三永の永井くんは基本的に寝てるな……しかし……。

\おきてよおとうさん!今日は遊園地に行くって約束したじゃないかぁ!!/
腹の上に乗ってゆさゆさゆさぶるアレを、士長から三佐にやってほしいです。
「誰が父親だ」
容赦なくべちーん払いのけられそうですがwwwww

さておき、まとめ。


13/01/13

【寒い夜だから三永】

 力を抜いた身体を受け止める柔らかくそれでいて芯のある弾力と、包み込む暖かさ。
 ……たまらなく、気持ちが良い。
 スプリングが効いたベッドとふかふかの羽毛布団に挟まれて、永井は「んんん」と喉奥で唸りながら身をもぞつかせた。
 幸せだ。
 三沢の使っているベッドは上等で、三人部屋の薄っぺらいそれとは大違いの快適な寝心地は、訓練の疲れなど軽く吹き飛んでいきそうな気がする。
 しかし、当の三沢はいつ帰ってくるのだろうと時計を見る。
 午後9時。営内は消灯が近付いて慌ただしくなってくる時間だ。やはり幹部ともなると激務が続くのか、三沢が遅く帰ってくるのはそう珍しいことではなく、ついでに、合鍵で部屋に入った永井が先に寝てしまうのもありがちなことである。
 ただし、今夜、永井が泊まりにくる予定はなかった。それは明日の話だ。
 金曜の夜と土曜、2日続けた外泊届が取れたので来てしまった、それだけだ。勝手に押しかけて三沢に怒られるかもしれないが、その時はその時だと腹をくくっている。
 訓練で顔を合わせることはあっても、三沢も永井も業務とプライベートをきっちり使い分ける性質で、恋人らしい時間を過ごせる機会はなかなかない。
 だからこれは、永井のささやかなわがままだ。
「……にしても、遅いっつーの……」
 部屋が寒いのでベッドに潜り込んだが、三沢のにおいがする上等な寝床が心地よいし暖かいしで、本格的に眠くなってきた。
―― おかえりなさいって言わなきゃな……
 めったにできない挨拶を思いながら、ふわ、とあくびが漏れる。
 少しだけ、三沢さんが帰ってくるまでだけ、と決めて永井は目を閉じた。



「おい」
 無愛想な声で、肩を揺すられる。
「う……?」
「永井、起きろ」
 低く命じられて、意識が覚醒した。
 目をあければ、こちらを見下ろすいかつい男の姿。太い眉を寄せて、口角を下げた不機嫌そうな顔はほとんど彼の地顔なので今さらびびることなどない……と言いたいが、寝起きに見るのはやはり怯んでしまう。
「三沢三佐……あー……お邪魔してます。おかえりなさい?」
「一時間前にな」
 短く告げられて、うっ、と言葉がつまる。言われてみれば三沢はTシャツとスウェットの寝間着姿で、食事も風呂も済ませた雰囲気だ。その間、永井はみごとに寝こけていたらしい。
「お布団、あたためておきました」
 場を取り繕おうと、愛想笑いを浮かべながら言うと、深いため息をつかれた。
「三佐……」
「場所あけろ」
 追い出されはしないが、邪魔者扱いだ。おとなしく、ベッドの中を壁際に寄る。布団の端はまだ冷えていて、ちょっと悲しくなった。
 横たわったまま、隣に入ってきた三沢をじっと見守っていると、体ごとこちらを向かれて向き合う格好になる。
 普段は(何かおかしなスイッチが入らない限り)顔筋をあまり動かさない三沢の真顔とにらめっこして、間がもつのはせいぜい十秒だ。
「勝手に来ちゃって、すみません……」
「何のために合鍵持たせてると思ってる」
 感情の見えない声に、目を伏せる。
 職業柄、互いの休日がずれることもある。三沢がいつでも部屋にいられるわけではないので、待つための鍵だ。いくら会いたいからといって勝手に使うなど、信頼を損なう行動だった。
 せめてメールなり、ひとこと入れておけばよかったと後悔が胸を噛んだところで、かたくかさついた感触が頬に触れる。
「好きな時に来い」
「へ……」
 ゆるく作った拳を永井の頬にあて、親指と人差し指のあいだに軽く肉をつまんで引っ張りながら、三沢は淡々と言葉を続けた。
「勝手にしていいと言ってるんだ、頼人」
 課業のあいだは絶対に呼ばれることのない名前で呼ばれ、永井はまるく見開いた目を瞬かせた。
 あるかなきかの笑みが三沢の口の端に浮かんだのを茫然と見ているうち、じわじわと、腹の底から喜悦がこみあげてくる。
「三沢さんっ」
 短い距離を詰めて、大きな体に思い切り抱きつく。
「会いたかったです……!」
 課業中にも顔は合わせているけれど、そんなのじゃさっぱり足りない。こうやってくっつきたかったのだと主張するように布団の中で足を絡め、隙間なく密着して、まだまだだと太い首筋に頬を擦り付けた。
「三沢さん、三沢さん」
 他の言葉が出てこないので名前を繰り返して、込み上げてきたものにぐすりと鼻を啜る。三沢から人肌の暖かさが染みてくる、それがたとえようもなく嬉しい。
 ぽんぽんと宥めるように背を叩かれて、よけいに滲んだ涙を瞬きでこぼす。
 自分はつくづく、このひとが好きなんだと改めて自覚して、しがみつく腕に力をこめた。
「わかったから締めるな、永井」
「わかってないです」
 永井がどれだけ三沢を好いているか、到底、伝わりきっていないだろう。
「……よりと」
 囁きにまで落ちた声量、微かな期待に、ぞくぞくと身の裡が震える。
「明日はいくらでも相手してやるから、今日は寝かせろ」
「えー……」
「おやすみ」
 高ぶった気分を散らすように肩を叩かれ、永井はしぶしぶ腕を緩めた。
 灯りを常夜灯に落とした三沢はもう、目を閉じている。本格的に眠る気らしい……こうなったら永井には手も足も出せない。
 三沢の左足を挟むように絡めた両足はそのままなので、これで我慢するしかないだろう。
「明日は覚悟しといてくださいよ」
 まる1日使って構い倒してもらうと小声で宣言してから、永井も瞼を伏せた。


 数時間前、部下の外泊届に判を捺しながらひとり笑っていた三沢のことなど、永井は知るよしもないのである。


(サプライズでもなかったという。)
(ついでにまる2日フルに休むために凄まじい勢いで業務片付けてきた三沢さんという。)
(1日どころか1日半がっつり構いに構い倒される永井くんという。)


13/01/19

【お題:行軍疲れで熟睡してる永井くんにもよおす三佐】

 目があかない。
 体重の六割以上もある重い装備を背負い、汗と泥と埃にまみれて山道を駆けずり回ったこの数日間。最終日である今日の解放感は途方もなく――締め括りとして開催された無茶な打ち上げで、酒量が過ぎたか。
 疲労が磐石の重石となって、永井の手足を、瞼をもったりと押さえつけている。
 死屍累々の宴会場……大きな天幕の片隅に倒れた体を、誰かに抱えあげられた感覚はあった。頬に触れる、冷たい風が心地よい。運ばれているらしいが、何処へと訊ねたのは微睡む胸中ばかりで、だらしなく半開きの唇を動かせもしない。
 防水布を捲る音、静かに横たえられた背にあたる毛布の感触に、誰かのテントらしいと知れる。いったん着地した背中を抱き起こされ、靴を脱がされ、上着を剥がれるのも夢うつつだ。下衣もさっさと取り去られ、圧迫するものがなくなる気楽さに安堵の息をつく。
 夜中にいきなり叩き起こされても対応できるよう、戦闘服のまま眠るのも慣れたものだが、肌着姿が楽なのは真理である。
 軽くなった身体を、睡魔はよりいっそう深い場所に引きずりこみかかる。
 それでも、永井の世話を焼いて寝かせてくれた誰かの、ゆるく髪を撫でてくる大きく固い掌と静かな息遣いには覚えがあった。
「さ、んさ……」
 どうにも眠くて眠くて、呼び声はかすれた囁きにしかならない。ちゃんとお礼を言いたいのに。もどかしく思う気持ちさえ、遠退きかける意識に拡散する。
 もう、言いたかった言葉さえなまぬるい眠気のなかに見失い、ためいきじみた呼気を吐いた唇を、かさついた指先に撫でられた。弾力を確かめるわずかな圧をもってゆるやかに往復する固さ、吐息に湿り出した皮膚が粘膜と馴染む感触がむずがゆい刺激になって、むずかるように唇を動かす。
 指が離れ、濡れた唇に触れる空気の冷たさに感じた寂しさを埋めるよう、体の上に覆い被さる気配があった。
 みっしりと筋肉に覆われた重い身体に押さえつけられ、頬肉を唇だけで食まれる。シャツをめくりあげた手指が素肌を這うくすぐったさに、ふあ、と小さな声が漏れた。
 それで気を良くしたのか、三沢はますます無遠慮に、自衛官としては未だ成長途上にある永井の体を検分するようにまさぐり続ける。
 疲れきった部下を好き勝手に扱う上官に抗議のひとつも言いたいが、半覚醒の頭では気のきいたことなどなにも出てこない。
 荒く響く息はもうどちらのものともつかず、意識は半分眠ったまま、太股に当たる猛った雄の感触に呼応して興奮している己の体を遠くに思う。
―― このまま、やられんのかな。
 どうせ明日はトラックに詰め込まれて駐屯地に送り出されるだけ。
 三沢は色事で後に響くようなことはしない。べつに構わないが、こちらはろくに反応できないので楽しくはあるまいと、とろとろと緩んだ思考でおかしな罪悪感を持った。
―― 三佐、三沢さん。
 ちゃんと起きるから、それまで待ってと訴えたい唇は、不明瞭な喘ぎをこぼすだけ。
「ながい」
 耳元に吹き込まれた、熱を含んだ声に体の奥がきゅうっと疼く。
 胸板を撫でていた手のひらが、芯を持ち出した突起に触れて、指先で戯れに潰し転がされる感覚はいつもより遠く、神経に薄布を被せたようなもどかしい心地よさに、永井は身をくねらせた……つもりだったが、やはり、泥のように重い睡魔に負けて、指一本も動かせない。永井の眠気を助長する、甘やかす穏やかさを持った愛撫が切なくて、熱をもった溜息が零れた。


(続きは赤い海にログアウトしました ^q^)
(メモ書きには「いれられたら起きるけど体に力入らなくて三沢さん呼びながら泣いちゃう」って書いてあるよ……。)


13/01/23

【Twitterの140文字お題。】
問1.『三沢、永井』『照れる』『ボタン』『徐々に』 以上の単語を全て使用して、BL小説の一部っぽい文章をTwitterの字数制限内で作りなさい。 http://shindanmaker.com/253710

ボタンを外す指先がもたつき、永井は徐々に高まる熱を自覚した。
照れ臭さを堪えるあまり不貞腐れた表情の永井に対し、三沢は「好きにしろ」との宣言通り、衣服を乱されながら悠然と観察する様子だ。
……自分の欲を晒す羞恥に葛藤する青年の挙動に集中する余り、動けないだけなのだが。


(いつも流されてるし)今日は俺の好きにさせてください!と宣言したものの、いざってなると予想以上の恥ずかしさと、つまりこれから三佐にすること=俺のしたいことってモロばれじゃん……!と、あわあわしながら意地と根性で踏みとどまる永井くん。
三佐はそんな永井くんが可愛いやら面白いやらでガン見しつついろいろ我慢です。



13/01/27

寒すぎて動けないです orz


【澪さんの、にゃんこに餌やる三佐が可愛くて発狂した】


 この辺は猫が多いな、とは思っていたのだ。


 三沢の部屋に遊びに来た週末、永井は窓辺に座り込んでいた。
 一階にある三沢の部屋、その庭ともいえない狭い物干場に猫が一、二、三匹。尻尾が白いオレンジ色の縞猫は先程から永井と睨みあっており、三毛と呼んでいいのか淡いぶちの一匹はうずくまってうつらうつら居眠り、黒白の鉢割れ猫はぼさぼさの尾を体に沿わせて座っている。
「……なに?」
 永井の顔を見つめて一向に動かない縞猫、まだ若いらしく小さい身体のそいつに用向きを尋ねてみても返事のあろうはずもなし。あぐらをかいた膝に頬杖をつき、永井は猫を見つめ続けた。
 猫と目が合った時、先に目をそらしたら敗けを認めることになる、と誰かから聞いた話……真偽は知らないが勝負を持ちかけられたら逃げるわけにはいかない。
 かくして、負けたくはないとにらめっこをしていると、猫は太陽の光を受けて淡い黄緑いろに透ける目玉を瞬かせ、ガラスの向こうでにゃあと鳴いたようだった。
 窓に体を擦り付けてくるのに、永井は眉を下げてむうと唸った。
「入れてほしいのか?」
 動物は嫌いじゃない。これが永井ひとりの部屋ならあげてやってひとしきり遊ぶところだが、ここは三沢の家だ。
 ……あのこわもてが猫と戯れるところなど想像がつかない。いや、雨の日に捨て猫に傘を差しかけて自分は濡れて帰るくらいのことは……ありありと想像できてしまって、笑えてくる。
 中に入れずに、窓をあけて撫でてやるくらいはいいだろうと立ち上がったところで、猫はなにかに気づいたように耳を動かし、あっさりと離れていってしまった。
 淡い色の三毛と鉢割れも同様だ。
 肩透かしを食って、少しがっかりしながら床に座り直す。……面白味のない景色を眺めていたって仕方ないのだが、留守番は暇なものだと心得ている。
 急用ができたとかで「すぐ戻る」と出掛けてしまった三沢はもう二時間も不在だ。退屈した犬みたいに部屋中掻き回してやりたくなったが、片付けで時間を削られるのも腹が立つのでやめておいた。
 制服を着て出ていったのだから仕事なのはわかっている。幹部が忙しいことも理解している――理屈と感情が異なるのは、どうしようもない。
「ああくそ、ひま! 三沢のばか!」
 床に寝そべり、子供のように叫んだ永井の癇癪を消火したのは、玄関の鍵が鳴る音だった。跳ね起きて出迎えに行く永井の素早さときたら、猫なみである。
 ドアが開き、無愛想な顔の大男がぬっと姿をあらわす……半年前の永井ならちょっとしたホラーだと思ったはずの状況が、今はただひたすら嬉しい。
「三佐、お帰りなさい」
「ああ……こら、入ってくんな」
 三沢の視線は下に向いており、つまり、制止は永井に向けたものではない。
 激務のストレスなのかどうか、夜中にひどく魘されていることがある三沢なので――そのまま死ぬんじゃないかと心配になるほど弱っている三沢を見ると、永井の胸には不安と綯い交ぜになった愛情が込み上げて少し泣きそうになるのだが、そんなことはとてもじゃないが言えないし知られたら一緒には寝させてくれないと直感しているので言わない――また何かおかしなものでも見えているのかと思ったが、そうではなく。
「あれ、こいつ……」
 八の字を描くようにして三沢の足にすりすりと全身をこすりつけているオレンジの縞猫は、さっきまでにらめっこしていた相手に違いない。
「三沢さんの猫だったんすか?」
「俺のじゃない。……ほら、帰れ」
 退去を促す三沢の手にも頭をこすりつける猫の姿に、むらっと嫉妬に似た気持ちがこみあげる。
「さっきまで俺に媚びてたくせに」
 今のうちに触り倒してやろうと、スニーカーに爪先だけ足を突っ込んでのばした永井の手を避けて、猫は廊下を走っていってしまった。
 肩透かし二回目。
 廊下の出口、陽の当たる場所で、さっきまで庭にいた他の二匹もこちらの様子をうかがっている。
 悔しい。
「逃げられたんすけど」
「だから、俺の猫じゃない。そんな顔するな」
 呆れ顔の三沢にぽんと頭を叩かれて、永井は口をますます尖らせた。


 三沢が着替えを済ませて落ち着いたところで、腰かけた三沢の足元に座り込む。
 ごつっと音をたてて頭を膝にぶつけてきた永井に軽く眉を上げた三沢をじっと見上げる。……目をそらしたら敗けなのは人間も同じだ。
 鼻の上から押さえるように乱暴に撫でられて目を閉じてしまったのはノーカウント。
 引っ張りあげられたところで、放っておかれた腹立たしさも、永井が知らないうちに猫になつかれている迂闊さも、許してやることにした。


*******


三沢さんが隠しておいた猫の餌皿とカリカリ見つけて(ΦωΦ)!!になる士長まであと2週間くらい。


13/01/31

【三沢さんにしか見えてない永井くんの話:その3】
【その1は過去ログの中。】
【愛妻の日ですってよ嫁永くん】

 たった半年前まで生活していた駐屯地……といっても俺がいたのは“この世界”の駐屯地じゃないんだけど……の中は、懐かしくもよそよそしい。
 見知った顔のいくつか、あの島で何度も撃ち殺した連中が元気に動き回ってるのを見るのは妙な感じだ。
 屋内運動場のコンクリの階段に座り込んで、地べたを這いずる“俺”を眺める。
―― がんばってるなあ、俺。
 沖田さんに褒められて、すっげーいい顔で笑ってる。……俺もあんな風だっけ。思い出せない。
 “俺”の肩を叩く沖田さんを見てると、鼻の奥が痛くなってきた。良かったな“俺”。そのひと、あんがい簡単に死んじゃうから、今のうちに恩返しとけよ……なんて、言ったって聴こえやしないんだが。
 それより、あんまり近付かないようにしないといけない。
 もし俺が“俺”に触れてしまったら、どちらかがこの世界から消える。
 正確には、もうひとりの俺、この世界の“俺”が俺を認識した時に、存在が揺らぐんだとかなんとか……理屈はよくわからないが、世界はそういうふうにできているらしい。
 俺と“俺”、どっちが消えてどっちが残るのか試す気になんかなれない。……だってもし、“俺”に触った瞬間に世界のほうが変わったらどうする。黒い太陽と赤い空の……思い出したくもない、記憶から消せもしない、あの場所に引き戻されるなんて冗談じゃない。
 それに、存在がどうのなんて小難しい話は、一樹にでも任せておきたい。
 そういえばアイツもこの世界にいるはずだが、何してるんだろうか。
 たぶん、元気にツチノコでも追っかけてるんだろう。怪奇現象だかなんだか、変なことに好きこのんで首を突っ込む危ない奴だったからこっちの世界でも何かに巻き込まれてそうな気がするけど、運は良さそうだったしイイ性格してたし、俺が心配しなくたって平気だと思う。
「……俺も怪奇現象の一種、かな」
 沖田さんがふとこっちに視線をよこして、俺の声が聞こえたのかとびっくりする……もちろん、そうじゃない。
 “俺”が露骨に嫌そうな顔したから、何を見つけたのかはわかった。
「永井。何やってる」
「社会見学っす」
 正確に“こっち”を見てる、スキンヘッドのおっさん。
 向けられた渋面に思いっきり愛想笑いを浮かべてやると、眉間の皺が深くなった。
「騒ぎになるようなことはしませんから、お構いなく。……俺と喋ってたら独り言ブツブツ言ってる危ないヒトですよ、三沢さん」
「いまさらだろ」
 開き直ってやがった。
 そりゃ、俺だって事情を知らなかった時は三沢さんはイカれてると思ってたからな……あんなモノに憑かれてたのに普通に生活できてたっていうのは、ある意味イカれてるけど。
「おい。おかしなこと考えてるだろ」
「えー、心当たりないです」
 いってらっしゃい、と笑顔で手を振ると、三沢さんはしかめっつらのまま、沖田さん達の方に歩いていった。
 ……だから“俺”、そんなに構えるなって。睨むなって。三沢さん噛みつかないから。お前じゃぜんぜん敵わないから。
 ああ……客観的に見ると、すげえ失礼な奴だったんだな、俺……。
 三沢さんの前に皆が整列したらさすがに真面目な顔になった。そうそう、その態度キープね。上官とか関係ねーよって思わないでね。
 で、話はちゃんと聴いてるんだよな。えらいなー俺ー。
 ああ。
「……虚しくなってきた……」
 だってここは、俺の居場所じゃない。
 本当はジム施設でも借りようかと思って来たんだけど、なくなってほしい時に限って、人目ってのはなかなか途切れないもんだ。
 誰もいないのに機械が動いてたら謎の故障ってことになりそうだし、下手したら幽霊騒ぎだ。もし三沢さんの耳に入ったら叱られそうで、気が引ける。
 揃って走り出す男の群れを眺めてたって楽しいことなんかない、沖田さんと仲良しな“俺”を見てたら、なんだか叫び出しそうになるし。
 かといって一人で帰るのも嫌で、膝を抱えてぼうっと座り込んでいると、三沢さんが隣に来た。
 壁に寄りかかって腕組みして、皆を眺めてるような風情で俺に話しかけてくる。
「落ち込むぐらいなら、来なきゃいいだろうが」
「デリカシーないっすね、三沢さん」
 機微にさとい癖に、痛いところを平気でえぐってくる。
 沖田さんが死んだ時だって、そうだった。
 いや、あれは慰めてくれてたんだろうか、もうよく覚えてないけど、気持ちはわかるとか言われた気がする。
 ……もうちょっと、あの島に行く前に、三佐のことちゃんと見ておけば良かった、かもしれない。
「永井」
 気付くと、三沢さんがこっちを真っ直ぐ見てた。
 誰も俺を見ない世界で、たったひとつだけ、俺に向けられる眼。
「帰り、飯食いにいくか」
 俺がここにいるのは、ちょっと課業をサボってるだけって錯覚するような、普通の調子で言ってくる。 
「意地悪ですね」
 短く笑った俺に、三沢さんは微塵も笑みを浮かべず、ぶっきらぼうに吐き捨てた。
「俺が二人ぶん注文すりゃいい話だ」
「……自分、すっげえ食いますよ」
「腹回り気にするトシでもねえだろ」
「三沢さんは気にしてくださいね」
 睨まれた。
 それが嬉しくて、頬が緩んでくる。
 俺はいったん持ちあげた足を下ろす勢いで立ち上がり、三沢さんの腹をぺたぺたと平手で叩いた。
「三沢さんはまだかっこいいお腹ですよ。余分なメシは、俺が食ってあげるんで大丈夫です」
「現金な野郎だな」
 呆れてる三沢さんの口の端がほんの少しだけ持ち上がって、革手袋の指が俺の頬を軽くつねった。
 俺はいいんだけど、これ、傍から見てたら三沢さん完全に挙動不審だな。
 三沢さんはそのまま、皆がせっせと訓練に励んでいる運動場に向かって歩いていく。
「幹部室で待ってろ。置いてあるもんは食っていいから」
 エサ与えておけばいいと思ってないか、この人。
「誰かいたらどうすんですか」
「お行儀よくな」
 ……それでいいのかよ。
 ま、いいかと肩をすくめて、俺も三沢さんに背を向けた。
 座り込む前より軽い足に、言われた通り現金なものだと苦笑する。
 それでも。
 ここに居て、三沢さんを好きな俺でよかったと、ふつふつと沸くように思った。


(この後、三沢さんのデスクに突っ伏してヨダレ垂らして寝てる永井くんですよ。)
(起こされて慌てて袖口で拭くという。)


2013/02/08 17:42
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