14-1牧野がお試し期間でマネージャー業を始めたらしい。今朝丸井から聞いた。
牧野のことは好きじゃないが、マネージャーなら大歓迎だ。そのままマネージャーになってしまえばいい。
でも結局決めるのはあの優男の幸村だ。
突然体調がよくなっただとか言って学校にきだしたあいつを悪くいう奴のほうが少ないだろう。
でも俺はその少数派だ。正直ああいう奴は嫌いだ。
何考えてんのかわかんねぇし。自分に惚れてるナルシストみたいで嫌だ。
神の子なんて言われてるらしいが、本当はその称号に自惚れているクソヤローだ。
とか言ってみるが、本当に嫌いな理由は全く違う私情だと自分でもわかってる。
「半田さん、ちょっといい?」
「はーい」
ああ、忌々しい。憎たらしい。
彼女に話しかけるな。安易に近づくな。やめろやめろ。笑いかけるな。
俺のものに、俺の女に、手をだすな。お前もお前だ。やめてくれ、俺以外の男に、近づかないでくれ。
それでも彼女に、俺の声は聞こえていない。
「クソッ……!」
少年は一人歯を食い縛った。金網を握る手にも力が入り、ミシミシと音が鳴る。
俺から彼女を奪ったあいつらをどう仕返してやろうか。
少年の頭にはそれしかなかった。
「また来てるな、来栖」
ブン太が言った。少し呆れたふうだった。
「俺らじゃなくて彼女を見てるんじゃろ」
フェンスの向こうにいる男子。名前は来栖翔也。あいつは半田紗和子の彼氏で、いつもこうやって半田の仕事が終わるまでここに来ている。
来ているというか、見に来る。
「クラスじゃあんま見せねーけど、結構一途だよな」
一途?よく言えばな。悪く言えば、狂愛。
あいつは半田じゃなくて、俺たちを見てる。半田に害を及ばさないか。
それだけを見ているあいつの目は、怒りだとかそんなんが渦巻いている。
「来栖もおっかないのう」
「は?」
「ブン太も、あんま半田に近づかないほうがええぜよ」
「え、なんで」
「来栖が黙っとらんじゃろ」
平和ボケなブン太はその言葉の意味がわからず、解読に時間がかかった。
「イヤイヤイヤ、だってあいつもそこまで…」
「俺もその意見には賛成だ」
「!…プリッ」
参謀がやって来た。
「半田と俺たちが話しているのを見ているあいつの目は尋常じゃない」
「うげっ、まじでか」
「……」
「ゴタゴタを起こしたくないなら必要以上に近寄らないのが得策だ」
参謀の意見には俺も同意する。来栖翔也にはいろいろ噂がある。
彼女、つまり半田に必要以上に束縛したり、監禁?なんかもしたとかしてないとか。
真偽は謎だが、半田は嫌な顔一つせず、来栖と付き合っている。
一方の筒井も彼氏がいるらしいが俺はまだ見たことがない。
気になって話を聞いたら「クソヤローみたいな奴ですよ」なんて返ってきた。
じゃあそのクソヤローと付き合ってるお前さんは何なんじゃ。
っていうか、なんで俺らの回りにはこんな変な、もとい電波な奴がこんなにおるんじゃ。
一種の呪いか。
「……そういや牧野は?」
「ああ。今ボールの空気をいれてもらっている」
「ふーん……」
ブン太は大きなあくびをしてから、ジャッカルと一緒にラリーをし始めた。
俺は何故かやる気が起きなくて、ベンチに腰かけた。
牧野、か。
幸村はどうするつもりじゃ。
別にお試し期間なんて与えんでもあいつの権力を使えばマネージャーにさせることはない。
試しているのか?
何の為に。そして心亜のことも気になる。
なんであんなに牧野に執着しとんのじゃ。
暇潰しだけでそこまでするようには見えないが、あいつのこれまでの数々の悪質な偉業を目にした俺はそうであるとは言いきれない。
あいつは本当に、暇潰しでやってるだけなのかもしれない。
…思考が読めんの。
というか、俺も結構心亜に執着している気がする。
恋だの愛だの、そういった感情をあいつに向けるわけもない。
なんで俺は、あいつを知りたがるんじゃ。
「……わからん」
考えるのも、めんどくさい。
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