ぷらいべったーに放り込んで忘れていた、「夢十夜」パロ沖永と三永っぽいものをそっと投下。
卑猥は一切ない。

死に別れカップリングでは、とりあえず誰もが一回はやるよね!!と信じている。
つらくなってきたとき、心がほんのり救われるのでお勧めです。

しかし、元ネタからあんまりひねれませんでしたね……。
※勿論、原典小説が至高にして究極なので、現国で習ったけどよく覚えてない方、未読の方は、青空文庫のURLくっつけておくのでご参照ください。

原作:『夢十夜』夏目漱石
参照:青空文庫『夢十夜』のページ

夏目漱石パロといえば最近は「こころ・オブ・ザ・デッド」が好きです。
(まんがの更新がなくなって打ち切り臭が漂ってきてスリリングだね!)
先生とKの関係性は原作以上にブロマンスですね。良いものです。
坊ちゃんが神代淳に見えてくる程度のダメ視力の持ち主です。

三永は第十夜か、第三夜「こんな夜だったな」がいいなぁ。
ウルトラハッピーエンド改変でお願いしたいです。

というわけで、2本めはひっそりと三永の「こんな夜」っぽい超訳SSSを詰めておきます。
(「こんな夜だったな」にはさらに民間伝承の「六部殺し」という元ネタがあるそうで。
 諸星大二郎先生の「妖怪ハンター」で習ったところだ!と、進研ゼミ状態になったりする。)
(妖怪ハンターHIRUKOのDVDを所持していて、年に一回なんとなく見返してしまう程度には好きです。)
(妖怪ハンターつながりで、SIRENファンには「奇談」のほうお薦めしておきますね。原作「生命の木」の実写化ですね。)
(映画SIRENよりSIRENしてるって評判のアレです。みんなでぱらいぞさいくだ!)
(映画SIRENはあれはあれで……まあ、あれはあれで……。)
(「ここにTRICKのコンビが来たら一挙解決だよな」って思いながら見てると面白いですね。その場合、ヒロインは99%の確率で死ぬ。)

BL要素はどっかにサヨナラしてますが、自分が三永だと思ったら三永なんだと思いたい。



【第一夜】

 こんな夢を見た。
 真暗な空の下、火の粉を噴き上げるヘリの傍らに腰を下ろしている。
 腕の中には、破れた胸から血を流し、呻き声も次第に弱くなる男が辛うじて息をしている。自分の先輩である。ヘリが墜落したのだ。自分は先輩が庇って呉れたお陰で無傷だった。
 体のあちこちが折れ破れている酷い有様でも、先輩の顔は綺麗なままであった。元より日に焼け難く白い顔は青く透き通り、苦し気な様子ではあるが、鼻筋の通った好男子らしい容貌は少しも損なわれていない。目を開けて、よう、と笑いかけてくれそうである。
『そんな顔をしてどうした。今は課業に集中して、泣き言は後にしろ』 
 自分の頭の中には、叱咤激励する先輩の姿がありありと浮かぶ。其れは、兎角難儀な事の多い訓練のさなか、前に進めば終わりはあるのだと、丸めた背中を押して、尽きかけた気力を奮い起こしてくれるあたたかな記憶だった。
 それでも、先輩の体からは次第に温もりが失せていくようであった。死なないでください、抱きしめて体温を移しながら呼びかけると、先輩は薄く、瞼を持ち上げた。
 死なないでくださいよ沖田さん、繰り返し言い聞かせると、先輩はゆるりと瞬いて、微かな声でもう駄目だろうと言った。そんなはずはない。ついさっきまで元気だったじゃないか。癇癪を起こしかけるのを宥めるように、駄目なんだよ、と、細かな血泡を唇の端に乗せて判然云った。自分の目からは涙が幾滴も滴った。体中の水という水が全て搾り出てしまうのではないかというほど、涙は止まらなかった。
 後から落ちる涙で唇を湿らせると、先輩は黒い目を眠そうに撓ませ、泣くなと言った。それでも、どうにも泣けて堪らなかった。泣きながら、どうしても死ぬのかなと思った。
 しばらくして、先輩は息を弱く吐いて、囁き声で言った。
「死んだら、埋めてくれ。大きな甲羅で穴を掘って。砕け落ちた欠片を残らず集めて、89式を墓標に置いてくれ。そうして墓の傍に待っていてくれたら、また逢いに行くから」
 自分は、いつ逢いにくるかと尋ねた。
「赤い空に、黒い日が出て、沈んで、また出て、沈む――黒い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、――待っていられるか」
 返事は涙で喉に詰まって仕舞ったので、自分は黙って首肯いた。先輩は静かな調子をふと、いつもように張って
「百年待っていてくれ」
と思い切った声で云った。
「百年、俺の墓の傍に坐って待っていてくれ。きっと逢いに行く」
 自分はただ待っていると答えた。すると、先輩がはっきり開いた黒い眸のなかに鮮に見えた自分の姿が、ぼうっと崩れて来た。白く濁りだした眼球の、すっと伸びた睫の間から赤い涙が頬へ垂れた。――もう死んでいた。
 自分はそれから其処を離れ、あちらこちらを巡った末に、先輩の言うとおりにした。甲羅で穴を掘った。甲羅は大きく凸凹として白っぽく汚れていた。土をすくうたびに、甲羅の縁に街灯の光が当たって鈍く光った。湿った土の匂もした。穴はしばらくして掘れた。泣き疲れて力の抜けた心持ちで先輩に別れを告げ、掻き集めた先輩をその中に入れた。そうして柔らかい土を、上からそっと掛けた。掛けるたびに青い色が視野で揺れた。
 それから89式を拾って来て、土の上へそうっと乗せた。89式は砲身に熱を帯びて傷だらけで、ずしりと重かった。途轍もなく長く感じる短い間にあれこれと働いたから、疲れているんだろうと思った。抱き上げて土の上へ置くうちに、自分の胸と手が少し暖くなった。
 自分は砂利の上に坐った。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組をして、墓標を眺めていた。
 そのうちに、先輩の云った通り日が東から出た。大きな黒い日であった。黒い日に照らされた空は真っ赤に染まり、不吉な夕暮れのようであったが、ともかく朝が来たことに安堵した。それがまた先輩の云った通り、やがて西へ落ちた。真っ黒いまんまでのっと落ちて行った。一つと自分は勘定した。
 しばらくするとまた漆黒の天道がのそりと上って来た。そうして黙って沈んでしまった。二つとまた勘定した。
 自分はこう云う風に一つ二つと勘定して行くうちに、黒い日をいくつ見たか分らない。勘定しても、勘定しても、しつくせないほど黒い日が頭の上を通り越して行った。それでも百年がまだ来ない。しまいには、すっかり錆びついて苔の生えた墓標を眺めて、自分は先輩に欺されたのではなかろうかと思い出した。
 なにも悪気があったわけではなかろう。自分があまり嘆くから口先の慰めを言ったのではないかと。
 譬え騙されていたとしても、赤い空の下で茫と座り込んでいるうちに涙も枯れた。先輩は死んで仕舞ったのだと、すっかり納得もしていた。
「……さようなら、沖田さん」
 何時だか告げた言葉を、こぼれ落ちるように呟いた。
 すると石の下から斜に自分の方へ向いて青い茎が伸びて来た。見る間に長くなってちょうど自分の胸のあたりまで来て留まった。と思うと、すらりと揺ぐ茎の頂に、心持首を傾けていた細長い一輪の蕾が、ふっくらと弁を開いた。真白な月下美人が鼻の先で骨に徹えるほど匂った。そこへ遥の上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。
 自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花弁に接吻した。柔らかくひいやりとしていた。自分が月下美人から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。
 見慣れた赤い空ではなく、藍色の、当たり前の夜明け前だった。
 冷たい空気の中に、花の様に白い日が昇ることを自分は疑わなかった。
「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気がついた。


 起床ラッパで目が覚めた。機会仕掛けの人形のように仕度をこなし運動場に走り出て、いつもと変わらない先輩の姿を認めた時ようやく、あれは夢だったのだと得心して胸の底から安堵した。



【第三夜っぽいような、趣を異にするなにか】

 長いドライブの終着点は、真っ暗な海辺だった。
「着いたぞ」
 揺すり起こされ、目をあけると盲いたかと疑いを抱くほどの闇の中に波音が響いていた。こちらが起きたと見るや、運転手はさっさとドアを開けて外に出ていった。車内灯が眩しくて、幾度も瞬きをする。
 トランクの開く音がして、がさがさと荷物を探る気配がした。自分も、座席の下に用意していた懐中電灯を手に車の後ろに回る。
「三沢さん。運びます」
「じゃあ、こっち」
 渡されたのは、釣竿が入っているナイロンバッグだ。クーラーボックスとバケツを抱えた姿が様になる三沢さんは、すたすたと大股に堤防に向かう。
 真っ暗闇だと思っていた堤防のそこここに、赤い光が点っていた。その上を辿れば、蹲った人影が幾つもある。
「人がいる」
「そりゃあいるよ。密漁じゃないんだから」
 驚いていると、追いついた三沢さんが呆れながら、赤い光は夜釣り用の電気浮きだと説明してくれた。
「魚は光に集まってくるからな。灯台の方に行くぞ」
「了」
 堤防の突端、白い明かりをくるくると目玉のように光らせている灯台に向かい、しばらく歩く。灯台の下に辿り付くと、見上げる光の筋の中に虫が集まって舞っているのが見えた。
 小さな折り畳み椅子を二つ置いて、三沢さんが手にしていたランタンを消しても、灯台からの明かりで手元はぼんやりと見える。クーラーボックスから取り出した釣り餌は、ぐにゃぐにゃした胴を嫌らしく光らせた足の多い気味の悪い虫だ。暗いお蔭でいくらか緩和されているが、明るい場所でじっくり眺めたい代物ではない。顔をしかめていると、三沢さんが眉を上げた。
「つけてやろうか」
「自分でできます。……やり方が、よくわかんなかっただけっす」
 虫が怖くて自衛官などやっていられない。三沢さんの慣れた手つきをお手本になんとか針にひっかけたのを、こちらも見よう見まねで竿を振り、海面に放り込む。
 椅子に座り、すぐ足元まで迫るような夜の海を眺めていると、三沢さんがふと口を開いた。
「大人の体の六割は水分なんだってな」
「……はあ」
 この人の話のとっかかりが唐突なのは慣れている。何だかはわからないまま適当な生返事をすると、三沢さんは少し笑ったようだった。
「永井は、七割ぐらい水かもな」
「ぴちぴちしてるってことっすか」
「そうだな。若いほうが水分量が多い。年を食うとだんだん少なくなっていくんだ。母親の腹ン中にいるときは水浸しで、最期は火の中に放り込まれて灰になる……」
 ぐ、と三沢さんが先が動いてリールを巻く音が響き、闇の中に銀色がひらめいた。
「永井、タモ」
「はい!」
 慌てて竿を下に置き、差し出した網の中に、三沢さんが手繰り寄せた魚が綺麗におさまる。
「なんすか、何が釣れたんですか」
 網の中で跳ねる魚を懐中電灯で照らすと、手のひらより少し大きいぐらいの、銀に黒っぽい模様が目立つ魚だった。なんとなく、見覚えのある形をしている。
「チヌだよ」
「チヌ?」
「魚屋だとクロダイって呼ばれてんな」
「鯛釣れるんすか! すげえ!」
 ついはしゃいでしまう。三沢さんは魚にかかった針を外し、クーラーボックスに放り込みながら「これは小さい方だよ」と素っ気なく応じた。……いや、ちょっと残念がってるのか、わかりにくい。
「じゃあ次いきましょう、次!」
「元気だな」
 嫌味ではなさそうな、すこし楽しげな声音に俺の気分も上向く。夜釣りに誘われた時はなんで俺なんだとか、ヘマしたら突き落とされるんじゃねえかなどと怯えたが、三沢さん以上の大物が釣れたらそれも気分がよさそうだ。
 と、追いていた竿がしなり、慌てて手に取った。リールがカラカラと音を立てて回り、釣り糸がのびていくのを止めようとハンドルに手をかけると、すごい力で引っ張られる。
「三佐、三沢さん、かかってます! すげえ引いてます!」
「いいぞ、巻け巻け! あー、焦りすぎだもっとゆっくり」
「了っ!」
 網を構えた三沢さんが応援してくれるのに必死で頷き、暴れる糸の先を手繰りよせる。ばしゃばしゃと水面で跳ねまわる音が途切れ、黒い影が堤防の影から躍り出た。
「わ、わ!」
「はい、よっと」
 ひっくり返りそうになった俺の背中を膝で支えた三沢さんが、後ろから器用に網で受け止める。
 引っ張る力のわりには、予測よりずっと小さい魚だ。といっても、さっきのチヌよりもちょっと大きいぐらいはある、胴の膨らんだ魚だ。
「なんですかこれ」
「……アイナメだな」
「レアなんすか!」
 聞いたことのあるようなないような。
「この時期は良く採れる」
「美味いんすか?」
「日本酒に合う」
 おっさん好みの味なのか?内心で首をひねっていたら、ぽんと肩を叩かれた。
「やるじゃない」
「ありがとうございます……」
 フレンドリーに褒められて、なんだか据わりが悪い気分になる。くすぐったいというか、落ち着かない。
「じゃあ、次いこうか」
 さっきの俺の台詞を取られ、背を叩かれて、気を取り直す。次は、三沢さんに頼らないで一人でしっかり釣り上げよう。


 アイナメはビギナーズラックだったのか。
 それからたっぷり二十分、俺の針はぴくりとも動かず……やっと動いたと思ったら手のひらより小さいフグがかかって、三沢さんに言われるまま、針を外して海にリリースした。三沢さんよりでかいタイを釣る、と欲をかいたのがいけないんだろうか。
 その間、三沢さんは三匹もチヌを釣っているのだ。悔しい。
 黒くうねる海面を無言で睨みつけていると、三沢さんがぼそりと「永井、殺気出しすぎ」と呟いた。
「う……」
「もっと気楽に構えねえと、魚が逃げるぞ」
「堤防の下にいんのに、通じるんすかそれ……」
 堤防の光がサーチライトのように頭上を通りすぎ、三沢さんの曖昧な笑い顔が束の間、薄闇の中に白く浮いてみえて、何故かぞっとした。
 一瞬の慄きをごまかすように、釣り竿に目を落とす。
「そういえばさっき……人間の水はだんだん減ってくとか言ってましたよね」
「ああ」
「ずっと水ン中にいたら、長生きできると思います?」
「魚じゃねえんだから」
「っすよね」
 我ながら馬鹿なことを言った。……最後は灰になって終わりとか、嫌なことをいうからだ。
「まあ、三沢さんはまだまだ、血の気たっぷりって感じしますけど」
「それじゃあ違う意味になんだろ。お前ほど喧嘩っ早くねえよ」
「自分は売られた喧嘩を買うだけで、無駄な戦いはしない主義っす」
 この上官殿は俺をなんだと思っているのか。抗弁すると、三沢さんはふんと鼻を鳴らして笑った。腹立つ。
「……ああ、だけど……たしかこんな夜だったな」
「なにがっすか」
 問いに答えは返らず、目線を横に向ける。白い光が三沢さんの横顔を照らし、また、闇に沈むまでの一瞬。
「お前が、俺を殺したのがさ」
 ざあっと波がうねり、俺は、そうだったと思い出した。
 ……あれは森の中だったか、船だったか、それとも、堤防のある―――。
 耳障りな笑い声が頭の中を引っ掻き回し、黒い靄の向こうで嗤う顔に、腹の底から怒りがこみあげて叫んだあの夜も、たしか、こんな。

「永井、おい、永井?」
 三沢さんの声で我に返った。
「寝てんじゃねえよ。引いてるぞ」
「あっ……」
 言われて慌てて竿を見る。しなる竿を押さえてリールを巻くと、ニ十センチ以上はあるチヌが水からあがってきた。
「よかったな」
「はい……あの、三沢さん」
 おずおずと声をかけると、クーラーボックスに落とされていた三沢さんの目線がこっちを向く。なんの感情も浮かばない、真っ暗な海みたいな目に気おくれする心を叱咤して、口を開く。
「……さっき、こんな夜だった、って」
 眠そうな目がぱちりと瞬き、三沢さんの口角が僅かに下がった。それだけで、不思議そうな表情が浮かび、先刻の不穏な気配を拭い去る。
「なんの話だ?」
「なんでも、ないです。気のせいでした」
「……悪いな、こんな夜中に付き合わせて。疲れたんなら、休憩してていいから。……ほら、コーヒー」
 罰が悪そうに言いながら、ステンレスの水筒を差し出してくる三沢さんは、何を考えているかわからない不気味な存在ではなく、あたりまえの、そして不器用な中年男らしく見えた。
「寝ぼけてないっすよ」
 わざと不機嫌そうに言い返して、コーヒーはありがたく受け取る。
 舌が焼けそうな熱いコーヒーをすすって、釣った魚はどうしようかと考えていると、
「魚は、食うぶんだけもって帰るぞ」
「あ、はい……」
 人の心を読んだようなことを言われた。
「……俺、生きてる魚さばいたことないんすけど」
「じゃあ、うちで覚えてけ」
「三沢さんの手料理食わせてもらえるんですか?」
 そこまで言ってねえよ、という返答を思い描いていたのに、三沢さんは、ふっと険のない笑い方をした。
「残したら罰ゲームだからな」
「なんすかそれ……」
 御馳走してくれる、ということらしい。
 それが少し楽しみになっている自分に、驚いた。


<オチはない>



2017/03/28 19:11
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