよう自由の効かない体をきつく抱き締められ、二、三度と揺さぶられて、唇からは単音の喘ぎと飲み下せない唾液が零れる。みっともない、とどこかで羞恥が湧いたが、体の内側も外側も溶け出したように体液にまみれて濡れている。 今さらかもしれない。 荒い息をなんとか調えようと唾を飲み込み、永井は暗闇に目を凝らした。幸悦に焼かれたように、沖田の顔がどうしても見えない。 血と泥と火薬の匂いと甘く濁った汗に滑る手指でつめたい肌を探り、永井は沖田の頬に触れた。彼は笑っているようだ。 きっと、幸福なのだろう。永井も笑い、掠れた声で囁いた。 「おれは、しあわせ、ですよ」 沖田といられるなら、他に何も、必要ないのだ。
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恋人だったこの殻に抱かれている、愛し合っているつもりなのか、狂ったように喘ぎ、腰を振る人間はひどく滑稽で、哀れなものだ。 ……同時に、苛立ちを覚える。 都合の良い幻想に逃げ込ませず、身も心も『自分』の物にしたいと、欲が動く。 殻の持つ薄汚い『人間性』に汚染された自覚はあるが、一度生まれた執着は消すことなどできない。 ひときわ甘い声をあげ、達した人間のなかに精を放つ。もう幾度となく注いだが、まだ足りない。飽き足らない。 痙攣する身体を抱き締め、自分のものだと主張するように中を掻き回す。既に、深手を負い、闇人の体液を受け入れた内部から侵食は始まっている……このまま、こいつを『変えて』しまえば、自らの意思で求めるようになるだろう。 現に、そうなりつつある。 腕をゆるめると、いくらか落ち着いたらしい人間がみじろぎ、濡れた指で頬に触れた……力のない、本当に接触するだけの触れかただというのに、皮膚が痺れるように疼いた。 「おれは、しあわせ、ですよ」 いとけない微笑をむけられ、殻のどこともつかない、深い場所がきりきりと締め上げられる。 ―― 沖田さんといられて、幸せです。 欲しかった言葉、欲しかった表情が手に入ったのに、永井の指先にはもう、温度がない。 光がさしても、その目はなにも映さないだろう。冷たい闇が宿った時、人間だった頃とはまるで違う景色を見るにしても。 「永井」 永井の反応を引き出すためではなく、言葉が滑り落ちた。 ―― ごめん、ごめんな。 ―― こうするつもりじゃなかった。俺はただ、お前を。 瞼の下から、無意味な液体があふれて、色をなくしかけた永井の顔に滴り落ちる。せっかく似合いもしないペイントを落としたのに、黒く汚れてしまう。 殻を軋ませる苦しさを堪え、沖田は永井の手に掌を重ね、指を絡めた。 「俺も、幸せだよ」 鮮やかに笑い、目を閉じた永井のこめかみに、瞼に口付け、抱き締める。 彼が眠り、目をさますまでそうしていたかった。
ついろぐ。
▼人沖×屍永 8/2 「沖田さん……」 喉から空気が漏れるような軋んだ声音のなかに、快活な甘えの面影を感じて、沖田は硬い体をいっそう強く抱き寄せた。血と泥とでごわつく髪を撫で、冷たい額に口付ける。 「いっしょ、にぃ……いきましょぉ……」 「ああ。俺達はバディだもんな」 撃鉄を起こし、こめかみに銃口を押し付けても永井は笑っている。
……肩の後ろに突き立てられた銃剣を引き抜き、沖田は重い息を吐いた。 脈打つ痛みは不思議と遠い。どうせなら心臓を貫けば良かったのに、永井は詰めが甘い。 「また後でな、永井」 ぼやけた景色を瞬きで払い、沖田は戦場のような地獄へと戻った。
//からの、沖闇永あると思います(キリッ
2013.08.05
ツイッターの140文字SS+αちょろっとまとめ。 他ジャンルも入ってるけど気にシナイ!!
▼人沖×屍永 抱き締めて愛してやれば命を移せると、馬鹿げた夢を願った。 「ぉきた、さ…」 「そうだ。永井、俺だよ」 濁った呻き声に交ざりあどけない呼び声が零れるたび髪を撫で甘く応じては、強張った頬を汚す血を舌で拭い、苦い唾を臓腑に送る。 この命を彼に返せないならいっそ余さず喰らいたかった。
▼闇沖屍永 殻の強度も考えず滅茶苦茶に暴れるのでやむなく縛り上げ、猿轡も噛ませたのがご不満らしい。 永井はしきりに唸ってはもがく。強引に抱き締め、頬を啄ばんでも記憶のように笑わない。 「可愛がらせてくれよ、なぁ」 躾けるのは手間がかかりそうだが、可愛い恋人なのだから仕方ないと吐息した。
▼オキ永 オキタの髪の先から落ちた雫が永井の肩に斑模様を描いた。湯上りの匂いは好きだが、これはいただけない。 腕の中で強引に身をひねり、タオルを奪って乱暴に拭ってやる。 「ナガイ」 両腕で抱き着く格好は不可抗力なのに、嬉しげな笑みを向けられて諦め、水浸しにされることにした。 (…夏だし、いっか)
▼沖田さんと永井くんがお仕置き受けるって殻麦さんが言うからぁ ※いろいろ混ざってる。 「罰なら俺が受ける! 永井には手を出すな!」 「沖田さん…!」 緊縛もとい拘束された体で、永井がたらこに凌辱される様を眺めることしかできない沖田。 しかしそれは母胎の巧妙な罠だった。恋人の目前で白い軟体になぶり尽くされる恥辱の中、望まぬ快楽に溺れる永井。 「見ないでくださ……、ひぁあっ、んぁ、沖田さん……!」 泣き叫ぶ永井の懇願が嬌声に代わりはじめ、悶える肢体は誘いの媚態にしか思えなくなる。 いつしか沖田は息を荒げ、前を固くして淫靡な光景を食い入るように見つめていた。 無数の闇霊に纏わりつかれ、人外の悦びに咽ぶ永井の痴態が理性を焼き焦がし、気が遠くなるほど長く感じた凌辱が終わり…解放された永井が、肌を白濁に染めてふらりと沖田に近付く。 「おきたにそう…自分、おきたさん以外で気持ちよくなって…いっぱいイッちゃいました…わるいこのおれに、おしおきおねがいします」 異様に白い肌で妖しく笑う永井から、目が離せない。(条件未達成)
という光景が脳裡をよぎりましたが夜見アケビの幻覚ですねきっと。
2013.09.08
※後天性女体化な永井くん。 ※めそめそしてる。 ※苦手な人は回れ右。
カーテンの隙間から、青く晴れた空をぼんやりと見上げていたら、目の奥が痛くなってきた。 タンクトップにショートパンツという寝ていた時の格好のまま、洗面所に顔を洗いに行く。 洗面台に並ぶシェービングクリームや整髪剤は、沖田の愛用の品だ。顔を洗うために頭を低く下げると、鼻先で沖田のにおいがした。 顔を拭い、少し躊躇ってから、永井は整髪剤のボトルを取り、ほんの数滴を掌に垂らした。 ……沖田の髪から香るものより、鋭く尖った感じがする。戯れに、自分の前髪を後ろに流すように撫で付けてみる。体温でほどける仄かな香りは沖田のそれに近いたような気がした。 満足して寝台に戻り、ぱたりと倒れる。いま、沖田の部屋にいるのは永井だけだ。 ひょんなことで肉体的には女になってしまった永井を匿ってくれた沖田にはとても感謝している。 が、昨夜のことをどう捉えれば良いか、はかりかねている。 抱き締められ、愛していると言われ、押し倒された。あとは、ベッドで男女が揃えばお決まりの展開だ。 ……今の永井が沖田にしてやれることなんてほとんどない。こんな身体で良いならと、抵抗はしなかった。 「俺でいいんですか」 「永井が欲しいんだ」 苦しげに告げる沖田が可哀想になって、キスは自分からねだった。快感を与えられて女のように喘ぎ、痛みに呻き、未知ではあるが意味は知っている感覚に従い、悦がりもした。 それもこれも、沖田は共に寝起きするおんなの肢体に欲情したのだと判断したからだ。 沖田も男だ。愛を囁いたのは、優しい彼なりの誠意なのだろうと、却って申し訳ない気分になったぐらいだ。 しかし、永井のなかに放つ寸前、譫言のように言われた。 「ずっと、こうしたかった……ずっと好きなんだ、永井。ごめんな」 振り絞るような声は泣いているとも笑っているとも判じがつかぬまま、永井は内側を深く貫かれ注がれる感覚に流されまいと沖田にしがみついていた。 あれは、単なるリップサービス……では、なさそうだ。 沖田の言う「ずっと」とは、永井が女になってからの期間を指すものではあるまい。 同性だった時から、肉欲を含む恋情を持っていたのだと解釈するのが自然だ。 人格者として誰からも慕われる穏やかな沖田が。永井が尊敬し憧れていた沖田が、永井に恋慕していた、と。 不快ではない。 幻滅もしない。 永井は沖田に対し、人間として深い好意を持っていた。好かれていたとなれば、優越の混ざった、誇らしささえ抱く。 ただ。気付かれているだろうか。 永井が沖田に、いうなればひとりの男として恋をしたのは昨夜のことだ。 逞しい男の腕に抱かれ、愛されていると実感した瞬間だ。 全身が溶け出すような多幸感に、目眩がした。それは、女としての永井の気持ちに思える。 沖田が幾度となく口にした励ましの言葉「そのうち、元に戻るよ」……それが実現してしまったら、永井はもう沖田の想いに応えられないのではないだろうか。 沖田は男の永井に惚れていたのだから、元に戻ってほしいと願っているのだろうか……それはそうだろう。 今の永井は仮初めの、偽物だ。沖田は女を抱けるのだから、まるきりの同性愛者ではないのかもしれないが、すくなくとも、沖田が恋をした時の永井ではない。 永井は、戻りたいという願いも焦りもすっかり薄れている。 このまま、沖田と暮らしていきたいというのは、虫の好すぎる願いだとわかっていても。 「沖田さん」 呟いた声は掠れて、涙の匂いがした。
※沖田さんは永井くんが女の子になってしまったことについて何か心当たりがあって後ろめたいから「ごめんな」なのであり、性別はあんまり気にしてないというか永井ならどっちでもいいし、この状況では永井は自分に頼るしかないのでそれが嬉しい……というのは卑怯に思えてそれも「ごめん」なのだが、永井くんにはその判断材料が与えられない。 健全男子の永井くんにはその発想がなかっただけで、ちゃんと沖田さんのことは好きなので、男に戻ったところで気持ちが消えることはない。 お互いの微妙なすれ違いや溝がなくなったら、目も当てられないバカップルになりますね。
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