3話


ある日の放課後。
私は中庭に向かおうとして、足を止めた。

右を見ると、体育館。確かバスケ部が部活をしているはずだ。
そうすると無意識のうちに、何となく、足が体育館に向かっていた。


そっと中を覗くと、案の定バスケ部が練習をしていた。

私は迫力のような、覇気のような、そんな感じのものを感じて息を呑む。
響くバッシュのスキール音、叩きつけられるボールの音、誰かの怒鳴り声。

高尾君を見つけたけれど、いつもとは雰囲気が違う気がして呼吸を止めた。いつも笑ってるムードメーカーなイメージがついてしまっていたけれど、そこにいた高尾君は、息を切らして汗を流して、真面目な顔つきと鋭い目で、ただただ一生懸命で、一生懸命で。

単純に、私とは別の世界のように思えた。別の人種に思えた。
部活動をする人達を見る度に思うんだ。私にはそんな一生懸命に頑張れる事が無いから、わからない世界、わからない努力、簡単にはわかってはいけなくて、わかったフリをしちゃいけないものなんだろうなって思う。


その場を去ろうとして、ふと高尾君がこちらを見たので目が合ってしまった。
高尾君は驚いた顔をして、私は早急に去ろうとさしたのだけど、高尾君がこちらに駆け寄ってきたので私はどうすればいいのかわからずそこにとどまってしまう。


「両角サン、どうした?ジョウロなんか持って」

「いや、あの、中庭の花壇に水くれを…当番で…。それで途中でちょっと、気になったというか見学というか…」

「両角サンはバスケ好きだったっけか?」

「あ、えっと、見るのは好きかな。中学の時に偶然見に行ったバスケの試合で、面白いなって思って…。というか!あの!すみません練習の邪魔して!」

「いや大丈夫大丈夫、ちょうど休憩の時間だか……」

「何彼女とイチャついてんだよ高尾!」


高尾君の声が聞き慣れない声に遮られ、拳骨が高尾君の脳天に降ってきた。


「痛って〜……何するんですか宮地サン!」


高尾君は頭を抱えて非常に痛そうだ。
高尾君の隣を見ると、彼より長身で…190cmはありそうな、黄に近い明るい茶(蜂蜜色と言うんだろうか)の髪の男の人が立っていた。

この人が噂の宮地さんか。確か宮地清志さん、3年の先輩。クラスの女子がかっこいいと騒いでいたから名前だけは覚えていたのだった。


「あ、あの!私が邪魔しちゃったんです!すぐ消えるんで!風のように消えるんで大丈夫です!」

「つか宮地サン!両角サンは友達だから!」


私は『友達』というその言葉に反応してしまう。


「と、友達……」

「……おい、友達とか言うから彼女が傷付いてんぞ」

「!!ちち違います、あの、高尾君がお友達って思ってくれてるとか、嬉しくて……」

「…………」


慌てて弁解しようとして、なんだか恥ずかしい事を言ってしまった気がする。いや、確実に言ってしまった。
風のように消えたい。切実に。


「…まじ両角サン良い人すぎて泣けてきた」

「え!?」

「高尾の事よろしく」

「え、ちょ!」


よろしくされても私何もできないですよむしろよろしくする側ですよ私!


「あああ私そろそろ行くので!部活頑張って下さい!失礼します!」


私はお辞儀をして足早にその場を後にした。




先輩
(どうしてこうなった)



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宮地さんがよくわからないのですがとにかく秀徳好きです…。






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