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店員がメニューを下げ私たちの席から離れ、雨が降りだした頃、ハチは飲み物取りにいこう、と言って席を立った。
私もつられて席を立つ。この店はドリンクバーもあるらしい。

私が隣に来ると、ぽつりと呟いた。

「心亜は、柳をどう思う?」
「私?」
「仁王が嫌いな心亜は、いったいどんな感情を柳に抱いてるのかなって」

コップに氷を2、3個入れながら言った。
私はその間に、柳について考えてみる。

「嫌い寄りの、無関心かな」
「心亜好き嫌い多いなー。っていうか、嫌いって言ってる時点で無関心じゃなくない?」
「言い方を変えれば、『嫌いだから無関心』なのかもね」

心亜らしいなぁ、とハチは笑いながらジュースを注いだ。
ランチ時になったからか、店内は少し賑わいできた。クラシック音楽が流れていたのに気がついた。

「心亜にはちゃんと好きな人間はいるのかな、って不安になることがあるよ」
「なんでハチが不安になるの」
「だってそういう話聞かないから。いたらいたで、なんか不安だけど」

なにそれ、と言って適当に飲み物を注いだ。色からしてオレンジっぽい。

「心亜には、嫌いな人間しかいないの?」

ストローを渡しながら聞いてきた。それを受け取ってから、席へ戻る。さっきより雨が激しくなった気がする。

「そんなわけないだろ」
「話を聞いてる限りじゃそういう人間しかいないのかなって」
「…嫌いっていうかさ、どうでもいいんだよ。好きな人以外、どうでもいい。だから無関心」

関係ない人間なんか、野垂れ死のうが結婚しようが、嫌われようが心底どうでもいい。
好きな人といれるなら、特にどうこうしようとは思わない。

「そういうことだよ」
「…難しくてよくわかんないけど、つまり、嫌いな人とは関わりたくないだけ?」
「ま、そうなる」
「贅沢者だなぁ」

いいじゃん、これくらいの我が儘。
席について持ってきたジュースを一口飲んだ。やっぱりオレンジだった。甘ったるいなぁ。

「で?」
「ん?」
「柳のどこが嫌いなの?そしてどこが好きなの?」
「うーん…そうだな」

へへ、と照れくさそうに笑ってハチはジュースを一口。

「好きなところは、人間的に面白いところ。嫌いなところは、そうだな」


何にでも興味を持つ好奇心旺盛なところ、かな。


そう言って笑った。

なんとなくだけど、こいつは何か勘違いをしてる。いや、性格が歪んでるって言ったほうがいいのかな。
それとも、私の単なる勘違いか。
いや、でもさ。こいつも目の色がなんか違うんだよね。ちょっと濁ってるっていうか、こんな目をする嫌な奴を前に見たことがある。
名前は忘れたけど。

…まさか、こいつ、アレじゃないだろうな。

「ねぇハチ」
「ん?」
「お前、彼氏とかいたっけ」

すると向こうは何言ってんの、といつもみたいに笑う。

「いないよー。いたら心亜とデートなんかしませんー」

…成る程。そういうことですか。
私は口には出さなかったけど、一人で勝手に納得した。

つまり、こいつも異端なわけだ。





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