51-2

「お前は?」
「え?」
「彼女いないのか?」

話すことがなくて一応そんなことを聞いてみた。正直こいつの恋なんて微塵も興味無いが、俺にあんなことを聞いてきたんだ。何かあるのは確かだろう。

「いないよ、日吉と同じ」
「…意外だな。お前みたいに上からも下からもモテる奴が彼女いないとか」
「モテるモテないは関係ないと思うけどな」

と言って苦笑いした。
それもそうか。今は部活で手一杯だし、そんなのに構ってる余裕もないし。

要するに、欲しいか欲しくないかってことか。

「俺は本当に好きな人とじゃないと付き合いたくないし」
「…へぇ」
「へぇって…。日吉ってこういう話嫌いだよね。自分だってモテてるくせに」
「中学の頃に付き合ったってつまらないって誰かから聞いたからな。それに長続きしないとも」
「その誰かって?」
「兄貴」
「面白いお兄さんだね」

クスクス笑った。どこが面白いのかわからない。

「…じゃあ、日吉は中学卒業するまで誰かと付き合ったりしないの?」
「面倒だからな」

そっか、と言って会話が止まった。俺から話しかけるにも話題がない。でも鳳は喋る気がないらしい。

それから弾む会話もなく、コートについた。隣の女子テニスは相変わらずワイワイしていた。

「…うるせ」

と呟き、籠からボールを二個取ってコートに入った。




ランニングが終わって着替え終わった宍戸がコートに来た。

「宍戸先輩!おはようございます!」
「おう」

鳳はいつも通り挨拶をした。

「何キロくらい走ったんですか?」
「あー、今日は7キロくらいだな」
「へー…いつもより長いですね」
「今日は日吉と走っててよ。アイツも結構速いよな!すげー疲れたぜ」
「へー…」
「負けてらんねぇな。足の速さで後輩に負けるなんて激ダサだぜ」
「大丈夫ですよ!宍戸さんはちょっとやそっとのことでは負けません」

そうか?と宍戸も満更ではないようにはにかんだ。
鳳は力強くそうです、と言った。

「じゃ、試合でもやるか」
「はいっ」

その時、鳳の足元にボールが転がってきた。
拾い上げると、日吉が小走りでやって来た。どうやら打ち損ねたらしい。

「悪い鳳」
「ううん。大丈夫」

ラケットで軽く打ち、日吉にボールを渡した。日吉はそれをキャッチし、またコートに入っていった。

「…」

打ち合いを始めるまで、鳳は日吉の背中を見ていた。





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