2話


電車が通る音がしてはっと目を覚ます。
考え事をしているうちに眠くなってしまったみたい。

はぁ、なんて溜め息をついて床の上に横になる。カーペット敷かれていないフローリングは硬いけれどもう慣れた。

片付けたばかりの自室は何となく息がしやすい。
線路の近くに引っ越すと聞いた時は電車が通る音とかうるさいのかなとも思ったが、その音も心地良い気がしてきた。


私は今日の学校でのことを考えていた。
高尾君はたぶん、私がクラスで友達と胸を張って言える友達がいなくて、昼休みと放課後になると逃げるように教室を出ていく私を気にかけて話し掛けてくれたんだろうな。

別に友達が欲しくないわけではない。でも音楽だけが友達なのも正直嫌だし、なんて寂しい奴なんだと自分でも思う。あっでも音楽と友達っていうのも案外楽しいのだ。
だけど、それを気にして話し掛けてくれたなら、それはそれですごく申し訳ない気持ちになるし、有り難いとも感じる。


でも、そんな、高尾君と仲良くなっちゃったら目立っちゃうのかな、とか。なるべく誰の視線も向けられないで、静かに平穏に学校生活が終わればいいなと思っていたから。










「両角サン今日購買なん?」

「あ、は、はい」


お弁当を忘れて購買でパンを買おうとしたら売り切れで、最後のひとつだったフライドポテトと、自販機の緑茶を買った所でまた彼が話し掛けてきた。


「高尾君も、今日は購買なんですか?」


高尾君はコンビニのモノの時もあれば購買のもの、普通にお弁当の時もある。気がする。いつも見ているわけじゃないからわからないけど、今日は購買なのかな。



「俺はただ自販機で飲み物買いに来ただけ。つか両角サンが購買なのも珍しくね?」

「お弁当忘れてしまいまして…」

「ん?じゃあ両角サンもしかして昼飯そのポテトだけ?」

「そう…だね…」

「それじゃ午後絶対腹空くって!!オレ今日コンビニでパン買いすぎて全部は食えねーし両角サンにあげるから!」

「えええああ、いいですいいです!高尾君放課後部活あるんでしょ!私少食だから全然平気ですので!」

「まーそんなこと言わずに!3人で食った方が楽しいしな!」

「え、あ、あの」



そんなこんなで私は断るのに失敗し、一緒に昼食をとることになったのである。
いつもは高尾君は椅子だけを後ろに向けて、後ろの席の緑間君の机で緑間君とお昼を食べているけど、今日は高尾君の机ごと後ろに向けて、緑間君の机とくっつけてくれた。非常に申し訳ない。
そこに私は自分の椅子を持ってきて座った。

いつもは私は学習室でお昼を食べている。教室でお昼なんて食べたら、いつも一人で食べてるから気を使わせてしまいそうで申し訳ないのだ。

私は緑間君を見た。緑色の髪の毛と緑色の目。まつ毛が長くて外国人みたいだけど、黒縁眼鏡のせいなのか何なのか本当の日本人だと思う。背もすごく高くて指も長い。テーピングの巻かれた左手で正しく箸を持っている。机の上には何故か折り畳み傘が置いてあった。緑間君はいつもおは朝の星座占いの多分ラッキーアイテムを持っているらしいから、多分それだと思う。



「何、両角サン真ちゃんガン見して……真ちゃんに見惚れてたとか?」

「なな何言ってるんですか……!」

「失礼だぞ高尾。…だが人の事をあまりじろじろ見るのも良くないと思うのだよ」

「す、すみません…」

「あはは冗談冗談!両角サン、好きなパンとかある?この中で」

「なんでもいいです…」

「うーん……じゃあこれ?」

「はい、それで大丈夫ですありがとうございます」



今すぐ叫びたい。もう恥ずかしさと申し訳なさで爆発しそうだ。
そもそも男子と食べる女子なんていない。少なくともうちのクラスにはいない。目立ってしまう。どうしようどうしようどうしよう。



「あ、こ、これ!購買で買ったんですけど、あの、お二人もどうぞ…!」


私は机の真ん中辺りに購買で買ったポテトを置いた。80円だけあって中身は大して入っていないのだけど。


「さんきゅー両角サン。
つーか両角サンっていつも敬語なの?黒子的な」

「(黒子…?)いえ、仲の良い人や家族とは普通ですけど…」

「じゃあタメで話せよ両角サン!その方が気も楽になるだろ?な!真ちゃんも真ちゃんって呼んでいいから!」

「真ちゃんは…さすがに…」

「全くなのだよ………緑間真太郎だ。呼ぶなら高尾の呼び方以外にしてくれ」

「えっあっ、じゃあ…よろしく、ね、高尾君緑間君」




賑やかなお昼ごはん
(こんなのは久しぶりだ)





[prev] bkm [next]




×
- ナノ -