54-2

「で、何で知ってたの?」
「何が?」
「家の電話番号」

店員が置いていったメニューを開きながら目の前に座ったハチに聞いてみた。

というのも、今日こうやって会うのを約束していたわけではないからだ。ハチから電話がかかってきたのが原因。
その電話というのが携帯電話じゃなくて家にかかってきた電話なのが問題だった。教えた覚えはない。

「だってー何度携帯にかけても出なかったからさー」
「電源切ってた」
「だから家にかけたの」
「…そうじゃなくてさ。私、家の電話番号教えたっけ」

メニューから顔を上げてハチを見た。
ハチはお冷やを飲んでからクスリと笑って頬杖をついた。

「好きな人のものってさ、全部知りたくなるじゃん?」
「…他に私のことで知ってることがあったら言え」
「家族構成、生年月日、住所、健康状態、かな?」
「嫌な生徒会長だね。生徒の個人情報を把握するなんて」

そう言ったらハチはまさか、と笑った。

「全員を全員知ってるわけじゃないよ?好きな人と嫌いな人のだけ、覚えてるの」
「怖いねぇ」
「でもあれだよね。まさか本当にかかるとは思わなかった。心亜のことだから適当に書いた数字だと思った」
「そんなことしないよ」

私もお冷やを飲んだ。

たしかに携帯に六回もかけてでなけりゃ家のほうにかけるのはわかるけど。
重要なのは何で家の電話番号を知っていたか。あまり教えたくなかったのにな、家の番号なんか。

「生徒会長をなめたらあかんぜよ」

得意げに笑った。
こいつを生徒会長にしたのはやめたほうがよかったんじゃないのかな。

「嫌いな人の情報って、例えば誰?」
「誰だと思う?」
「さぁ。私はてっきり嫌いな人なんていないものだと思ってたから」
「まさか」

まぁ、そうだよね。
お前が嫌いそうな人間は、見ていて何人かいるし。
それを隠すように仲が良いフリをしてる奴も何人かいる。

「柳か」
「…」

そう言うと押し黙った。やっぱり。

「図星?」
「んー…半分正解?」
「半分なんだ」
「柳はねー、嫌いだし、同時に好きでもあるよ」
「…ふーん」
「ま、あいつの上にいてあいつを利用するのにはあいつ個人の情報が必要でさ。いろいろ知ってるよ」

つまり弱味を握っていると。
なんて恐ろしい上司なんだか。

「人間的には面白いんだけど、同時に嫌いな面もたくさんあるの」
「だろうね。メニュー決まった?」
「決まった決まった」
「じゃ、頼もうか」

呼び鈴を鳴らした。
ハチは薄く笑っていた。こういう黒い面があるから、私はこいつと仲がいいのかもしれない。
そんなことを思った。





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