【沖永を無意味にいちゃつかせたい、その5?6??】 (2013/02/10) 【これがデフォルト】
優しげに整った、しかし柔弱ではない面差しの、目の下あたりに疲労の影が濃い。 ラグの上、体育座りの永井を手足で囲うように後ろから抱え込む沖田は、なにも言わずに目を伏せている。 ここのところの沖田が忙しさに追いたてられていたため、恋人らしい時間を持つのはずいぶんと久しぶりだ。永井ははしゃぎたくなる気持ちを押さえ、じっとうずくまっていた。 眠っているのかと思うほどしずかな沖田の息遣いと体温が、じわじわ染みてくる。 永井は小さな息を吐き、手のひらを置いていた沖田の腕をきゅっと握りしめる。 目を開いた沖田の柔らかな微笑みと、頬骨のあたりに触れた唇の感触が、心臓の底に降り積むような情愛を永井に与えて、目の奥がすこし熱くなった。 「沖田さん……」 囁きの声量で呼んで、首を傾け、もっととねだる。 頬、唇の端と、戯れに降りるくすぐったい接触に焦れて沖田の唇を捉えようと自ら追い、目的を果たしたことに笑んだ呼吸は、深くなった口付けに奪われた。 息継ぎの間がもどかしい。不安定にのけぞる顎骨を支える沖田の親指の腹に、耳のうしろ、髪の生え際あたりを撫でられて首筋にぞくぞくとおののきが生まれる。 身体をねじって反転させ、沖田を引き倒す形で床にもつれあい、不規則な接触を繰り返す。しなやかな厚みのある背を両手で抱き、永井に体重をかけることを嫌って身を起こそうとした沖田を引き留める――そんなにやわな体ではないし、押し潰されるくらい、沖田の存在を密に感じているのが気持ちいい。 「……うー……癒されるなあ」 永井の意図を汲み取って力の抜けた沖田が、しみじみと慨嘆するのに声をたてずわらい、永井は掌でぽんぽんと沖田の背を叩いた。 「お疲れ様です」 「うん。……もう少し、このままでいいか?」 「ずっとでもいいですよ」 沖田を甘やかせる機会なんて滅多にないんだから。 我ながら甘ったるく優しい許諾に目を細める沖田がなんだか可愛く見えて、永井は、一緒にいられないのは嫌だけど沖田がもうしばらく忙しくてもいいな、と、幸福にふやけた胸で思った。
【あの感じ】 (2013/03/14)
頭の奥が沸き立つような、手足の指先がじんと痺れるような、じっとしていられないあの感じ。
似たり寄ったり、『個』をなくす迷彩の集団のなか、隣を歩く沖田さんの手の甲が俺の手の甲を偶然みたいに掠めた。 横目で窺うと、微かな笑みに和らいだ眼差しが鉄帽の陰から俺のうえに注がれていて偶然じゃないと理解。身震いするほど……体の深い場所から好きだとかくっつきたいとか愛情と欲望に結び付いた感情が吹き出してきて、困る。 俺がひとりでじりじりしてるのなんて見透かしてるくせに、唇の動きだけで『後でな』なんて、このひとほんとに始末が悪い。 神経がぜんぶ沖田さんに向きそうなのを我慢して、わざと少し強めに腕をぶつけてやったら、沖田さんはやはり声を出さずに忍び笑った。
ほんの少し、肌を掠めただけの接触に気付いて斜め左からこちらを見上げる丸い目の、ちょっと怒ったような困ったような風情がなんともいえず可愛らしい。 歯ごたえの良い果物みたいに見える永井の頬が美味しそうで、こいつ取って食ってやりたいと荒っぽい愛情だか欲望だかわからん感情が腹の底に疼く。目顔で笑いかけると、永井の瞳が水っぽく潤み、物言いたげに動きかけた唇をきゅっと引き締めるのが、甘えたいのを我慢しているようでいじらしい。 あとでな、と口の動きだけで伝えると、永井はほんの少し目を尖らせ、前をむいて腕をぶつけてきた。 やらしいこと考えてんじゃねーよと言われたようで、思わず笑う。 足を速めた永井のあとをのんびりついて歩いてたら、とうとう駆け出されてしまった。 「あらら、フラれた」 「あれ永井? またからかったんだろ」 「かーわいくてなぁ」 声をかけてきた同僚にけらけらと笑って応じる。 幹部室で今日の報告をして、風呂と飯を済ませて、さて、どこで永井が飛び込んでくるか。
あの感じを抱えながら、衝突するのを待ち焦がれている。
<はい、闇沖田さんのターン。>
体の内側からあまったるく擽られるような、爪の先から吹きこぼれそうな、いてもたってもいられない、あの感じ。
この殻は、損傷のせいか屍霊のせいか、記憶があちこち虫喰いになっている。 それでも、断線したコードの剥き出しの金属にぱちぱちと弾けて輝く火花みたいな、熱くて眩しくて痛くて、でも深いではない光景に付随する奇妙なあの感じが俺を惹き付ける。 永井という人間に接触するたび、『沖田』は言い表しようのない感情に支配されて、合理的ではない馬鹿げた行為に走る……人間を愚かと笑うのは簡単だが、記憶の底にある永井の笑顔や声、肌の接触、からだをかき抱いたときの微かな息遣いが沖田に与える多幸感は羨ましくなるほどのもので、欲しくなるのは当たり前だった。
人間は敵で殺さなきゃいけない。 沖田はばかだ。人間の永井を助けたせいで殻を壊して命をなくして、俺はしなくてもいい苦労をしながら永井を捜している。 「沖田、さん……」 やっと見つけた永井は俺を視認して目を見開き、声を詰まらせた。 どうしてそんな顔するの。 お前の大好きな『沖田』なのに。 「永井ぃ、俺だよ、俺」 そうそう、営内のトイレに永井が入ってくのが見えたからさ、電気消して後ろから羽交い締めにして個室に引っ張りこんだら、本気で慌ててんの。 俺だよって教えたら『洒落になんないっすよ』って怒りながら、肩の力抜いて安心するのが可愛くて。 やだやだ言って暴れる永井を宥めながらさんざん悪戯して、誰か来たかもって猫みたいに速くなる鼓動を掌で感じて、あれ楽しかったな……半日くらい、ほとんど口きいてもらえなくなったけどさ。 記憶の断片に嬉しくなったまま、銃を構えて撃つ。 ……ああ、外した。いや、こちらに駆け出した永井に外された。 弾は左肩を掠めて、よろけた永井はだけど勢いを殺さず俺の胸に飛び込んで、その手には。 「ごめんなさい」 泣き声で、喉に押し付けられた冷たいものが拳銃の銃口だと気付いたときには、衝撃がきた。頭のうしろがわ、首のつけねから命が抜けてく。 あーあ、構ってやる暇がなかった。 伸ばした手が永井の頬をかすめて、あの感じが俺のなかに波紋を描く。 途方もなく優しい、しあわせな感覚。ああそうか、俺はこいつのことがとても好きなんだといまさら気付いた。 ―― あとでな、永井。 喉に穴があいたせいで声はでなかったけど、伝わっていたらいい。
でも、次にお前と会う俺はもう『俺』じゃないから、同じようにお前を好きかはわからないよ。
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闇霊は母胎を通してつながってる間は記憶や意思を共有しても、殻に入って独立したら記憶はともかく感情までは引き継がないのかななどと考えると、うーん。
いちばん最初に書いた闇沖田さん→永井くん話がこんな内容でしたね。 沖永原点すね。 やっぱ、闇沖さんが永井永井いってるのって、よっぽどの執着だよねとしか思えないすよね……。
沖田さんの脳内には『永井頼人最速ガイドブック』、『徹底攻略!永井頼人コンプリートガイド』、『永井頼人アルティマニア』、『完全攻略真書 永井頼人マニアクス』が積んであるので、沖田さんに入居した闇霊はまずこれらを熟読、アンケートに答えてからじゃないと沖田さんを操縦できません。
アンケート設問。
『永井が可愛いことを知っていましたか?』 ・知ってる ・いま知った
『永井の弱点を責めたいと思いますか?』 ・ピンポイントで徹底的に ・わざと外しておねだりさせたい
など。
そんな闇沖さんはヤダネ!
【Je te veux】 (2013/04/02) 【片思い永井くん。】
パーカーにジーンズ、その辺の学生のような格好の永井と、やはりラフではあるがすっきりと垢抜けたジャケット姿の沖田と。 土曜日の昼下がり、ちぐはぐな男同士でレストランにいる自分たちは周囲からどう見えているんだろうか、なんてことを考える。 なにしろ、周囲はカップルだらけだ。 外に出ているメニューが美味しそうだからという理由で永井が選んだ店であり、意図して入ったわけではないが、意識はしてしまう。 なにやら小難しい名前がついているが、期待したとおり、味は単純に美味しい薄緑色のパスタをフォークに巻き付けながら、永井は向かい側でドリアを掬っている沖田に緊張が伝わらないようにと祈った。休日となれば地域の行事やら研修やらに駆りだされる陸曹、なにもない貴重な休みを後輩のために割いてもらっているのだ。変に気を遣わせたくない。 「永井って、緑色の食べ物好きだよな」 「偏見っすよ。野菜も好きですけど、肉のほういっぱい食べますもん」 「そうか? 永井は野菜ソムリエだって評判だぞ」 「どの界隈の評判ですか……」 「焼き肉も鍋も、野菜奉行になってるだろ」 「そりゃ、どうせ食べるなら、いちばん美味しい食べ方がいいじゃないっすか。出荷するほうだって美味しく食べてほしいわけですし」 「プロだ」 「食べるの専門ですけど。沖田さんも、野菜けっこう食べますよね」 「うん。しばらく野菜食べてないと、体が欲しがるんだよなー……おっさんっぽい?」 「女子っぽいです」 「えーそうー? アタシ、お肌に気をつかった食生活しちゃってるからぁー?」 「いい声で言うのやめてくださいよ。……でも、沖田さんほんとに肌キレーですよね」 「永井ほどじゃないわよー」 「だからその声やめてくださいって」 ころころと転がり続ける他愛のない会話、どんなことでも、沖田が自分のことを話題にしてくれるのは嬉しい。 ほとんど同時に食べ終わり、食後のコーヒーを待つ時間、店員がゆっくり持ってくればいいのになどと少しでもこの時間が長く続くことを願ってしまう。 「あ」 不意に、沖田が目線を宙にさまよわせた。 「何かありました?」 「いや……知ってる曲が流れてるからさ」 「曲?」 「有線」 店内に流れるオルゴール風のBGMは、耳をそばだてるまでもなく聴こえている。 どことなく聴き覚えのあるメロディに、永井は「俺も聴いたことあるっす」と応じた。 「CMとかでよく使ってますよね。沖田さん、好きな曲なんですか?」 「好きっていうかな……ちょっと、思い入れはあるな」 「思い入れ……」 過去を懐かしむ眼差しに、胸が騒ぐ。 こんな風に、誰かと向かい合っていた記憶だろうか。永井の注視に気付いて、沖田は悪戯っぽく微笑した。 「気になる?」 「俺が聞いていい話なら」 即答すると、沖田は真面目な顔をつくり、テーブルの上で手を組んだ。 「この曲は、もともとはフランスの歌なんだよ。『あなたが欲しい』ってタイトルのシャンソンなんだ」 新春シャンソンショー、という早口言葉が頭に浮かんでしまったのを追いやって、永井も神妙に頷いた。 タイトルからいって、ラブソングに違いない。 「その内容っていうのが、まあ……手っ取り早く言っちまえば不倫ソングだな」 「不倫……」 沖田は独身だ。顔よし、性格よし、収入よしとなれば相当もてるだろうに、特定の彼女もいない、というのは本人から聞いた。 考えたことはなかったが、その背景にはなかなか深い理由があるのかもしれない。無意識に前のめりになる永井に、沖田は面白そうに目を細めて笑った。 「でも、内容はいたってストレート。恋する相手に『お前も俺のことが好きなのはわかってる。お前が欲しい、俺の恋人になってくれ、ふたりで幸せになろう、いまこの時を永遠にしよう』って呼びかけてるんだ」 耳に心地よい声で、いつもの落ち着きとは色の違う感情を籠めて解説してくれるものだから、自分が愛を囁かれている気分になる。 永井はひっそりと上がった体温を自覚しながら、出来る限りの平静を装って「熱烈、ですね」と相槌を打った。 「だろ? だからさ、こんな風に曲が流れてきた時は、すかさず歌詞の話をするのが俺の戦法なんだよ」 「……それって」 まさか。 「ナンパですか」 「恋の駆け引きって言ってほしいなぁ、永井くん」 にっこりと笑われて、真剣に聞いていたのが本気で馬鹿らしくなった。 冷たい水のグラスを乱暴に掴み、三口ほどを飲みこんで、沖田を睨む。 「せっかく、まじめに聞いてたのに」 「まじめに聞いてくれないと、手の内明かした甲斐がないよ」 「またそういう……」 「本気だからさ」 意味がわからず、きょとんとする永井に沖田はゆっくりと告げた。 「俺は、本気で口説きたい相手にしかこの話をしないんだよ、永井」 永井は目をみひらき、口をぽかんとあけて、沖田をまじまじと見つめた。 「俺の恋人になってくれるか?」 駆け引きなんてもんじゃない、出来レースだろと内心で壁やら床やらを叩いて転げ回りながら、どうにか頷く。 軽やかなオルゴールの音色は、一生、忘れられない曲になりそうだった。
【これ入れ忘れてた気がするんだけど】(2012/10/07) 【ふと湧いた】
飲み会で玩具の手錠を貰い、始末に困る永井くん。 「こんなの見つかったら、ろくなことにならねえ……」 「へえ、良くできてるなぁ」 後ろからひょいと取り上げた沖田さん、にっこり笑って 「永井、誰に見つかったらまずいって?」 「う、」 「安心しろ。永井が実は拘束されるのが趣味で、普通じゃ物足りないって言い出せずに悩んでいたとしても、俺は広い心で受け入れてやるからな」 「はい!?」 「それが心配だったんだろ?」 「違います! 俺は普通のほうがいいです!」 「むきになって否定するのが怪しいな……よしよし、お兄さんが永井くんの素質を確かめてあげよう」 「やっ、いりません、やだ……いってぇ!」 「被疑者確保ー♪」 刑事ドラマの真似すんなバカー!と喚く暇こそあれ、あっというまに後ろ手に拘束。 暫しくすぐられたり舐められたりで、涙目になりつつ「もうほんと謝りますから外してください」懇願する永井が可愛いなーと暢気に思いつつ、 「んー……しまったな」 「な、なんですか!? まさか鍵なくしたなんて……」 単に、先に脱がせてから手錠すればよかったなぁと思ってただけの沖田さん。 怯える永井にサドッ気を刺激されて「そうみたい」と明るく返答。 「どうせ部屋の中にはあるから、とりあえず最後までしようか」 「とりあえず!?」 「ぜひとも」 「言い直さないでくださいよ! 沖田さんがしたいだけじゃ……ひぅ!」 「永井はしたくないのにこんなにしてんだ、やらしーなぁ」 「うう、沖田さんが触るから……っぁ、あ」 「で、したくないのか?」 「……したいですよ! 悪いですか!」 「いーや? 永井は素直な良い子だなぁ、っと」
とかいうあほえろはどうかね。
(間)
どうもこうもないな!
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