ああ、うん……入れ忘れてたんだ……ごめん一樹……。

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一樹誕生日スルーしてしまた\(^o^)/ワー!

【誕生日スルーされた観測者】 (2013/02/24)


『お前って誕生日いつだっけ?』

 かれこれ3ヶ月前に、一樹が永井から受けた質問である。
 2月23日である旨は即座に伝えた。
 永井は根っから体育会系の男ではあるが、頭の回転はそう悪くないし記憶力も良い。ましてや、同性というハンデを越えて恋人として交際している間柄、なにかを期待してしまうのは当然だろう。
 前日からそわそわと落ち着かず、23日はいつ永井から連絡が来ても良いようにと仕事場のトイレに行く時ですら携帯を身体から離さなかった。
 だというのに。
 永井からの電話どころかメールすらないまま、一樹にとってだけ特別な1日は無情にも過ぎ去ってしまった。
 24日の午前零時を回り、ネットでのオカルト的な噂収集も一段落ついたところで……残念ながら目新しい情報はなかった……、ようやく、一樹の携帯はメール着信音を鳴らした。
 コンバットマーチ、永井専用のメロディに思わず飛び付いて画面を確認する。
『いま、家にいる?』
 一行の文面に、二文字で『いる』と返す。
―― だったらどうなんだ。
 フラップを閉じて溜め息を吐き、服のままベッドに転がる。暦の上では春の夜、寒気は一樹の心まで冷やしていくようだった。
 そして、うとうとと意識が遠のきかけたところで、携帯が再度、着信を告げる。今度は通話、画面には『永井頼人』の文字がある。
「もしもし」
『ドア開けてくれる』
「……え?」
 低めた声の要求に、幾度か瞬く。
 まさか、と一気に目が覚めた。
「待ってて」
 さして広くはないワンルームマンション、すぐ辿り着いた玄関の扉を開くと、厚手のダッフルコートを着込み、鼻の頭を赤くした永井が滑り込んできた。
「こっち寒すぎるんだけど、ありえなくない?」
「……おつかれ」
 そう。永井が暮らす駐屯地と一樹の拠点は気候が違う。飛行機で二時間、新幹線で四時間程度の距離がある。
「なんで、こんな急に来たんだ」
「今日……ああ、もう昨日? 一樹の誕生日だろ」
 紐靴を脱ぎながら永井はこともなげに言う。
「あした……あ、今日?くそ、ややこしいな……今日は休みだし、荷物下ろしてこっちに行く輸送機に乗せてもらったんだよ。これで間に合うと思ったら、バス終わってんのな。お前な、もっと駅近いとこ住めよ」
 こともなげにぽんぽんと口にされる内容が軽く一樹の常識を飛び越えているが、つまり。
「誕生日だから、来たのか」
「そう言ってんだろ。……遅刻したけど」
 咳払いひとつ、永井は上がり框に置いていた小さな箱が透けて見える白いビニール袋……24時間営業のファミレスのロゴがあしらわれたものを差し出しつつ、
「お誕生日おめでとう、一樹くん」
 にかっと笑ってのけた。
「どうも」
 突っ込みどころがありすぎてリアクションが薄くなる一樹に、「中、いちごのケーキとチョコのケーキだからな。好きなほう食えよ」と注釈をいれてくる永井は、どことなくはしゃいだ気色でいる。
「遅刻で真夜中にアポなしで来てファミレスのケーキ……」
「文句あんのかよ」
「嬉しい、……すごく嬉しい」
 こんなもので、じわじわとわいてきた喜びや愛しさに浸されていく自分が簡単すぎて呆れるが、嬉しいものは嬉しい。
 屈んで軽いキスをすると、真ん丸く見開かれた永井の目に笑いが込み上げた。
「コーヒーいれるよ。あがって」
「おぉ……」
 とっくの昔にキス以上のこともしているのに、いまだに不意打ちに弱い永井の耳が赤いのは、外の寒さのせいばかりではないだろう。
「じゃあ、今日は一日こっちにいられるの」
「そう。店があいたらちゃんとしたケーキ買ってやるから、とりあえずこれな」
「……ケーキより、スーパーで売ってる生クリームがいいな」
 絞るだけのお手軽なあれだ。
「は? お前あんなの…………」
 言葉を切った永井の眦がきりきりとつりあがり、頬は照れではなく怒りで紅潮する。
「っの馬鹿、変態!」
 察しが良いのは今までのあれこれで学習した成果が。
 ケーキを手に持っている一樹を殴るわけにもいかず、唸る永井は実に愛らしい。
「まだなにも言ってないだろ」
「目がやらしいんだよてめえは!」
「恋人の誕生日に遅刻したんだ、それくらいのペナルティはありだろ」
「ねーよ!」
 眉を立てて憤る永井を丸め込む自信はある。おおいにある。
 遅れてやってきた誕生日は、楽しい一日になりそうだ。


(輸送機云々は実際できるかどうか知らないですゴメンヨ!!!)




【下世話注意!!】
【急所がエマージェンシー】 (2013/03/05)

 月刊アトランティス編集部の隣には、若干いかがわしいものから学術的に真面目なものまで様々な特集ムックを毎月出している企画チームがいる。
 キャビネットで隔てられた向こう側の、煙草臭い四十絡みのエディターは一樹を妙に気に入っており、取材土産と称したあれこれを寄越すことがある……たいがいは役に立たないがらくただが、今回は実用に徹した商品であった。
「一樹ちゃん若いから必要でしょー? おっちゃんは枯れてっからね、活用してよ」
 にやにやと胡散臭い笑顔で差し出されたソレは、現在、一樹の部屋にある。
 つまびらかに申告すれば、さっきまで床に座ってゲームに興じていた永井の手の中にある。
「……買ったわけじゃないってのはわかったけどさ。これ、使うの?」
 ゲームに飽きて、エロ本とかねーのと不躾な家探しを始めた永井が、ベッド脇のマガジンラックから発見したソレ。興味津々に外箱を眺める目は好奇心にきらきらと輝いていてかわいらしい……などと言っている場合ではない。
「使わない」
「はー? せっかくもらったんだから使えよ、親切な先輩がくれたんだろ?」
「欲しいならあげるけど」
「いらねえ。こんなん持って帰ったらおもちゃにされるっつーの」
 モノが玩具になるのか、永井が玩具扱いなのかは気になるが恐ろしくて聞けず、一樹は冷静を装って「じゃあ、ゴミ箱行きだな」と頷いた。
「高級品なんだろ、もったいなくね。……『昇天!いちばんナマ搾り特上!』だってよ。すごそー」
「大声で読み上げるなよ」
「一樹、顔赤い」
 面と向かって言う気はないが、なかなか可愛らしい造作をしている永井の顔一面に、性質の悪い笑みが広がっているのは本当に可愛くない。
 こういう手合いに対しては、怒れば余計にからかわれるだけだとわかっているので、一樹は必死でポーカーフェイスを保ってまま首を横に振った。
「赤くない」
「あーかーいって。……使ったことないんだ?」
 オナホ、と嬉々として口に出されたその一般名称が、友人と閨事について語り合うをよしとしない一樹の羞恥心を嫌が応にも煽り立てる。ますます頬に血が集まるのを意識しながら、一樹はそれでも果敢に反撃した。
「な、永井はあるのか」
「高校ン時な。部活で流行ってて、ちょっとだけ」
 実にあっさり悪びれずに肯定されてしまうと、劣勢を覆すネタにもならない。
 うっかり、永井がオナホを使っている場面を思い浮かべてしまいそうになり、一樹は慌ててどうでもいい質問を重ねた。
「流行るものなのか」
「兄貴の名前で通販使ったやつが自慢しまくったからさ、ブームだったんだよ。でも、彼女に見つかってもめたやつがいて、俺もいろいろ言われてめんどくさいって思ったのと、あんまりはまらなかったし捨ててそれっきり」
「……そうか。……いろいろ言われたって、その、部活仲間に?」
「彼女だよ」
「部活仲間の?」
「俺のに決まってるだろ。女子が言い触らしまくったせいで、県大会5位なのにオナホ部とか言われたんだよな……最悪だった」
 しみじみと思い出に浸る永井の爆弾発言に衝撃が走る。休日になると一樹の部屋に入り浸ってゲーム三昧な永井に、まさか女がいたなんて思いもしなかった。
「彼女、いたのか」
 動揺に、声が裏返りそうになる。永井は未だオナホールの外箱を眺めつつ「卒業前に別れたけどな」とさらりと答えた。
「それが原因で?」
「入隊したら半年は会えないって言ったら、あっさり」
「……ふられたのか」
「嫌な言い方すんなよ。で、使わねえの? 童貞くん?」
「嫌な言い方するなよ」
「じゃあ未使用くん」
「……っるさい」
「使い方教えてやろーか? ん?」
「いらない」
「興味あるくせに、無理すんなって」
 格好のからかいネタを見つけた喜悦を剥き出しに、にじりよってくる永井が憎らしい。
―― 俺の気も知らないで!
 歯噛みしながら睨みつける一樹に、永井は心底から楽しそうに箱を縦に振って見せつけてきた。
「おとなしくしてれば気持ちよくしてやるからよぉ」
「……永井、変態っぽい」
「禁欲してるほうが不健全ですー。……てかさあ、一樹って変なシュミあんの? 虫にしか欲情しないとか?」
「俺のモルフォ蝶を不純な目で見るな。……変な趣味は、ない」
「なら、いっぺんは試したいって思うだろ、フツー」
「なんでそんなに食い下がるんだ」
「イケメンなのに未使用ってありえねーし、よっぽどの事情があんのかなって?」
 イケメンと認識されていたのは正直嬉しいが、変な興味を持ってるのはそっちだろと言いたい………………実際のところ、永井いわくの『変なシュミ』があるのは自分のほうなので、とてもじゃないが言えない。
 永井のこと考えて抜いてるけど?なんて、本人に言ったらこの友情はおしまいだ。
 自覚した時は一週間ほど落ち込んだのに、いまや罪悪感もなくやってのける自分が怖い。
「それに俺さ、一樹とはもっと打ち解けて仲良くなりたぃ………………うわ! 今のなしなし!」
 斜め下に沈んだ感情が、自分自身の発言に照れる永井を見て奇妙にねじまがる。
「俺と仲良くなりたい、のか……なるほど」
 唇の端をつりあげて呟くと、永井は耳まで紅潮させ、勢いよく首を横に振った。
「なしだって!」
「永井、顔赤い」
「うっるさい! オナホ嵌めるぞてめえ」
「永井がどうしてもって言うなら、かまわない」
「へ」
「仲良く、なるんだろ」
 風変わりで面白い友達、というカテゴリから逸脱することができないなら。

―― 枠の中でいい目を見たって、いいじゃないか。



(で、なんだかんだで永井くんが実地訓練してやんよwwwwと悪ノリで一樹をおなほ責めする流れになり、途中でスイッチ入った一樹が逆襲するような話を、誰か書いてください!!)


2013/05/06 12:26
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