8話


「何だか、皆さんピリピリしてるね」

「ああ、I・H地区予選中だからな」



ボールの片付けを手伝いながら何となく訊いてみると、緑間君がそう返した。
バスケ部は思った以上に気迫がすごくて、ピリピリしていて、マネージャーである私が出来る事など極わずかしかないので悩んでいた。けれど、どうやらこのピリピリは今がピークのことらしい。

マネージャーとしてバスケ部にお世話になって3日が経過した。部活はとうに終わっていて、その後も練習を続ける部員もいたがちらほらと帰っていき、今体育館にはは緑間君と高尾君と私しかいなかった。部室にはまだいるかもしれないけど。


「私も皆さんと一緒にバスケとかしたい…」

「女子バスケ部に行けばいいだろう」

「今から始めても、運動出来ないから足でまといになっちゃうかな…」


運動神経が大してあるわけでもないし、それよりも単純に失敗が怖い。チーム戦のスポーツは皆に迷惑がかかるから。



「この間高尾君に『両角サンは嫌われるのが怖いんだろ』って言われちゃって、一緒に行動してそんな経っていないのに、何でも高尾君にはバレちゃってるんだなぁ、と思ったの」

「…高尾はそういう事に敏感だし、何より周りがよく見える眼を持っているからな」


高尾君は遠くの方でモップ掛けをしているので、この会話は恐らく聞こえていないだろうけど、私と緑間君が何か会話をしているということはその視野に入っているだろう。

先日初めて知ったのだけれど、高尾君は特別人より視野が広いらしい。確かに動きを見ていて、だからあそこのボールが取れるんだ、とか合点がいった。


それで思った。高尾君は私の事を知っているのに、私は高尾君の事を知らない。私の好きな音楽のジャンルとか、私の涙も知っていて私のナイーブな部分を言わなくてもよく解っているのに、私は。



「私ばっかり高尾君の事、全然知らないんだなぁと思って。いつでも笑っている高尾君だけど、もしかしたら知らない所で別人みたいに怒ったり、泣いたりなんてしてるんじゃないかとか」

「………どうだろうな」



でも、そうだ。私は前に、中学時代に1度彼の悔しそうな顔を見た事があった。唇を噛み締めて、それは一緒に過ごすこの高校生活の中では見た事は無い表情だったけれど。彼が私を知らない昔に。


それを思い出して、逆に私は彼を遠くに感じるんだ。

あの日偶然その顔を見てしまったけど、彼が私を認識した今、高尾君は私に笑顔やバスケをやってる時の真剣な顔しか見せてはくれなくて、いつもの軽い口調とか、軽薄そうな第一印象とか、気さくな所とか、誰でも知ってる高尾君しか私は知らない。



「…緑間君はどうして高尾君と仲が良いの」

「別に仲が良いというわけでは」

「仲良しだよ」

「…あいつが勝手に寄ってくるだけだ」

「片想いなんて高尾君可哀想だよー」

「突然何なのだよ」

「だって高尾君と緑間君は正反対の性格なのに」



正反対とまで言っていいのか分からないけど。

『キセキの世代』という人達が、中学のバスケ界で有名で、よく噂されていたので知っていた。緑間君がその中の一人であることも知っていた。百発百中のシューター。得意の3P。ゴールに入らないことは無い、って。

この間まで敵対していたんでしょ?『キセキの世代』を倒そうとした人や、負けて悔しい思いをした人や、その強さに畏怖したり、憧れたり、バスケを嫌いになってしまう人もいたんだろう。



「バスケが好きな気持ちが同じだったら、正反対だとしても、絆みたいなものが生まれるのかな」


そんな風に自分にまじないをかけるみたいに呟いた。



「オレは好きだの嫌いだのでバスケをしているのではないのだよ」

「…ツンデレ」

「なんだと」

「おおお!なになに、オレの知らない間に真ちゃんと両角サンいつの間にそんな仲良くなったの??」


モップ掛けが終わったらしい高尾君が戻ってきてそんなことを言った。


「勝手な事を言うな高尾」

「私は仲良くなりたいな」

「オレも混ぜて混ぜて」


以前では有り得なかった。
私に友達なんていなかったし、できるはずもないと思っていたし。

ここで私が笑うことができるのは高尾君があの時に声を掛けてくれたから。



「ん?両角サンどったの」

「なにが?」

「オレの顔になんか付いてた?」

「何も付いてない、けど……そんなに見てた…?」

「オレの考えすぎかな」


恐らく私がガン見していたのだろう。そんな気がする。ガン見していた気がする。

高尾君はそれは相変わらず笑っていて、いつもの『誰もが知ってる高尾君』だった。
彼は私の友達になってくれて、そもそもあの日の学習室でのことが無かったら、バスケ部のマネージャーになることもなかったと思う。私の事を嫌いだなんて思わなかった、とか。だからウジウジした自分を卒業して、変わりたいと思った。その第一歩になればいいと思った。


そんな私が、高尾君の事をもっと知りたいだなんておかしいかな。





同じ世界で、違う場所に立つ君のこと。
(そこに『絆みたいなもの』が生まれるように願ったの)




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文章のまとまりの無さが酷すぎて目も当てられませんね!!!
あと前回から高尾君の出番が無さすぎてあうあう





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