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アクアリウムの海で息をする


光も届かない深海では呼吸をするどころか、水圧で身体が潰れてしまいそうだ。
指を動かす度に軋むようで怖くて動くのをやめた。暗い世界に、目を開けているのか閉じているのかもわからず、泣いているのか泣いていないのかもわからなかった。


暗い体育会倉庫は、相変わらず古い匂いが充満していて、何となくその懐かしさのようなものに浸ってしまえば心がなんだか安らかになるようだった。
西の空もだんだんと暗くなり、時間が過ぎていく事が勿体無く感じた。


独りぼっちの私に恋をした彼は、言うなれば深海魚。
闇に隠れた魚を私は見つける事ができないのに、向こうは簡単に私を見つけるのだ。



「どうして泣いてるんですか」

「泣いてない」

「どうしてあなたは容易に、軽率に嘘を吐くんですか」

「嘘なんかついてない」

「そんな顔をしているのに?」

「だって私が嘘をついても、わかっちゃうんでしょ」



ぐちゃぐちゃに濡れた顔は彼の視界に絶対に入っているのだから。その全てを見透かすような瞳が私の瞳を矢のように真っ直ぐ見るの。
察して欲しい、なんて、横暴で強情で意固地で。そして弱虫な。

泣いているだなんて言えるはずない。
でもそんな私を彼は受け入れてくれる事を知っていた。そうして私は彼に甘えているのだ。晴れの日に干した布団に包まれて死ぬのもきっと悪くない。



「黒子君は深海魚だ」

「深海魚?」

「そう、深海はとても苦しいから」

「苦しいですか」

「うん、苦しい。でも黒子君がいるから大丈夫」


へらりと笑うと彼は眉を少しだけ寄せた。少しだけ。
暗がりに望んで閉じ籠ろうとする私を、きっと彼は助け出したいのだろう。他人の気持ちなんて隅から隅まで解るはず無いのに。



「僕は深海魚ではありませんよ」



そして彼は子供の我が儘に困りながらもそのささやかな時を幸せに感じた親みたいに目を細めて微笑んで言った。

そうだ、私はとっくに彼に助け出されていた。

彼は私にとっては光だった。シュノーケルも役に立たないこの場所での唯一の。丁度いい光。眩し過ぎず、暗過ぎず、包むような光。
それは私が向き合いたくなかった事実を暗示する。私と彼では住む世界が違うこと。彼が私の傍にずっといれないこと。



「そこは暗いですから。僕は君を引き上げに来た」



届くはずのない光が差し込んだ。
そうか、やっぱりあなたはそっちの魚だったのね、と。淋しいような、燃えるような気持ちに包まれた。

こんなにも世界がキラキラして見える。
光が反射して、あぶくが煌めくのだ。ルチルクォーツの中の針が輝くみたいに。



「そこは息ができないでしょう」



彼の口から水沫が漏れた途端に、息をするように口で口が塞がった。





アクアリウムの海で息をする
(幼い子供が読んだおとぎ話みたいな恋をした)




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こう…なんかね!!大人臭と綺麗な感じを出したかったの!幻想的なそんなようなものをね!!ね!
こんな感じで書いてるけど実際ここは体育会倉庫です。『体育会倉庫』という設定からもわかるように、ベタな感じで大人臭しか漂わない予定だったのにどうして童話みたいになったの…。
タイトルはアクアリウム=体育会倉庫だと思って下さい。

私これ書いてて思ったんだけど、私の書く文って直喩が多いなって思いました。〜のようだ、とか、〜みたいだ、とか。かなり乱用してる。このお話は隠喩も多いけど、直喩は普段から本当乱用してますね。








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