2013.08.05
ツイッター140文字SS

▼供一
「あぁ疲れた」
 連隊長の顔はどこへやら、ぼやく一藤に威厳はない。
「俺もトシかなぁ」
 肩に寄りかかる重みに頭を傾ける。
「代わりましょうか?」
「お前にゃ務まらねえよ」
「でしょうね。俺は、あなたが一番大事ですから」
 連隊長より、甘やかす役がいい。
「馬鹿たれ」
 増した重量が嬉しかった。


◆Twitterお題◆
>あなたは20分以内に6RTされたら、6才×18才の設定でキスから関係が始まる供一の、漫画または小説を書きます。 http://shindanmaker.com/293935

6RTはないけどリプいただいたので!!

↓↓↓

 一藤家の隣に、赤ん坊を連れた一家が越してきたのは、一藤二孝が小学校六年生のときだ。
 引っ越しの挨拶に訪れた若夫婦のお嫁さんは、とても綺麗な人だった。にっこりと微笑みかけられてぎまぎして、勢いよく頭を下げる一藤を見た母は、「こんにちはくらい言いなさい」と叱ってきたが、声なんか出せなかった。
 物心ついた時から、一藤は美人に弱い純情少年だったのである。
「二孝くん、うちの子と仲良うしてやってね」
 やわらかな西の訛りで紹介された赤ん坊も、きれいな顔をしていた。一藤と目が合うと、あうあうと嬉しそうな声をたてて手を伸ばしてくる。
 小さなてのひらにおそるおそる差し出した指を、思いがけないほど強い力で握られる。その暖かさとやわらかさに誘われて笑みを浮かべた一藤を、赤ん坊はやけに哲学めいた目でじっと見つめていた。


 現在、高校三年生になった一藤の部屋に、その時の赤ん坊がいる。
 もちろん五年ぶん成長して、幼稚園の年長さんだ。一藤から見れば豆粒のようなちびっこだとはいえ、月日が経つのは早いものだなぁなどと思ってしまう。
 今でもじゅうぶん美人な隣の奥さんは共働きなので、留守番の子を不憫がった一藤の母が「うちの愛想のないムサいのより可愛いから」と預かってくるのはよくあることだ。
 ところが、今年で六歳の男の子はおやつを与えて可愛がる一藤の母より、“愛想のないムサいの”になついており、にいちゃんにいちゃんと慕ってくるのである。
 『二孝くん』が言えないので『にいちゃん』なのだが、一人っ子の一藤にとっては年の離れた弟のようでたいそう可愛く思える。
 しかも、六歳の男子なんぞ、部屋を踏みあらし理不尽に叫び出す怪獣のごとき存在に決まっているが、この子は『にいちゃんはお勉強してるから』と、床に寝そべっておとなしく絵を描いているいじらしさ。
 受験生という身分ながら、一藤のほうが構いたくなってしまうのは、仕方がないというものだろう。
 いい息抜きにもなるし、と自分に言い訳して、一藤は参考書に鉛筆を挟んで閉じ、床に広げられた落書き帳を覗きこんだ。
「ともくん、なに描いてんの」
「およめさん」
 両手で落書き帳を持ちあげ、見せてくるのは、言われてみれば白いドレスを着た人間のように見える。
「へえ、上手いなぁ」
「日曜日、結婚式に行ったの」
「ああ、それで出かけてたのか」
 めかしこんだ一家が慌ただしく出ていくのを、早朝のジョギングに行く時にちらりと見かけた。
 奥さんのドレスアップ姿は様になってたなぁなどと考えていると、ともくんにシャツの裾を引っ張られる。
「にいちゃん」
「どした?」
 一藤を見上げるともくんは真剣な顔つきで、赤ん坊の時と同様、えらく哲学的な、深い色の目をしている。
「にいちゃん、とものおよめさんになってくれる?」
「およめさんー? おむこさんじゃなくてか」
 こっくりと頷き、「ともがおむこさんになるからね、にいちゃんはおよめさんになって」わざわざ年押しをしてきたのには、吹き出してしまった。
 わけもわからないまま、ごっこ遊びをしたくてたまらないのだろう。年齢のわりに発想が幼いようだが、体が小さくて女の子のような顔をしたともくんには、おままごとが似合ってしまうから可愛くて困る。
「俺はお嫁さんにはなれないぞ、男だからな」
「……やだ。なってよ」
 からかうと、とたんに目を潤ませるのがまた可愛い。
 一藤は床に座り込んだ足の間にともくんを抱き寄せた。好きな飲み物は牛乳だという彼は、甘く乳臭い匂いがする。
「なんで俺がお嫁さんなんだよ、ん?」
 普段ならおとなしくされるがまま、一藤の脛や腰に乗って腹筋背筋のウェイト代わりになってくれるともくんは、一藤の腕の中でもがき、膝立ちになって正面から首ったまにぶら下がってきた。
 顔は可愛くてもさすが男児、油断すると首の筋をどうかしそうなほど力が強い。
「あいってて、首折れる、いっちまうからちょっと離せ」
 引き剥がすと、ともくんは不服そうに口をとがらせ、ちょっと据わり気味の上目で睨んでくる。
「ともはにいちゃんを、やめるときもすこらかなときも愛します」
「すこやか、だろー」
「すこやかなときも」
 言い直し、ともくんは厳粛な面持ちで付け加えた。
「愛しますは、大好きがつよくなったやつだから」
 仮面ライダーBLACKがBLACK RXになって強くなったんだよ、と同じ言い方である。
 あまりの不意打ちに、もとからこらえる気のなかった笑いが決壊し、一藤は爆笑しながらともくんごと仰向けに倒れた。
 おかげで頭を床に打ちつけたものの、笑いが止まらない。勉強したばかりの中身がこぼれてなければ良いが。
「そ、そっか、大好きの強いやつか。そりゃすごいな、強いつよい」
 おとなしいともくんをぴったり抱きつかせたまま、ようやく笑いの発作を治め、滲んだ涙を瞬きで払いながら褒めてやる。
「強いから、およめさんになってくれる?」
 まだ諦める気がないようで、ともくんはどこまでも食い下がってくる。
 一藤は、ともくんの柔らかな髪をくしゃくしゃと撫で、転がったままで頷いてやった。
「わかったわかった、俺はともくんのお嫁さんだよ」
 請け合ってやったとたん、ともくんはそれまでの哲学的な……緊張した表情を解いて、にこりと笑った。
 つられて笑った一藤の体を這い上がるようにして、ともくんが素早くキスをしてきた。
 口に。
 思い切り、べったりと押し付けられた。
「ちかいました!」
 やってやったと大変満足げでいらっしゃる。
「おっ……前なぁー!」
 さりげなくファーストキスだが、六歳男子は完全にノーカウント、それよりこの子の将来が心配である。
 得意げなともくんを転げ落とすつもりで、腹筋を使い起き上がると、案に相違してともくんはしっかり抱きついて離れない。
 楽しげに笑い声を立てる子をぶらさげて立ち上がり、その場でぐるぐると振り回す。ますますはしゃぎながらしがみついてくる子を抱き締め、「こーの、離さないと俺もちゅーしちゃうぞ!」おでこやらほっぺたやらにキスを仕返してやった。
「やーだぁ」
 ともくんのほうはすっかりテンション高く、一藤の耳のあたりを片手でおさえて、再び唇を狙ってきたのは避ける。
「ともも、ちゅーするの!」
「口はやめなさい、口は。誓いのキスは一回だけにしないと、嫁さんになるのやめるぞ」
「えー……」
「やめちゃっていいか?」
「駄目。にいちゃんはとものおよめさんー!」
 泣きそうな声でぎゅうと抱きついてくる子供の邪気のない愛情表現に、一藤はほがらかに笑い、甘いにおいの頭のてっぺんに思い切り頬擦りをした。



 ……なにもかもみな、懐かしい。
 現在、一藤の部屋で似たような状況が発生しているが、 流れた歳月はともくんから愛くるしさを奪い、引き換えに、逞しい胸板と鋭い目付きのハンサム顔を与えた。
 乳臭さなどとうに消え去り、コロンでも使っているのか清涼感と微かな甘さのある、洒落のめした匂いがする。生意気な。
「一藤さん……」
 状況から逃避する思考をなじるよう、色気のある低音で囁かれて、首筋が総毛立った。
「供、ちょっと落ち着こうや」
「落ち着く? 無理ですね。あなたがあの時のことを覚えているなんて思っていなかった……俺はあなたと恋人になれたと思って幸せだったのに、あなたにとっては遊びでしかなかったと気付いてどれほど落胆したか」
 台詞だけ聞くと一藤が犯罪者のようだ。
 が、しかし、現在進行形で(元、という但し書きがついた)ともくんによりベッドに押し倒され組み敷かれている状況、被害者は明らかに一藤である。
 ことの発端になった『およめさん』の絵は、折れ目がつき、紙の端は黄ばんで古びてはいるが鮮やかな色を残して床に落ちている。
 実家に帰省した時、ともくんに「ちかいのあかし」として渡された絵を見つけて懐かしさのあまり持って帰り、当事者である供に見せてやって、なぜこうなるのか。
 迂闊にも「ここまで独り者で来ちまったし、お前に約束を果たしてもらっても良かったかもなぁ」などと軽口をたたいたのがきっかけだったのは、間違いない。
『俺は今からでも、誓いを果たしますよ』
 目の据わった供に迫られ、後ずさった先がベッドだったのは不幸中の不幸だ。まさか、供のほうは本気で……未だに、気が変わっていなかったなんて、思いもしなかったから言ったのに。
「俺はあの日、人生の幸福と絶望を味わったんです」
「だからって、根に持つなよ……俺を見ろ、もう完全におっさんだ。お嫁さんにしなくて助かったろ?」
「いいえ」
 幼なじみとしても、上官と部下という立場にしても、不適切な至近距離でハンサム顔が鮮やかに微笑んだ。
「病める時も健やかなる時も愛し続けると誓ったでしょう? あの時も今も、俺の気持ちは変わりませんよ……ますます、高まるばかりだ」
 高まっているのは気持ちばかりではないようで、密着している腰のあたりに当たる固いものがなんなのか、知るのが恐ろしい。
「あなたは俺のお嫁さんです、二孝さん」
 なってよ、でも、したい、でもなく断定ときた。
 強くなりすぎだ。
「いいか供、それにはひとつふたつ、問題がある」
「なんですか」
「まず、俺は男だ」
「それでもいいと承知しましたよね」
「それ、ごっこ遊びの話だからな」
「往生際の悪いことを」
 どっちがだ。お前ついさっき、遊び扱いされててショックだったって言ってたろ!ごっこ遊びなのわかってただろ!
 と、突っ込むと非常に面倒くさい展開になりそうなので、次に進むことにする。
「……それと、俺はお前を……」
「俺を、なんです?」
 言いよどむ一藤を見つめる供の目が、ふわりと優しくなる。普段は寡黙ながら、一藤の心を読み取ったかのように意を汲んで動く彼の、背中を預けられる安心感を与えてくれる眼差しだ。いたたまれずに、目を逸らした。
「……愛してない」
「嘘つきですね」
 甘ったるい囁きに、どうしてこうなったと天を仰ぎたくなって、目を閉じる。
 確かに嘘だ。
 供のように、子供の時からずっと、ではないが、一藤にとって供は少なからず、特別な存在だ。今こうなって、言葉では抵抗するものの身体の力が抜けきってしまっているぐらいには。
「どうしてそんなに悪食なんだよ、お前は」
「あなたが可愛くて美味しそうだから」
「もう喋るな」
「了」
  もともと、口を動かすよりも行動のほうが得意なやつだ。
 押し倒されて殴り飛ばすなりカニ挟みなりで逆襲できなかった時点で、一藤が抵抗しないのも見抜いていたのだろう。迷いの一切ない手つきでてきぱきとコトを進める供は、それと分かるほど浮かれた風情である。
 何をされるのか恐ろしいような、熱を移されてしまいそうな、微妙な気分で溜め息をつく。
「誓いは一回だけ、でしたよね。ですからこれは、ただの愛情表現です」
「そんな詭弁が……んむ」
 発言を禁じた矢先、さっそくの命令違反を咎める声は、重なる唇に封じられる。
 二十年近くこじらせてきた愛情の濃さと重さを、部下の手で身体に教え込まれる稀有な体験の、これがはじまりであった。



******

以上、初書き供一でした。

シロさんRTありがとうございました!

超展開だっていいじゃない、びーえるだもの。
orz いやんもう、スミマセン。

お供さんはいわゆる強引スーパー攻様も似合うんじゃないかなーwなどと妄言を吐いていた結果がエピローグなので、いつもの、残念な沖田さんを丸めた雑誌や新聞紙で張り倒すお供さんは、もうちょっと可愛げのある純情むっつりすけべのはずです。

はずです!



2013/09/23 17:44
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