51-1

「お前さぁ、筒井と喧嘩でもしたのかよぃ」

とうとう丸井先輩が聞いてきた。
そりゃ確かに昨日からあんなギスギスしてりゃ違和感に気づく人だっているだろう。それに一番最初に心配してくれたのはこの人だ。
でもまさかこの人にそんなこと言われるとはなぁ。

「別に何も無いっスよ?」

これが部長なんかだったら言えたかもしれないけど、丸井先輩には言えない。
何となく、そんな気がする。

丸井先輩は膨らませたガムを潰し、そっか、と言ってまたガムを噛みだした。
丸井先輩を見たら、そのずっと奥にいる牧野先輩が見えた。水道で何かしている。

「俺さ、正直言って牧野のマネージャーについては賛成なんだよね」
「へー…。……え!?」

危うく聞き逃すところだった。なんだって?マネージャーに賛成?はい?

「聞いてなかったろ、話」
「や、ちょっとびっくりしたっつーか…」
「だってよ、人手がたんねーのは事実だし…。今だって一応仕事はしてんじゃん?」
「せ、先輩単純すぎないっスか?仕事なんて誰にだってできるし、そもそも先輩、あの人のこと嫌いなんじゃないんですか?」
「好きではねーよ。嫌いでもない。こういうの何て言うんだっけ。無関心?」

無関心…って。
俺たちのマネージャーするようなやつに無関心って、どういうコトだよ。

「…ワケわかんねーって言いたげな顔だな」
「だって先輩、あいつは筒井にっ…っべっ…!」
「……筒井に、なに?」

先輩は呆れたように、でも怒っているように、俺を睨んだ。
こうなった丸井先輩からは逃げられない。じとっと俺を見る。

「…言えよ。楽になんぜ?」
「……」
「往生際が悪ぃーなぁ。お前はホンット、ガキ」
「なっ」
「とりあえず、言う気がねーなら聞かねーよ。ほら、コート入って打ち合おうぜぃ」

そしていつもみたいに笑う。

そんな対応されたら、まるで俺が悪いみたいじゃねぇか。
なんであの時女王に会っちまったんだろ。あれさえなきゃ、こんな疲れる思いしなくてよかったのに。

「そういやもう一個聞きたいことあんだけど」
「えっ?何スか?」
「…実はお前、筒井と付き合ってんじゃねぇの?」
「へっ?」

丸井先輩はにししと笑った。

一瞬頭が真っ白になった。俺が、筒井と?

「な、何言ってんスか!違いますよ!」
「うわ、凄い反応」

今度はけけけ、とおもしろおかしく笑った。

「だいたいアイツ彼氏いるんすよ!?」
「だからお前かと思ってよー。よく言うじゃん?灯台もと暗しって」
「前聞いたらこの学校にいないっつってました!嘘かもしんないけど!」
「え?そーなの?」
「そうっスよ!」

何だよ何だよ!喧嘩したのかーとか言ってきたと思ったら付き合ってるのか、とか!
付き合ってるわきゃねーでしょ!

「へー。ワリワリ、なんかお前ら見てたら恋人同士の痴話喧嘩みたいで」
「…」
「んな顔すんなって!そーかそーか、あははは!」

何が面白いのか、先輩はしばらく笑っていた。




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