32-1

関わりたくない人とは関わらない。関わってしまったら、どうやって逃げようか。
誰かに教えていただきたいものである。


「切原くん」
「!」

理科の授業が終わる5分前、実験器具を片付けてる俺に半田が話しかけた。
半田が俺に話しかけるのは珍しい。
多分、筒井のこと。だと思う。
あいつ朝から俺のことシカトしやがって。

「梓のことなんだけど」

あーやっぱり。
正直俺だってどうしていいかわかんないっつーの。女王だって関わってるみたいだしよ。

「なんかした?梓がいつになく不機嫌だから」
「なんもしてねぇワケじゃねぇ……けど」

半田を見たら不安そうな顔をしている。
何も知らないんだろうな。筒井が誰にも喋るなって言った以上、本人もまた誰にも言ってないらしい。

これ、俺言うべきなのか?

「…無理に言わないでいいよ。あの子の性格上、誰にも言うなって脅されたんでしょ?」

俺が黙ったもんだから半田は苦笑いして言った。

「…悪ぃ」
「やっぱり。あの、これだけは教えてほしいの。折原先輩絡み?」
「!」

直球できたもんだから驚いた。
半田は名指しで言った。なんで折原心亜だとわかったんだ?
「…確かに、女王が…絡んでた」
「…そっか」

小さく呟くと、悲しそうな顔をした。なんでだ?なんでそんな顔するんだ?
そういえば、前々から筒井は女王を知った様子だった。確かに女王は有名だ。学校一有名。
でも、筒井は女王「折原心亜」の表面だけでなく、また言い伝えられる噂だけでなく、まだ知られていない何かを知っている口振りだった。
何があったのかは、よくわかんねぇけど。
大体なんで、半田は女王を名指ししたんだ。

もしや、何か知ってる?

「なぁ、なんか知ってんの?女王と筒井のこと」
「…うん」
「あの二人、何があったんだよ?仲がいいのか?悪いのか?」

半田は何か躊躇いながらも、口を開いた。

「…あの二人は」

キーンコーンカーンコーン……

授業終了のチャイムが鳴り、理科室全体に生徒の声が響き渡った。そのせいで半田の声はかき消された。

何かを言いかけた半田だったが、筒井がこっちに来るのに気付いて、ごめんと言ってそのまま筒井のもとへ走っていってしまった。

半田は、筒井と女王に何があったのか知ってる。聞いてどうなるわけじゃないかもしんねぇけど、何があったか俺は知りたい。
筒井を助けたい。
あいつはいつも、人と距離を置いてる。何かを隠してる。マネージャーになってから筒井を目の敵にする奴も増えてきてる。悪口だって言われてる。それに気づいているのに、誰にも助けを求めないあいつが、憎い。
助けてって言えよ。
そんなに不甲斐ないかよ、俺って、俺たちって。

半田と何かを話している筒井と目があった気がした。すぐにそらされたけど。
疲れが見える筒井の横顔、口が小さく動いた。


めんどくさい


そう動かして、半田の一歩前を歩いて理科室を出ていった。






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