リアタイからサルベージしてきたっすよ。
ほとばしるダイジェスト感。



【闇沢と闇沖闇永】
※ややグロ注意報
※匂わせ程度だけどリョナ注意報





 三沢の腰にひしとしがみつき、大きな背中に隠れる小さな青年。まるでそこが唯一の安全圏だと信じているようだ。
 それを笑顔で見つめている沖田が、表情ほど晴れやかな気分でないことは三沢にはよくわかる。
「永井」
 耳の中に蜂蜜でも詰め込まれるんじゃないかと思う甘い呼び掛けに、永井はいっそう体を縮めて三沢の足元に蹲ってしまった。三沢のズボンの裾をしっかり掴む右手はぶるぶると小刻みに震えている。
「三佐が困ってるだろ? こっちにおいで」
 返事をしない永井に焦れた沖田がこちらに近付いても、永井は立とうとしない。
「ほら」
 沖田が永井の腕を引いたとたん、永井は声にならない悲鳴をあげ、その手を振り払った。
 再び、今度は正面から三沢にしがみつき、胸に顔を埋めて泣くような呼気を繰り返している様は、酷く哀れなものだ。
「……おい、沖田」
 きっぱりと拒まれたショックがよほど大きいのか、茫然と間抜け面を晒している沖田を、しっしと手振りで追い払う。
「永井が怯える。消えろ」
「三佐ぁ」
「お前がいたら、いつまでたっても落ち着かないだろう。巡回でもしてろ」
 震えっぱなしの永井の背におかれた三沢の手を恨めしげに睨み、沖田は
「ちょっと預けるだけですよ、日が昇る前には引き取りにきますからね」
 母親のような念押しをして、振り向き振り向きしながら去っていった。
「奴は行ったぞ、永井。いい加減に離れろ」
 肩を叩いて促すと、永井はおずおずと顔を上げた。あたりを見渡して沖田がいないことを了解すると、大きな右目が三沢を見上げ、ほんの少し笑んだ。
 黒い紋様と引き攣れが走る頬の上、抉られた左目は包帯で隠れている。包帯と一緒に、紅殻と櫨染の布を永井に巻いてやったのも三沢だ。適当に選んだが、なかなか似合っている。
 沖田が身体中につけた傷痕も、うまく覆うことができた。
 まったく、沖田はどうかしている。
 沖田の殻が、永井の殻をとても可愛がっていて、命懸けで守るほど大事にしていたのは三沢も承知だ。
 だというのに、尋常ではない悲鳴に三沢が駆けつけた時は、沖田は闇人として覚醒したばかりの永井を押さえつけ、潰れた左の眼窩を舌で舐め抉じっている最中だった。
 攻撃の手段として柔らかい肌に噛みつきはしても、人間など……ましてや仲間になった殻を食うような習慣は自分たちにはない。
 永井の殻は着衣を乱され、ところ構わずつけられた無惨な傷や痣を晒している―――致命傷は腹部への打撲、内臓破裂か。あれでは、殻が死ぬまでにずいぶんと苦しんだだろう。
 それらが、沖田の仕業であるのは間違いない。……永井を拷問するような真似を、沖田がしてのけたのか。
 蛮行ともいえる沖田の所業を茫然と眺めていた三沢を自失から引き戻したのは、眼球を啜り出された永井の絶叫だった。肉体的な苦痛はほとんど感じない自分たちだが、それは、意識して痛覚を絶つことができるからだ。
 光を浴びる苦悶ばかりは、闇霊自体が焼かれる痛みなので克服できるものではないが、殻に引きずられて『人間的な』感覚が残っている者には傷の痛みもそれと大差ない。
 永井の叫び声は次第に途切れてか細い嗚咽に代わり、時折、手足をでたらめに痙攣させている。闇霊の修復も追い付かないようで、黒い血がじわじわと地面に広がっていた。
「沖田、やめろ」
 肩に手をかけ、制止した三沢を横目で見た沖田は、永井の血に汚れた顔で、ひどく愉しそうに笑っていた。
「あぁ、三佐。見てくださいよ。やっと永井を手に入れたんです」
「そいつから離れろ、沖田」
「どうして?」
 ぎちりと、肩口の傷を指で押された永井がまた、聞くに耐えない悲鳴を上げる。
「それ以上、永井を傷付けるな」
「傷つけてるわけじゃない。愛してるんです」
「なに……?」
 沖田は晴れやかな笑みをもって、呻く永井を抱き起こし、両腕で抱き締めた。
「俺は永井を愛してるから、これは必要なことなんですよ。な、永井?」
 優しく永井の髪を撫で、頬に流れる血を舐めとる沖田は――闇人の基準からしても、狂っていた。
 銃把で殴り付けて物理的に引き離し、無事な片目を見開いて震えている永井を水辺まで運んで血と泥と体液で汚れた身体を洗ってやり、引っかけただけの状態だった隊服も整えて、道中の民家で調達した布を巻いてやった。
 永井が口を聞けなくなっていることに気付いたのは、身支度を終えて心付き、三沢にしがみついて泣き出した彼をなんとか宥めてやった後だ。
 舌でも抜かれたかと危ぶんだが、それならばあの悲鳴もあげられなかったはずだ。
 口のなかと喉は無事だったので……否、沖田が永井の殻を殺すまでに、あるいは闇人に変じてからもどう嬲っていたかの一端を否応なしに知ることにはなったが、ともかく外傷が原因ではないことはわかった。
 心因性の失語症、という『人間らしい』症状くらいしか思い当たらない。
 信頼し慕う存在であった沖田が自分を徹底的に痛め付けたことは、永井にとってそれほど大きな衝撃だったのだろう。
 ともかくそれ以来、永井は沖田を怖がり、三沢に守ってもらおうとばかりにまとわりついてくるようになった。
 殻とは逆の立場だ。
 もっとも、三沢の殻は永井の殻にやや屈折した愛憎を抱いてはいたものの、実際に傷つけるようなことはしなかったし、守ってやろうとしていたのだから、三沢の側は変わらないと言えるが。
 目線が合えばにこりと笑み、寄りかかって甘えてくる永井の精神は殻よりもだいぶ後退しているようで―――沖田が殻を殺した時に、殻の心が壊れてしまったのを写しとったのだろうと、確かめようのないことを思う。
 沖田はそれを見ては、永井は自分のものなのにと不平を言うが、ああも怯えられていてはお笑い草だ。
 原因については自覚があるようだが、「だって永井が可愛いから」と全く悪びれる様子がない。
 石段に腰をおろした三沢の足の間に遠慮なく入り込み、膝に頭を預けてきた永井の頭に手を置く。
「お前も、厄介な男に好かれたもんだな」
「……ぁ……」
 乱暴に撫でられた永井は、三沢を仰いではくはくと口を動かし、殻は決して見せようとしなかった明るい笑顔を向けてきた。
 ……少しだけ、沖田の気持ちがわかってしまいそうで、三沢はそこからそっと視線を外した。


*********

食べちゃいたいくらい可愛かったんです。

こんなんでも、沖田さんが寝てると、そーっと傍に行って座ってる永井だったり。
起きると逃げる。

で、寝たふりしてたらじりじり近付いてきて、顔を触られたので、内心で、うおおおお!となってる沖田さんだったり。
目を開いて至近距離で視線があったら、しばし硬直。しかるのち、三沢さん部屋にダッシュで逃げてく永井に、まだ希望はあると思ったり。

三沢さんは安全牌で、永井の最強セコムだから任せて安心だったんだけど、雲行き怪しくなってきたり。


↓↓↓↓↓


【続いた。】


 両手を開いてバランスを取りながら、堤防の上を歩く永井の機嫌は良い。
 転げ落ちでもしないかと危ぶむ三沢の気も知らず跳ねるような足取りで進み、時折振り向いては三沢を待っている。
「永井」
 さして長さのない堤防の終わり、伸べた手を素直に握った永井は、勢いをつけて三沢の胸に飛び込んできた。
 予想していなかった衝撃にたたらを踏みながら、なんとか抱き止めて持ちこたえる。
「おい……」
 嬉しげに見上げてくる隻眼の無邪気さに、説教する気が削げた。纏う布越しに頭を撫でてやると、くふ、と息だけで笑う。
 いちど、三沢を両腕でぎゅうと抱き締めてから身をひるがえし、少し先にあった蒲の穂を折り取って振り回しながら歩き出す永井は、声が出せたら歌でも歌っていそうだ。
 まるきり子供のような仕草をして、行く先はきちんと巡回ルートを守っているのだから、壊れ具合がどうにも量れない。
 この島に残っている脅威といえば、屍人くらいなもので、たいした相手ではないと言いたいが……一藤と彼の率いる忠実な部下達の殻はどうにも厄介だ。
 自分達よりずっと劣った力しか持たない屍霊が、優秀すぎる殻を手に入れたことで力の均衡を保っている。
 味方にすれば頼もしく、敵に回せば恐ろしい存在、という言葉を実感する。永井連れでは彼らに出くわしたくないと思った先から、永井は腰に提げていた拳銃を抜き、無造作に発泡した。
 まだだいぶ離れた薮のあたりで、耳障りな金属質の悲鳴が上がる。
―― 屍霊か。
 三沢もまだ気付いていなかったというのに。
 しばらく辺りの様子を窺っていた永井は銃をホルスターに収めると、三沢を振り返って首を傾げた。
 期待に満ちた顔つきは、獲物を捕まえた猟犬のようだ。
「……ああ。よくやった、士長」
 褒めてやれば永井はにこりと笑い、意気揚々と巡回を再開する。
「最初からこうだったら良かったのにな」
 ふと口をついて出た言葉は、殻の記憶がもたらしたものか。
 ……もともと、経験や複雑な感情を持ち合わせなかった自分たちは、どうしても、殻の記憶に引きずられてしまう。
 壊れてしまっているとはいえ、永井が三沢になついているのは、あの反発ばかりしていた殻の中にも、三沢を頼る気持ちがあったのか。
―― いや、俺はそれを知っていた。
 不安に押し潰されそうな永井が、たったひとり残った上官である三沢に助けを求めていたことも、正気の境が曖昧になった三沢に対する失望や怒りが、期待の裏返しだったことも。
「変わらないのかもな、なんにも」
 あのとき出来なかったことを、殻のかわりにしているだけかもしれない。
 呟きを聞き咎め、不思議そうに瞬く永井になんでもないと首を振り、三沢はゆっくりと歩を進めた。
 夜はまだ長い。
 奇妙な散歩が終わるころには、おかしな感傷も消えているだろう。


*****


一方、沖田さんから延々と「永井が冷たい」のエンドレス愚痴を聞かされているスコップくんは、次回の巡回はなにがなんでもニヤニヤくんかパンダくんに代わってもらおうと半泣きだとかなんとか。

銃の手入れ中、油断するとくっついてちゅっちゅしてくる永井をべりっと引き離して、スコップくんに、こいつ預かってろ絶対に沖田には渡すな、と押し付ける三沢さんとか。
三沢さんに対してほどじゃないけど、そこそこなついてて大人しくしてる永井に、気付いたら小銃分解されててウワアアアってなるスコップくんだけど、きちんと元通りに組み立てていく永井くん。
そういえばコイツ(の殻)、組み立て得意だっけと思い出してほっとしたスコップくんに銃を差し出して、『ほめて』って感じの永井くん。
……誰も見てないし。
よしよしと頭を撫でると、にぱーっと笑うので、なんだか自分まで嬉しくなってきたところで、ぎゅっと抱きつかれてアワアワ。
……だ、誰も見てないし!
そろっと抱き締めかえしてみた、とこで。

「スコップくん。そこに、永井いるよな?」

高性能永井センサー搭載の沖田さん登場です。
絶体絶命スコップくんの明日はどっちだ。




2012/11/24 20:46
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