平行世界の沖永不定期連載を読んでる方用。 コメントお返事のおまけ用に書いていたのですが、軽くぶちこわしテロなのでやめました。 ひっどい捏造&連載の内容とはまったく関係ないひどいネタでもバッチコイな方だけどうぞ。
※こんな展開にはなりません。※
※あまりのくだらなさに書いたことを深く後悔しはじめていますがモッタイナイ精神を発揮してここに墓標を建てよう……。※
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【レッツ駅前留学】 <前回までのあらすじ> いろいろあって、闇人オキタと永井は言語の壁を乗り越えたよ!
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「……ずっと、聞きたいことがあったんですよ」 押し殺した声は、緊張に満ちている。 火鉢の横で煙管を吹かしていたオキタは、なぜだか正座の姿勢でうつむき、固めた拳を膝に載せている永井に向かい、首を傾げた。 「なに?」 「オキタさんって……」 思い切ったように顔をあげた永井の、切羽詰まった光を宿した瞳に、真っ直ぐ射られる心地がする。 初めて出会った時からそうだった。永井の目は、闇人の持ち得ない輝きで、オキタの心を惹き付ける。 こんな眼差しで、何を告げるのだろうか。 期待と不安に揺れる、痛いほどの静寂を、 「し……下の毛はどうなってるんですか!」 永井の早口の叫びが打ち破った。 ……数秒、空白の時間が流れる。 ――― 下ネタきちゃったかぁー。お兄さん、これは予想外だったなー。 精神的な衝撃による自失から冷め、オキタは、思い詰めた表情の永井に質問を返した。 「なんでそんなこと聞くの」 「だって、眉毛っつうか産毛もないし、髭も生えないし、ひょっとしたらすね毛もないのかって、気になってしかたないんですよ!」 ないわけじゃない。 確かに永井のように黒くはないが、ちゃんと生えている。 家ではほとんど着流しで過ごしているオキタを見ていればわかりそうなものなのに、なんで無いなんて思ったんだ、と、問おうとして、永井は光がないとものが見えないのだということを思い出した。 「あのな、永井。色が違うだけで、お前とそんなに変わらないよ」 「そうなんですか?」 「……手を出して」 手招きに応じて、素直に近寄ってきた永井の手首を掴み、眉のあたりを触れさせる。 「あ、生えてる」 「な?」 「もしかして、髭もですか」 「それは毎朝、当たってるよ」 「本当ですか。全然、気付いてなかったです」 目を丸くする永井は、そういえば髭が薄い。渡した剃刀も、数日に一度くらいしか使っていないようだ。 体毛も色が濃いわりにはさほど目立たないのだから、人間は皆そういうものかと疑問がわいた―――ところから、良からぬ考えが浮かぶ。 「ところで、さっきの質問だけどな」 「はい?」 きょとんとする顔がやけに可愛くてほんの少しだけ罪悪感がわいたが、これも期待を肩透かしした報いだ。 ちょっとくらい脅してやってもいいだろうと、オキタはもう一度、永井の手首を掴んだ。 「“下の”毛がどうなってるか気になってるんだったな」 「へ……?」 「触ってみるか?」 首もとから胸に永井の手を滑らせると、とたんに目を見張り、『い』の形に唇を開いて固まるのが面白い。 「い、い、いいです!もうわかりましたんで!」 「駄目だろ永井、知りたいと思ったことはちゃんと確かめないと、身に付かないぞ」 「おかまいなく!」 オキタの手を振りほどこうともがくのに、わざとらしくため息をついてやる。 「やっぱり永井は、俺のことを信用しきれてないか……俺は永井を信じて、触ってもいいって言ってるのにな」 「オキタさん……」 勝ち気そうな顔を困惑に曇らせ、うろうろと視線をさ迷わせる永井の手を、オキタはそっと離した。 吹き出しそうなのを堪えて、優しく微笑んでみせる。 「いいさ。俺に触れなくたって、永井のことは……」 「触ります!」 「え」 思い詰めた叫びとともに、永井が体当たりしてきた。不意打ちをくらった形で、後ろに倒れた視界に、のし掛かってくる永井が映る。 ――― なんだか覚えのある景色だな。 あのときと違うのは、永井が放つのは殺気ではなく可哀想なくらい必死な雰囲気であることと、眉根を寄せた涙目をしていることだろうか。 「オキタさんが俺を信用してるんなら、触れないわけないです! でも、あの……き、緊張するのは、オキタさんがオキタさんだからで、闇人とかそんなの関係なくて……」 顔を赤くした永井の弁解に、オキタは、頭の中で理性を支えているゼンマイが何本か切れるのを感じた。 ――― なにこの可愛いいきもの。 抱き締めてしまいたい衝動を、寸でのところでこらえる。 まだ駄目だ。 ――― 永井が自分で触る宣言したのに!!! そう。 永井からの行動。ここが重要なのだ。 人になつかないヤミピカリャーが身を擦りよせてきた時のような、否、それ以上の感動が、そこにある。 「やさしくしますから……っ!」 永井の震える手が、オキタの腰帯を解きはじめる。 これは、生命の危機ではないが、貞操の危機かもしれない。 なぜか、止める気にはまったくならないが。なんでかなあ、なんでだろうなあ? 「健康優良日本男児永井頼人、行かせてもらいますっ!」 よくわからない宣言と共に裾を割った手が、オキタの固い太股を探り、ぴたりと停止した。 「あ、の……?」 永井にとっては薄闇の世界でも、オキタには明るい昼下がりである。戸惑いに揺れる目も、進めることも引くこともできずに停止した右手も、唾を飲んで動いた喉も実によく見える。 「どうした?」 「いや、その……ええと……」 「触るんだよな?」 「なんで、オキタさんまで触ってるんですか」 オキタの手は、自分の腹に跨がる永井の腿に添えられていた。 部屋着で足を広げているものだから、帯を解くまでもなくさわり放題である―――もちろん、健康的な肉付きの脚はしっかり見えている。柔らかくはないが、指を押し返す張りと弾力はなかなかさわり心地が良い。 「お前だけに触らせるんじゃ不公平だろ。俺も永井をちゃんと信用してるって、教えたいんだよ」 「だ、だからって……ぅあ!?」 体温の高い人間の、身体の芯に近いのかいっそう熱を放つ内腿のきわどい部分に向けて指を滑らせると、永井がびくりと震える。その反応と、腕や背中とは違う、指先に吸い付く肌触りがオキタを高揚させた。 小さな円を描いて撫でさすってやれば、永井は困惑に唇を噛む。彼にははっきりとは見えていないのだろうオキタに縋る目を向けてくるのが、ますます嗜虐めいた気分を高める。 「ほら、永井もちゃんと触って」 「う……了……」 我ながら甘い声の命令に、永井はぎこちなく頷いた。そこに羞恥と逡巡はあっても、嫌悪の素振りはない。オキタの手の動きに合わせて、おずおずと触れてくるのがなんとも愛らしい。 それだけオキタに心を預けているのだと思うと、深い満足を覚える。 自分は酷い男だ。他に寄る辺のない永井に……自分に見捨てられたら、またひとりきりになってしまう永井につけこんで、彼を手に入れようとしている。 永井の指先が腿の付け根に届き、オキタも同じ場所に触れた時。 「オキタ、邪魔するぞ」 無愛想な声と共に、障子がすぱんと開いた。 誰かなど誰何する必要もない。赤い頭巾の大男、ミサワである。 「…………ああ、本当にお邪魔だったみたいだな。悪かった」 目を見開き、全身を硬直させている永井と視線を合わせることたっぷり十五秒。 ミサワが吐き出した、まったく悪いと思っていなさそうな謝罪を聞いて、永井は声にならない悲鳴をあげた。 オキタの上から転げ落ちるようにして離れ、ミサワの横をすり抜けて廊下に駆けだしていってしまう。あとに残されたオキタは、不機嫌もあらわにミサワを睨みつけた。 「ミサワさん……なんの嫌がらせですか」 「お前こそ、アレをいつまで飼っておくつもりだ。さっさと殺せ」 ひどい言い草だが、ミサワがその気なら永井はとっくに始末されている。 ミサワもきっと、あの、どこから湧いてくるのかわからない庇護欲じみた感情を、永井に対して持っているのだ。 邪魔をしたものわざとに違いない。 「言っときますけど、永井は俺のですからね」 「じゃあ、お前が永井に飼われてるってわけか。笑えないな」 ふん、と鼻を鳴らして、ミサワは手に持っていた風呂敷包みをオキタの前に放りだした。 「貰いもんの余りだ。適当に食え」 「やあ、どうも。助かります」 包みの隙間から、芋やら葉物野菜やらが覗いている。 「永井も喜びますよ」 「……それは、どうでもいい」 ミサワの視線が軽く泳いだあたりで、笑いそうになったのを頬肉を噛んでこらえる。 「じゃあな」 踵を返し、廊下に出たところでミサワが「ん」と唸った。 たぶん、どこかから永井が覗いていたのだろう、障子戸がずいぶんな勢いで閉められる音がする。 「オキタ。あいつに、礼儀ってもんを教えとけ」 「ミサワさんはすっかり怖がられちゃってますからねえ」 じろりと睨まれて、オキタはにっこりと屈託のなさそうな笑みを返した。 いいところで邪魔をされたのだから、これぐらいの意地悪は許されてしかるべきだ。
ミサワが帰ってしまうと、おそるおそるといった態で永井が戻ってきた。 廊下から覗く彼に、愛想よく微笑んでやる。 「おかえり、永井」 「た、ただいま……戻りました」 ばつが悪そうな顔と目が合うと、すぐに逸らされた。 到底、先程のあれを再開する雰囲気ではない。 「こっちおいで」 膝を叩くと、「俺は猫かよ」とむくれつつも、ちゃんと寄ってくるのがまた可愛い、と思う。 拳みっつぶんほどの距離をあけて腰をおろした永井の腕を引っ張り、背中から覆いかぶさるように両腕を回して身体を抱えこむ。 わ、と短い悲鳴をあげたものの、永井は少し居心地が悪そうにもぞつくだけで、抵抗はしない。密着すると、人間特有の高い体温が布越しに伝わり、オキタを温めた。 「永井はあったかいなぁ」 「オキタさんはぬるいです」 言い返しながら、永井は体の力を抜いて、オキタに背中をあずけてきた。 「あ、」 声をあげた永井が、オキタの脛を掌でさする。 「ほんとだ、生えてますね! 謎がぜんぶ解けました!」 「……うん、まあね」 確かにそこも気にしてたね。 色気もなにもない状況に落胆しつつも、永井が笑っているのがやっぱり可愛いので、今はこれでいいか、と思うオキタだった。
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