室外機ってあったっけ……マジで……?
………ああ、あったん……だ……。


うん。

つまり、遅くても昭和34(1959)年程度の文化はがっつりあるんですね。
ALLWAYS三丁目の夕日ぐらいに年代を引き上げとくべきなんですね……オッオウ、トラップ。

(永井くんが落っこちたのは夜見島=リゾート地だからアレなんであって、他の場所はまるっきり昭和80年の生活してる説もあるそうですね。
 乗車率200%の通勤電車に揺られる闇人……見てみたい……。)



………えっと。



気に★しない! (・∀・)b グッ!!


(記憶に蓋をした!)


しかしオート三輪に乗る闇人はかわいいな。とてもかわいい。

あれだよ、田舎のばあちゃんちなみにクラシックな生活をする(婉曲表現)オキタさんちにも、薪ストーブと扇風機ぐらいはあるよたぶん……。
でもご飯は釜で炊いてるんだよ……。
真空管ラジオもあるよたぶん。
野球中継聞いたりするんだよ……メジャーリーグ出身の助っ人選手が甲式なので「守備および、ベースを踏むのに有利すぎるのではないか」と物議をかもす闇人野球。
どないやねん。

そういえばあの世界、電灯はあるんでしょうかね。
ブラックライト的なものならありそうです。



+++++++


【というわけで。】
【続きものとは全然関係ない話:PART2】




 永井がなにも言わず、家から消えた。
 と、元から白い顔を青くして駆けこんできたオキタに、ミサワは無言のまま、奥の間を指した。
「……まさか」
「自分で見てみろ」
 靴を脱ぐのももどかしく、廊下を走ったオキタは勢いよく襖を開け放った。ひやりとした空気の流れが身を包み、目に飛び込んだ光景に、呼吸が止まった。
 部屋の真ん中。
 畳の上に、鮮やかな黄の帯と、藍色の布が乱れて広がっている。その上に仰向けに倒れているのは、纏っていた布を剥がれたかのように、無防備な長襦袢の姿を晒す永井だ。
 しどけなく開かれた脚の、太股までの素肌が割れた裾から覗き、上も肩までが半脱ぎの状態になっている。ぐったりと動けずにいる様子に、オキタはすっと血の気が引いていくのを感じた。
 襖にかけたままの手が震える。桟をきつく握り、オキタは深く呼吸した。
 逆上してはいけない。経緯も何も、わからないのだから。
「ミサワさん……あんた、永井に何をしたんだ……?」
 それでも、呟いた声は掠れていた。
「それはこっちの台詞だよ」
 立ち尽くすオキタに、さもうんざりしましたと言わんばかりの疲れた表情を向け、ミサワは部屋にずかずかと踏み込むとそのまま、素足の先で永井の肩を蹴った。
「おい、いつまで寝てるつもりだ、永井」
「ふえ? あー……三佐……じゃなくて、ミサワか」
 寝ぼけた声を発しつつ、永井がむくりと起き上がる。
 口元を手の甲で拭っているのは、よだれを垂らしていたらしい。……他に、何か怪しからぬ液体にまみれているなどとことはない。
「呼び捨てとは、いい度胸じゃないの」
「はいはい、ありがとうございましたミサワさん。おかげで……」
 ん、と、永井が部屋の入口の方に視線を向けた。まばたきを繰り返し、オキタの姿を認めて呆気にとられた顔をする。
「オキタさん?」
「お前が心配で心配で、ここまで迎えに来たんだとよ」
「えっ、本当ですか? ミサワの家に行くって、書き置き残してきたのに」
「お前、文字なんか書けたのか」
 再び呼び捨てにされたミサワが苦虫を五、六匹ほど噛みつぶした顔で問うと、永井はむっと口をとがらせた。
「ったり前だろ、国語は最低でも3は取ってん…………あ」
 言いながら、はっと思い当った顔になり、罰が悪そうに笑う。
「……読めませんよね」
 闇人の文字は、永井には意味不明の記号の羅列にしか見えない。逆も然りで、オキタには永井の書く文字は理解できないのだ。
 そういえば何か書き殴った紙が卓袱台に置いてあった、と思い出して、オキタは肩の力を抜いた。
「それで? ミサワさんの家で、何やってたんだ」
「クーラーあるから、オキタさんが帰って来るまで涼もうと思って……っくしゅ」
 着崩れた長襦袢をもたもたと直しながら、永井が小さくくしゃみをする。
「……いくらなんでも、冷やしすぎだろう」
 聞こえよがしの溜息をついたミサワは、永井の襟を直してやり、嫌がる永井に構わず、床に放りだされていた単衣を着せかけ、帯と羽織を渡してやった。
「ほら、帯は自分で結べ」
「言われなくてもやりますよ」
 鼻の頭に皺を寄せ、ミサワの手を振り払う永井のつんけんした様子に、先ほどとは違う種類の眩暈を覚えて、オキタは口許に手を当てた。
「永井……」
「はい?」
「いつのまにそんなにミサワさんと仲良くなったんだ……?」
「仲良くねえよ」
「仲良くないです」
 不機嫌そうな声と不本意そうな声がきっちり重なる。
「それならどうしてわざわざミサワさんの家に来るんだ」
 他に知り合いがいないから、という妥当な理由はある。それでも、聞かずにいられない。
「え、だって、オキタさんちクーラーないですし……」
「クーラーぐらい言ってくれれば買うよ! それぐらいの金はあるよ!」
「だってオキタさん、寒いの苦手だって言うから……」
「それはミサワさんも同じだぞ」
 永井にとってはちょうどいい気温らしいクーラーは、闇人にとっては少しばかり寒すぎる。いくらミサワが頑丈だといっても、ここまで冷やされたらたまったものではないだろう。
「ああ、電気代は後で請求するからな」
「けち!」
「じゃあ、お前が体で払うか」
「農作業でも飯炊きでもなんでもやってやるよ、野外炊具1号と耕運機転がすぐらいは楽勝だっつうの」
 なぜか喧嘩腰でよくわからないことを言いつつ、ミサワに歯を剥く永井は、どうにも―――大きな犬に向かってキャンキャン吠え立てる子犬のように見える。その尻尾はきっと、ぱたぱたと元気よく振られているのだ。
 いったいいつからこんなに懐いていたのか、油断も隙もないと思いつつ、オキタは永井が拾い上げたもののまだ手に持ったままだった日除けの布を取り上げ、手早く巻き付けてやった。
 ミサワの時とは違い、永井が目を細めて大人しくしていることに多少どころではない優越感を覚えるが、それはそれ、これはこれだ。
「永井が出歩きたいのはわかるよ。けどな、いつ誰に見つかるかもわからないんだ、一人で遠出するのはやめてくれ」
「了……すみません、オキタさん」
「わかればいいよ」
 わかりやすくうなだれてしょげる永井の頭をぽんとひとつ叩き、さりげなく肩に手をかけつつ、オキタはミサワににこりと笑いかけた。
「うちの永井が、どうもお世話になりました」
「……“お前の”永井なら、放し飼いにしないで鎖につないでおけ」
 付き合いきれないとばかりに首を横に振り、ミサワは手の甲を表に向けて、犬でも追い払うような手付きをした。
「俺は犬じゃねえよ」
「勝手に冷蔵庫を漁るぶん、野良犬より性質が悪いな」
「飲んでいいか聞いたじゃないですか」
「返事をする前に飲む奴があるか」
「……永井……」
 むっとした永井とまたも言い争いを始めたミサワが、微妙に楽しそうなのが実に不穏だ。
 オキタが沈んだ声で呼ぶと、永井ははっとした表情で首を横に振った。
「ミサワさんがサイダー飲めないっていうから、消化手伝ってやっただけですよ」
「酒屋が置いてったやつだ。甘ったるくて俺は好かん」
 永井の弁解をミサワが補強する。
「……飲めないものをわざわざ冷やしておくんですか、ミサワさん」
「他に入れる場所がなかったんでな」
 オキタの追及をしれっと流して、ミサワはクーラーのスイッチを切り、窓をあけた。
 ぬるい空気と夕暮れの涼しい風が一緒に吹きこんでくる。
「それじゃ、おいとましますかね。ほら、永井」
「お邪魔しました」
「ああ、気をつけて帰れよ。バケモノが出たら俺が退治に行かなきゃならんからな」
 ぺこりと頭を下げる永井に物騒なことを言うミサワの優しさは、今度はきちんと伝わったらしい。
 ちらりと歯を見せて笑ったのは、見逃してやることにした。
 いちいち悋気するのは大人げないし、永井の味方は多いほうがいい。



 オキタの家までの道を並んで歩きながら、永井のミサワに対する悪態まじりの報告を聞いて、顛末はわかった。
 さかのぼること数日前。家の中があまりに暑くて、水辺に行けば涼しいのかとさまよい出した永井は、人目を避けるための重装備が裏目に出て余計に暑くなり、川べりでぐったりしていたところをたまたま通りかったミサワに捕獲されたのだという。
 ミサワの家には文明の利器・クーラーがあると聞いてくっついて行き、オキタのいない日中はミサワの家で涼むのが習慣になっていたが、今日は、うっかり眠り込んで帰りが遅くなったと。
「なるほどな」
 これは本格的にクーラーの導入を検討しなければ、と、夕焼け空を眺めながら吐息する。
 金がないわけではない。必要がないから取りつけていなかっただけだ。必要が生じたのだから、ここが金の使いどころだろう。
 ついでに、永井が喜ぶようなものを見繕えないかとぼんやり考えて、当の永井がやけに大人しいことに気付き、目線を横にやる。片手でこめかみを押さえている永井の様子が何を意味するのか、今はもう知っている。
 オキタの視界でものを見ているのだ。
「……あ」
 オキタが永井を見ていることが悟られないわけがない。永井は手を下ろし、オキタと目線を合わせて罰の悪そうな笑みを見せた。
「すみません、勝手に借りて」
「いいよ。……だけど、これくらいなら、まだ見えるだろ?」
 ぽつぽつと灯り出した街灯は、永井の目にはまるで役に立たないのだというが、まだ陽は落ち切っていない。
 オキタの目を使わなくても、足を取られたりはしないはずだ。
 なぜ視界を盗むのかと訊くと、永井は暮れる空を見上げてつぶやいた。
「オキタさんの目だと、夕焼けが見えるんです。世界は真っ赤じゃなくなるし……そんなに悪くないような気がして……」
 言葉を切り、唇を噛む永井の胸に去来するものが、奪われたものへの郷愁なのか、奪ったものへの悔恨なのかはオキタにはわからない。
 どちらにしても、今はオキタが傍にいる。
 オキタは、ゆるく握られた永井の拳を上から包むように手をつないだ。
「晩飯さ。ここんとこずっと魚だったろ。今日は肉があるから、楽しみにしてろよ」
 笑いかけると、あかるい色の瞳が潤む。それでも、オキタの表情をうつしとったように和む口元がいじらしい。
「……はい」
 頷く永井にいったんほどかれた手指が、しっかりと組み合わされて結ばれた。

 今していることが世界のことわりに背く罰あたりなら、この手が決して離れなくなる呪いにでもかかればいいのにと、ばかなことを考えた。

2012/09/27 20:50
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