例えばここが夢の中だとして 


「最後に、ここが夢の中だとしたら、何がしたい?」
やっと、意味の無い問答は終わるらしい。
……夢の中、それならおれは男性に想いを告げるだろう。自分の我儘で名前を呼ばせ、行為もしているが男性とは恋仲ではない。先に身体を重ねた為自身の想いを伝え損ねている。圧倒的に自分が悪いとは思うが、男性も男性で、覚悟を決めて想いを告げようとしても、持ち前の飄々とした態度で何も言わせない雰囲気を作るのだ。それで避けられているかと思えば、男性が自ら馴れ馴れしくしてくる時もある。この男は本当に掴みどころのない人物なのだ。
「ねえ、ロー、」
何がしたい?返事が無かったからだろう。男性は再び質問を繰り返す。考えの見えない黒い瞳は、自分にいったい何を求めているのだろうか。答えを言えずに固まっているローの頬に両手を添えて、青灰色の瞳を見つめながら男性は顔を近づけてくる。気がついた時にはその距離は無くなっていて、唇に何が感触がある。その正体に気付いたときにはもう離れていて、見たことのない笑みをした男性がもう一度言う。

「ここが夢の中だとしたら、何がしたい?」

例えばここが夢の中だとして

(全部全然、もしもの話)



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