【ワセリン活用できてない】

 悪いのは、永井だ。
 風呂で沁みるからと、チューブ入りのワセリンを指につけて、訓練中に作った擦り傷に塗り込む……までは、いい。
 恋人である俺の目の前で膝丈のハーフパンツを太腿まで捲りあげ、際どい場所を撫で擦るような真似をして、傷が痛んだのか『んっ』なんて妙にそそる声まであげているんだから、襲われたって文句は言えないと思う。
「やぁ、あっ、おきたさ……ぅあ」
 甘く蕩けた永井の声が耳に心地好い。
 手指の熱に柔らかくなったワセリンが窄みのなかでとろりと溶け、俺の指をなんとか押し出そうと抵抗していた肉壺を厚ぼったく吸い付く性器に変えていく。
 二本に増やした指の腹で浅いところを小刻みに擦ってやれば上擦って高い喘ぎがあがり、腰が浮き上がるのですっかり勃起した永井の陰茎がひくひく震えているのがよく見えた。
 仰向けになり脚を大きく開く体勢を嫌がる永井も、俺が「顔が見たいから」と言えばそうそう拒否はしないから、些細な変化も心行くまで眺められるとはいっても、わかりやすい成果は嬉しい。
「弄ってるの穴だけなのに、永井のちんこ張り切ってんなぁ」
 露出した先っぽをつつくと、「セーリ現象、っす!」涙目で睨んでくるのが可愛くてつい吹き出してしまう。永井の口がへの字を描き、肩を軽く拳で叩かれた。
「ごめんごめん。そうだよなぁ、気持ちいいことしたら勃つ、当たり前だよな」
「沖田さん……!」
 これ以上からかったら蹴られそうだ。
 指を抜いて、片手に持ったチューブの先を弛んだ穴の口に押し込むと、永井の目が丸く見開かれた。にこりと愛想よく笑いかけて、チューブを潰す。
「ひ……ッ!」
 中にはいる感覚が気持ち悪いのか、永井の太腿がひきつり丸めた爪先が跳ね上がった。構わずに押し込むと、白っぽい半固形の軟膏が容器と窄まりの間から溢れて、なんともいやらしい眺めだ。
 口の中に湧いた生唾を飲み込もうとして――やめる。
 狙いをつけて、ふっくらと愛らしい永井の亀頭に唾を垂らすと、永井の腰がびくりと揺れた。
「おっ、たさん」
 動揺に詰まった声で呼んでくる、可哀想なくらい真っ赤な永井をもっとうろたえさせたくなってきた。
 唾と先走りが交わり伝う陰茎を軽く握り、丁寧に液体を塗り込める動きでやわく上下に扱くともどかしげに腰が揺れた。
 早く気持ちよくしてほしい、なんて、永井はなかなか口にしないこともこいつは行動で伝えてくる。掌の中でますます固く芯を持つ永井の素直な分身に俺のにおいをたっぷりまぶしてやって、愛着がわくなぁとにやけずにいられない。
「かぁーわいいよなぁ、永井のここ」
「馬鹿にしてんっすか」
 素直な感想を口にしたのに、永井は不服そうだ。
 大きすぎず小さすぎず手頃なサイズで色も形も愛らしいし、微妙に左曲がりなのもやんちゃな個性でよろしい。
 ……と、言葉で主張する場面じゃないな。
「いーや? あんまり可愛いから食っちゃおうかと思ってさ」
 分身に顔を近付けると永井は今度こそ慌てたように身を起こして手を伸ばしてきたが遅い。
 美味しそうに濡れ光る濃いピンク色の先端を、つるりと口に含む。舌で包むようにしながら呑み込むうちに、ワセリンの独特な油くさいにおいに茂みから立ち上がる永井の青臭さが混ざりあったものが俺の嗅覚を擽り、原始的な本能をかきたてた。
 少ししょっぱい永井の味を吸いながら、重く張った袋の下を指先で辿り、会陰に穴から溢れたワセリンをくるくる塗り広げてやる。
「あぁ、っあ、んんぅ、あ!」
 まだ恥ずかしさが勝つのか、低く抑えようとしていた声は、中指と薬指を窄みの奥ににゅるんと突っ込んだところで高く跳ね上がった。
 温まってぬとぬとに弛んだワセリンが粘着性の音を立てる。
 裏筋を舌でくすぐりながら、孔のなかのいい場所を軽く撫でてやったり、三本が楽に入るくらい解れてきた入り口の皺を少し強くつついて伸ばすと永井は声をおさえられなくなる。
 暇な左手で掴んだ永井の腿がひくひく震えているので、いいこいいこと撫でると手のひらに薄くべたつく軟膏と凹凸のある傷が触れた。
 痛がるかと思ったが、快感に流されだした永井は喘ぎっぱなしだ。
「おったさん、俺もうっ」
 切羽詰まった永井の訴えを肯定するように口の中のものがびくびく震えだしたところで、外に出してやる。
「はっ、ふぁ、……」
 埒をあける寸前で刺激をなくした永井はつらそうだ。別にこのままイかせて飲んだっていいが永井はひどく嫌がるし、今日はいれてイかせたい。
「もうちょっと我慢、できるよな?」
「はい……」
 けなげな返事とは裏腹にはやくいきたいと訴える瞳に、罪悪感と悦びが沸き上がってますます下半身に血が集まる。……幸いにして、永井は『俺のをいじってるだけで興奮しちゃったんですか? この変態』などと罵る性質ではない……いかん、今の想像で漏れた気がする。
 それは今後の課題として、永井の左の膝裏を押し上げて穴を広げるように足を開かせる。
 長春色と言うんだったか、濃い桃色の窄まりが俺の凝視を恥じるようにひくついて、体温に溶けて半透明になったワセリンをくぷりと押し出した。……自分でやっておいてなんだが、心に沁みるエロさだなぁ……。
「……沖田さん」
 俺がよっぽど厭らしい顔をしてたんだろう。拗ねた表情の永井に、ちょっと尖った声で咎められてしまった。もちろん俺とて、見ているだけで満足できるわけもない。
 ひとつキスをしてから、もう十分に硬度のあるものを二、三度扱いてから、いやらしい穴に押し当てる。油の滑りでちゅるんと潜り込んだ先端に吸いついてくる、解れて熟れた肉の感触がなんとも心地いい。
 温かく濡れた粘膜にペニスがまるごと吸い込まれる錯覚を得ながら、ゆっくり沈めていく。
 雁首が潜り込むまで苦しげに寄せられていた永井の眉が少しの安堵を見せてほどけたところ、中途半端な場所で小刻みに挿し引きすると、入り口の刺激に弱い永井は忙しない息で喘ぎながら、首を振って右脚を俺の腰に絡めてきた。永井の分身は、ぱくぱくと開閉する鈴口から白みがかった粘液を吹き零しているが、まだまだ萎える気配はない。
 腿から下腹、脇腹を辿って胸に手を滑らせて、赤く色づいた突起を指で摘まみ苛めてやると、永井の腰がびくんと波打って、甘えた子犬に似た鼻声が高くあがって、絡みつく足の力が強くなる。
「気持ちいい?」
「見てわかんない、っすか」
「わかりますよ」
 まだ理性を残した永井の強気な態度を余裕だなと笑って、いっそういきりたつ一物をうんと深い場所まで押し込む。包み込み、蠢いて引き絞る肉の熱さに溜息を吐いて、濡れた永井の肌に当たった鼠蹊部を回す動きで擦りつけると、ぬるぬる滑る感触が性器への刺激ともまた違う快感を生んだ。瑞々しく弾力のある肉にタマが擦れるのも気持ちがいいと、しばらく揺すっていたら、永井がむずかるような声をあげる。
「あぅ、そこ、擦るのだめです」
 力の入っていない掌に肩を押されて、動きを止める。
「なんで? 気持ちいいのに」
「俺の……」
「ん?」
「……ちんこが、沖田さんの腹でこすれるんで、イきそうになるんです」
 言いにくそうに目を逸らしてぼそぼそと告げる永井は、俺がちょっと揺すっただけで、つらそうに眉を寄せて唇を噛む……苦痛を感じているわけじゃないのは、上気した頬と、絡みついてくるナカの様子でわかるんだが。そういえば、重力に負けない元気な先っぽがしきりに俺の腹筋を擽っていた。
「イッていいぞ?」
 そろそろ動きたいような、もうちょっと遊びたいような気分でぐり、と押し付けると永井の喉が、うく、と小さな音を立てて上下した。眉を寄せて、
「さっき、我慢できるかって聞いたじゃないっすか」
 入れるまでのつもりだったんだが、お預けを解かれるまで律義に守るだったつもりらしい。この健気なところがまたいいんだよな、と、胸の奥にこみあげてくるものに衝き動かされるまま、永井の頬に鼻を擦りつけ、口付けを促した。
 素直に唇を合わせて、両手と右足とをますます強く絡めて俺とくっつこうとしてくるのが、こっちをどれだけ興奮させるかわかってるんだろうか。
 角度を変えようといったん口を離すと、永井は俺の首を引き寄せて追いかけて、自分から噛みついてくる。きっかけがないと自分からはなかなかしてこないが、永井はキスをするのが好きだ。いつぞや「沖田さんとキスしてると、嬉しくなるんですよね」とぼそっとつぶやいたのを俺は決して忘れていない。
 舌を絡め、夢中になっている永井の腰が前後に揺れ出して、いっそう熱くとろけた内側が俺の陰茎をぎゅうっと抱きしめてきた。堪らずに、こっちも動き出す。
 二人ぶんの体液と混ざり合ってぬちぬちと音を立てるワセリンが永井の中を掻き混ぜるのを容易にして……やばい。普段よりも楽に動けるぶん、長くもつんじゃないかと目論んでたが、ぐちゃぐちゃに熱い中と、永井の動きが予想以上に悦くて、下腹がずきずき痺れてくる。
「ん、んんぅ、ンぁ! っんん……!」
 いつのまにこんないやらしい腰使いするようになったんだか、こんど上になってもらおうなんて考えがちらりと頭の隅を掠めたが、喉の奥に響く永井の切ない呻き声に煽られて、思考は端から散っていく。
 首に回された永井の腕はそのまま、膝立ちに身を起こして持ちあげた永井の腰を力任せに穿つと、塞ぐもののなくなった口からは単音が律動のタイミングで零れ落ちる。
「あアッ、いっ、いぃ、んっあ」
 背を反らせて喘ぎまくる永井の張りつめきったペニスは、突くたびに白い蜜をとろとろと溢し続け、空気を含んで泡立つ結合部に流れ落ちてくる。
 ……これ、イキッぱなしってやつか?
「っはは……永井、精液出っぱなしだ」
「ん、とまらない、です、くっ……ああ、」
 腰をがくがく揺らしながら泣き声で訴えられて、俺の中でも箍が外れた。
「止めなくていいからな、気持ち良いの好きだろ?」
「やっあ、おったさぁ、あ、た……」
 たすけて。
 俺のものをくわえこんできゅうきゅう締め付けながら、涙と涎と汗にまみれて、どこもかしこもべたべたな顔で救いを求める永井が堪らなくて、肉穴に種汁を吐き出すこと以外、なにもかも吹き飛ぶ。
 うんと背中をしならせる永井の胸で、存在を主張する可愛い突起をいじくってやれば、悦がり泣きながら、俺の精液を搾り取ろうと中をうねらせてくるんだから、本当に、たまらない。
「永井、永井……!」
 汗で滑る背中を抱き締めて、お互いのばした舌を絡めて、荒い息と唾液と喘ぎをまぜあわせて、馬鹿みたいに腰を振りたくる。
 限界に目が眩み、永井の呼吸を奪うように口付けて吸いながら、深く捩じ込んだ挟隘の奥の奥に叩きつけるように飛沫を注ぐ。
 腰を擦り付けて、腹の間で永井の性器もびくびく脈打つのを感じながら、俺ははたしてこいつを助けたのか殺してしまったのか、阿呆になった頭でぼんやり考えていた。


「……って、三回もするなんて聞いてないっす……」
 いろんな液体で湿ったままのシーツにぐったり伏せて、半分寝ているような声でぼやく永井は、色気のない言葉とは裏腹に涙の跡をのこす目尻や、しっとり濡れた首筋がなんとも艶っぼい。
 普段の永井が、やんちゃな子供じみた天真爛漫さをいかんなく発揮いるだけに、この落差が実にそそる。
「まだ若いんだから平気だろ。……あれだけ喘ぎっぱなしじゃ疲れちまうだろうけど」
 苛めすぎた腰を撫でさすりつつ言うと、べちんと、手のひらで腕を叩かれる。
「身体中べとべとだし……」
「よしよし、先輩が風呂に入れて洗ってさしあげよう」
「やめてくださいよ。沖田さん絶対、いたずらしてくるもん」
「信用ないなー」
「学習したんです」
 言葉尻にかぶせて、ふあ、とあくびをする永井を抱き寄せる。……確かにべとべとだ。俺もだが。寝具を洗うのに難儀しそうだな。
「とりあえず、休憩しよう。俺も眠いよ」
「了」
 りょー、と伸ばした返事をする永井の髪を撫でて、丸いおでこにひとつキスをする。
「おやすみ、永井」
「おやすみなさい」
「愛してるよ」
「っ…………俺も、っす」
 小声で囁いて、俺の肩に額をぶつけて。
 へへっとはにかんで笑う永井に、心臓を持っていかれるんじゃないかってくらい胸が浮き立って、あらためて恋をした。







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