はよ本編進めたいんですけどとりあえず番外編サルベージ。
時間がいったりきたりあっちこっちしてたり、本編がこうなるとは限らない話だったり、駅前留学してたりするので、うんまあ、気にしない。


10/27

▼シチュエーション流し。

【オキタさんと永井くん/逃避行編】

 もうずいぶんと、内陸まで来てしまった。
 水面から這い出る無数の白い腕に絡みつかれ、赤い海に引きずり込まれる悪夢からは逃れることは出来なくても、波の音、潮のにおいから遠ざかるにつれて、気が楽になる。
 永井がうなされて夜中に目を覚ますたび、オキタは永井をあやすように抱き締めてくれた。低い声で、繰り返し、同じ言葉を口にして。
―― 大丈夫、大丈夫だよ、永井。
 きっと、そう言っているのだと思える。
 オキタの言葉をおうむ返しにすると、つめたい唇が額に押しあてられた。あいにくと夜目の利かない永井には見えないが、オキタは優しく微笑っているはずだ。
 背をぽんぽんと叩いて寝かしつけようとする手に甘やかされるまま、闇の中にさぐりあてたオキタの剥き出しの首筋に顔を埋める。永井の熱をうつした、ぬるい水溜まりを思わせる体温と、オキタのにおいだけを感じようと頬を擦り寄せると、困惑した風に呼ばれた。
 無視して、ゆるやかな脈を打つ頸動脈のあたりを舌先で舐めると、息を詰めた気配。永井の背を撫でる手に、意図が篭りはじめる。


(温泉街に不倫旅行してるみたいな。)


12/4

【払暁】

 オキタには『薄暗い』程度の廊下は、ナガイにとっては視界を奪う闇であるらしい。
 大きなものが派手に倒れた音に目が覚め、何が起きたかは即座に把握できた。
「ナガイ」
 半開きになっていた障子戸から廊下に出ると、予想通り、板敷きの床に膝をつき、頭をさすっている青年の姿があった。
 厠に立ったは良いが目が効かず、段差に躓き転んだというところか。
 なにやら小声で呟いているのは、段差への文句だろう……板でも被せておくべきかもしれない。
「大丈夫か」
「オキタさん……?」
 声を目当てに伸ばした指先が空を切り、もどかしげな表情をするナガイの手を取って引くと、「つっ」と痛そうに呻く。
 打ったのは頭だけかと思ったが、足でも捻ったか。
「じっとしてな」
 肩を押さえて再び座らせたナガイの足首は、見たところ異常はないが、触れると他の部分より高い熱を帯びているようだった。
 よほど油断していたのだろうか。彼らしくもない。
「後で腫れるかもな……部屋まで行けるか?」
「だいじょうぶ」
 言葉の意味を半分も理解できているかは怪しいが、発音のおぼつかない応答を返し、述べた手を手探りに伝ってオキタの肩に掴まったナガイは、オキタの意図を正確に捉えている。
 ずっと前からナガイと過ごしていた錯覚を起こすほど互いの意志が通じるので、近頃では言葉が違うことを忘れてしまうことさえある。
「ごめん」
 布団の上に座らせてやると、ナガイは面目なさそうに目を伏せた。
「いいよ。ちょっと待ってな」
 頭を撫でて、立ち上がった裾を掴まれる。
「どうした?」
「だいじょうぶ、――――」
 短く告げられた言葉の意味はやはりわからないが、眼差しと手指に籠められた力で意図は汲み取れる。
 大事はないから、傍にいてくれと言いたいのだろう。
「駄目だ。ちゃんと手当てしないと。すぐ戻るから、な?」
 屈み込み、ゆっくり言ってきかせるとナガイは不承不承といった風情で手を離した。離れがたいのはこちらも同じだ。
 冷たい井戸水で濡らした手拭いを手に戻り、古傷の白く浮いた足首に巻き付けてやる。ほとんどは目立たないものだが、ナガイの身体には傷痕が多い。
 脹ら脛にある引き攣れた線を指先で辿り、滑らかに浮き上がった感触を確かめると、ナガイはぎょっとした顔でみじろぎ、抗議の声をあげた。
 構わず、傷痕の延長線を手のひらで撫であげ、手当てのために捲っていた裾をひらいて膝頭に口付ける。
 ナガイの温かい手がこめかみに触れ、オキタの悪戯を咎めた。
「オキタさん、だめ」
「なにが?」
「あさ。だめ」
 制止の言葉を他に持たないナガイの可愛らしい困惑に「まだ、朝じゃないよ」笑いかけた顔は、たぶん見えていないだろう。
 本当はこれで解放してやろうと思っていたのに、戸惑いと含羞の交ざる表情を見ていたら、欲が湧いてくる。
「足は動かさないように、おとなしくしてな」
「オキタさん、――――」
 焦って押し退けようとする手を掴み、指の節を軽く食むと、ささやかな抵抗はとうとう止んだ。
 そこから先の領域は、言葉の意味はわからなくても、声色と仕草で、意図は十二分に伝わるものだ。

(朝から何してんですかこの人。)


永井くんはカタコトくらいなら喋れるけれど、話し相手がオキタさんだけなので語彙はない。



【駅前留学オキナガ。】
【シモネタ二回戦。】
※9月のお返事ページからそっと引き上げてきたよ。
※一回戦から続いてます。
※オキタさんにいい目を見せようキャンペーン中につき糖度増量。


『オキタさんは、沖田さんじゃない』
 その厳然たる事実を、永井は忘れたことはない。
 二人を重ねることは、どちらに対しても不誠実だ。
 だが、オキタには沖田との相似が多すぎてまったくの他人だと思いきれないのが、今、永井が陥っている困った状況の一因になっている。

 最初に抵抗しなかったせいか、オキタはことあるごとに永井を抱き締めてくる。
 『温かいから』というのが、オキタの言う最大の理由だ。そういえばやたらと厚着だし、弱りながら日光浴をしているもう意味不明なやつはいるし、ここの闇人は寒がりなのかもしれない。
 もっとも、オキタが本当に寒がりだとしたら家の中では軽装になる理由がわからない。おかげで、同じく浴衣もどき一枚で過ごしている永井は密着に戸惑うばかりだ。
 いまも、本を読むオキタの長い脚のあいだに挟み込まれる格好で抱きしめられている。着流しの下は足袋を履いただけの素足なものだから、なんだか目のやり場というか心の置き場に困ってしまう。
 闇人の真っ白い肌は見た目通りにひんやりと温度が低いが、触れる感触は人間と変わらず、くっついたままでいるとじわりと生き物らしい温もりが沁みてくる。……そこに、安らぎを感じるのも確かだ。
 いまは背中を預けているオキタの胸に手を当てれば、ゆるやかではあるが力強い鼓動も伝わってくるはずだ――先日、おかしな経緯でもって触れたオキタの脚のことも思い出してしまって、頬が熱くなった。
 当初の目的から離れて、もっと触りたいと、もっと触ってほしいと思ったことがばれていたら、とてもこんな風に安穏と落ち着いてはいられない。
 沖田のことは先輩として心から尊敬していた。今も、彼を思うと胸が痛む。……もしかしたら、恋に近い思慕さえ抱いていたかもしれない。
 はっきりとした形をとる前に伝えようもなくなってしまった思いを、似ているからと押し付けることだけはしたくないのに、オキタにこうして甘やかされていると、優しさに甘えて縋りつきたくなってしまう。
―― 勘違いだ。こんなの。
 考えていると苦しくなってきて、永井は背を丸め、自分の膝の上に顔を伏せた。
「眠いか?」
 子供にするような調子の質問に、黙って首を振る。
「どうした」
 温度の低い指先が、永井の耳の後ろからうなじを撫でる。ぞくりと込み上げたものから逃げたくていっそう身を縮めると、オキタが動きを追うようにのしかかってきた。
「なあ、どうしたの」
「なんでもない、です」
 永井のなかの人恋しさが、オキタの重みを喜んでいる。もっと触れて欲しい、触れたいと望む、腹の奥が疼くような不埒な感覚を含む欲が動いて、すこし泣きたくなった。
 生き延びるためだけに生きていたときは、こんな汚い感情など持たなかったのに。
「永井」
 沖田と同じ声が耳元で響く。
 閉じ込めるように抱きしめてくる腕を、ただ喜んで享受して、好意を示すために抱き返せる子供だったらどんなに良かったか。
―― 好きだったら、どうするっていうんだよ。
 とりとめない思考に浮かんだ言葉で、心が黒く塗りつぶされる。
 自分はこの世界では化け物だ。……人殺しの怪物だ。
 これ以上なにも望んではいけないのだと、わかっている。わかっているから、身体の芯がどこまでも冷えていく。
 崩れそうな体を支える助けが欲しくて、掴んだのはオキタの腕だった。……いっそ突き放されたほうが、諦めがつくのだろうか。
「……オキタさん」
 喉から絞り出した掠れ声で呼ぶ。
「俺、おかしいんです」
 答えはない。
 抱き締めてくる腕の力も変わらない。
「困らせるって、わかってるのに、俺……」
 呼吸が詰まって、うまく言葉にできない。小さく呻くと、「ゆっくりでいいから、言ってごらん」とオキタの優しげな声が響いた。
「……俺とオキタさんはちがうでしょう。どうして、そんなこと言えるんですか」
「違うからな。聞かないと、わからない」
 永井の身体を揺すりあげるように、抱え直したオキタの胸板に頬をくっつける崩れた姿勢で、ずいぶん伸びてきた髪を梳くように撫でられる。
 恋人同士だってこんなにべたべたしないだろうと思うと、自分達の関係が妙におかしくなってきて、永井は力の抜けた笑みを零した。
「聞いたら、嫌になりますよ」
「それこそ、聞かなきゃわからないだろ」
「『好きなんです』」
 オキタには通じない、人間の言葉で告げる。気持ちがあふれてオキタに抱きついてしまいそうなのを堪え、黒い袖を掴み、うつむいた。
「いま、なんて言った?」
「……こっちの言葉でなんて言うか、わからないんです」
 それは嘘ではない。
 ぽっかりと抜け落ちて、探せない言葉だ。
「近い言葉でいいから、教えてくれよ」
 なぁ、と、宥める温度の声音に促されて、永井はオキタの服を掴んでいた手をほどき、両腕で抱きついた。
 馬鹿のように震える唇をひやりとした頬に押しつけ、すぐに離す。驚きに見開かれた目と至近距離で視線が交わる。瞳孔と虹彩の区別がない漆黒、ヒトのものでは有り得ない色のそれに、自分はどう映っているのだろう。 
―― 沖田は、こんな自分をどう思うだろう。
 オキタの表情に戸惑いと拒絶を見つけてしまう前に、目を逸らす。
「すみません」
 割れた声で謝って、素早く離れようとした身は、強い力で引き寄せられて再び座り込んでしまった。
 背と腰をがっちりと固定するオキタの腕が、逃がすまいというように永井を強く抱き竦めてくる。
「どういうわけがあって謝るのかなんて、聞かないよ。でもな……」
 ふ、と溜息に似た吐息が頬に触れる。
「俺がどういうつもりでお前に触ってるのか、本当に、わかってないの?」
「え?」
 ますます固く拘束されて、オキタに寄りかかるように密着する身体の、尾骨あたりに違和感がある。
 何か、硬いような柔らかいような不思議な感触のものが挟まっている。永井が身動ぎすると、ますます存在を主張してくるそれは、位置的にいえばオキタの脚の間にある物体だ。
「お、オキタさん……あの、これ……なんですか」
 答えはわかりきっているが、訊かずにいられない。さっきまでの会話や葛藤から繋がる状況としてはあまりにも、ぶっ飛んでいる。
「……なんだと思う」
 艶のある低音を耳元に吹き込まれて、永井は「ひ」と呼吸を引き攣らせた。
「やっぱり、人間だと、こういう風にならないのか?」
「こ、こういうって……」
 ぐっと押しつけられ、存在感を増すソレに気を取られて舌がうまく回らない。
「今までも、気にしてなかったもんな」
『え、やっぱり半勃ちしてたんですかアレ!!』
 思わず母国語が飛びだした。
 実を言えば、オキタにくっつかれるたびに、『何か当たるな……』とちょっと意識はしていた。オキタがあまりに平静な様子だし、闇人だから構造が違うのかもしれないと気にしないようにしていたのだ。
『ちょっと待ってくださいよ、俺が変な風に思っちゃいけないとか頑張ってスルーしてて、でも気になってしょうがなくてつられてちょっと勃っちゃったこともあるんですけど? つーかオキタさんが俺んことやたら抱き締めるし撫で回してくるからしょっちゅうヤバくなって、そのたびに自分が死ぬほど情けねえし恥ずかしかったのになんすかそれ、わーもうコイツ、信じらんねええ!!』
 つまり、オキタは闇人だとか人間だとか、そんなことを気にする段階はとっくに飛び越えていたのだし、永井に向ける好意の中には不純な成分が含まれていたのだということになる。
 ……それが嬉しいなどと、塹壕があったらもぐりこんで土をかぶりたいほど恥ずかしい。むしろ自分で掘って入る。
「永井、永井。なに言ってるかはなんとなくわかるけどな、ちょっと落ち着け」
「わかられてたまるかよ!」
 オキタの腕が緩んだのをしおに、体をもぎ離して怒鳴りつける。永井は涙目になっているのに対し、オキタの目ははっきり笑っていた。
「じゃあ、さっぱりわからないから、俺たちがどこまで同じなのか、どこが違うのか、教えてもらってもいいか?」
 なにが「じゃあ」か。
 上手い切り返しなどなにも思いつかずに半泣きの表情をさらす永井の手を取ったオキタが恭しい仕草で甲に口付けてくるに至り、永井は羞恥と混乱で絶叫しそうになった。
 しなかったのは、オキタが呟いた短い音節が、聞き覚えのない言葉だったからだ。
 訊かなくても、その意味はわかる。
 自分が、言うべきことも。
「いまの言葉、知らないから。……近い意味で、教えてください」
 それだけ口にするのがやっとだったが、それだけで、十分に伝わったらしい。
「了」
 永井を真似た了解の返事を笑みのかたちで囁いた唇が、首筋に触れる。
 脈を速くした血管の辺りをぬるい舌に舐め上げられ、不快ではない戦慄が背骨から後頭部をぞくぞくと総毛立たせる。着物の袷から這いこんできた手が胸郭のかたちを探り、肌を撫でるのに、吐息が零れた。
「やっぱり、直接触った方が熱いな」
 永井のからだ。
 独り言に近いオキタの言葉に、余計に体温が上がる。
「オキタさんは、ぬるいです」
「気持ちいい?」
「悪くはないです……けど……っ」
 なだらかな筋肉の隆起を持ってはいるが膨らみとは呼べない胸の上、控えめに存在している突起の縁を辿る指先に声が詰まった。くるくると肌の感触の違いを確かめるように周囲を撫でられているだけで、中心がふっくりと立ち上がってくるのが乱れた袷から見えて、思わず目を逸らす。



※っていうところで書いてる人のタイムオーバーです。※
※誰か「まさに外道!」の赤ちゃんの写真ここに貼っておいてください。※
※「R-18展開になると思ったか? 全年齢はここまでだよ!!!」※
※そんな感じで。※

ぜんぶ寸止めじゃねえかということに今ごろ気付きました。
うん。
ひどい。


2013/01/28 19:32
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