09-1

あの事件以来、例の3人がどこにいるのか、どうなったのかは誰も知らない。だが速水は折原と行動を共にし、折原は「女王」と呼ばれるようになった。

実はヤクザ者だとか、ワイロを送ったとか、校長の弱味を握っているだとかありもしない噂が流れるようになった。
流石に教師も心亜に寄ってたかって注意をしたらしいが、彼女は間違ったことはしていない。
いや、それを言うと語弊がある。
社会的に非道徳な行為をしたが、原因と考察の結果、それほど悪いことはしていない。
教科書を破かれた代償というわけである。

あの事件から2ヶ月たった今、折原心亜は何もかも受け入れ、学校全員も折原心亜を受け入れている。
テニス部でも有名になったのは言うまでもない。そんな「女王」の噂にひかれた赤也にだいぶ詰め寄られたのを覚えている。何となくだが、赤也と心亜は会わせないほうがいいと思った。
赤也がキレただけで手一杯なのに、そこに心亜が加われば何をするかわからない。
相容れない2人、というわけだ。

そして「女王」に興味を持った人間がもう1人。
柳蓮二だ。
あの事件が有名になってすぐ、柳がテニス部の誰よりも早く、俺とブン太に心亜について聞いてきた。だがあいにく、クラスが同じだけなので個人情報なんてわからず終いだった。
心亜と仲のいい速水生徒会長にも聞き込みをしたらしいが、本人は「実は何も知らないんだ〜」と笑って言ったらしい。
だが得意の情報能力と生徒会会計の座をいかし、一般的な情報は掴めたらしいが柳は満足していないようだった。

また、あの事件を聞いて真田は「公共のものを壊すなどたるんどる!」などと言っていたが、女子3人が心亜の教科書を破いていじめた、と教えたら「いじめなど言語道断!」と言った。何じゃお前。

ジャッカルは、ブン太からいろいろ聞いたらしくあまりつっかからなかった。柳生は柳生で興味なさげにいつも通りだった。
また、折原心亜は俺たちテニス部にあまり近寄らなかった。校内でもそれなりに有名なテニス部は女子から注目の的である。
1人1回くらいは練習を見に来ると思う。
だが俺の知るかぎり、心亜はテニス部の練習を見にきたことはなかった。


今日までは。




「ハチ、で?牧野さんはマネージャーになったの?」
「ああ、今日部活に行って幸村に申請するっぽいよ」

スナック菓子を食べながらハチは言った。

「っていうかさー。柳超めんどくさそうにしてたんだけど」
「え?」

え、じゃねーし、と言ってまたボリボリ。風が吹いてコンソメの匂いがした。

「お前がまた何か言ったんじゃないの?」
「ああ…。テニスが好きならテニス部入れば?とは言ったけど」
「それをどう解釈したら男子テニス部のマネージャーになるってなったんだろうねぇ」

全くだね。今日の昼休み。
私のその言葉を聞くと牧野まなかは目を輝かせて「うん、男子テニス部のマネージャーになるつもりなの!」なんて言い出した。
誰が男子テニス部っつったよ。誰がマネージャーすればなんつったよ。
馬鹿みたい。
でもそれは想定内。むしろ入ってくれなきゃ困るし。
やっぱり牧野まなかは操りやすい。単純で純粋な、馬鹿と言ったところだ。

「ってか、どこ行くんだあたし達」
「男子テニス部」
「えええええ!!」
「…何だようるさいな」

さっきから黙って隣を歩くハチ。目的を知らずについてきたのかこいつは。

「いや、珍しいなーって。何しに?」
「携帯返してもらおうと」
「携帯…?」

気まぐれで仁王に預けた携帯を返してもらってないなと気づいたのはホームルームの後。仁王撮ったのかな。
まぁいっか。本人いるっぽいし。

「あ、ついたよ」
「!…へー…。ここでやってんだ」

おーおーでかいな。
流石王者。てっきり名前が1人歩きしてるだけかと思ったけど練習はちゃんとしてるみたいだ。
フェンスから応援する女子共はさながら動物を見ているガキのよう。

「で?どーすんの?」
「どーするか。早く帰りたいし…」

コートの中から仁王を見つけるためフェンスに近づく。
ハチも買ってあげたポテチの袋を開けながら私の横にくる。

「牧野さんはいないね」
「部室で部長と話してるか、せっせとドリンクでも作ってるか、だね」

多分前者だ。
ここに来る間水道の横を通ったけど、いたのはもとからマネージャーをしていた2人。名前何だっけ。忘れちゃった。

「ね、仁王どこ?」

皆同じ顔に見えるって、私の目は末期なのかな。
ハチに頼むと、わずか数秒で見つけだした。

「仁王……は、あそこ」

ハチが指差した。

「奥から2番目のコートで柳生と喋ってる」





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