50「うん、これでよしっ!」
「随分楽しげな長電話だったね」
青葉はそう言い、二人に近づいた。
先日のお礼だと言って、今日はご飯をご馳走になる予定だった。先日と言っても、だいぶ前の話なのだが。
待ち合わせ場所に着いた青葉がトイレに行っている最中双子たちが着いたらしく、青葉が来るまで誰かと電話しながら待っていた。二人を見つけた青葉は電話が終わるまで待っていて、電話が終わり冒頭に戻る。
気にならないと言ったら嘘になる。あの双子たちが幸せそうに笑っている電話の相手が誰なのか、とても興味深かった。
「あっ、遅かったね黒沼君!」
「結構前からいたけどね。…楽しげに話してた電話の相手、誰?もしかして彼氏?」
「あははっ、違う違う!大切な人!ねっ、クル姉!」
こくり、と九瑠璃も首を縦に振る。
青葉は好奇心を悟られないように、へらりと笑った。
「へー。友達?家族か何か?」
「うふふー、内緒!」
「秘…」
「そう言われると気になるなぁ。教えてよ」
「駄目だよ」
ぴしゃりと舞流が言い放った。
いつもと違った雰囲気に、青葉は驚いた。彼女の隣にいる姉も同様に青葉を見つめている。
その目からは「深入りするな」という警告が聞こえてきそうだった。
「絶対駄目。私たちが大好きな子なんだよ。他人になんか教えられない」
「…え」
「私ね、いや、私たちね。大切なものはいつも私たちだけの秘密にしてるの。だってそうしないと壊されちゃうでしょ?だから、駄目。教えないよ」
困惑している青葉を見て、舞流が愉快そうに口元だけ笑ってみせた。
眼鏡越しのせいなのか、その目は濁ったように見えた。
そして舞流はまた、いつも通りにこりと笑う。
「さっ、じゃあちょっと遊んでこようよ!まだお店開いてないだろうし!ゲーセン行こっ!」
まるでさっきのことをなかったことにしたように、青葉の手を取った。
こういう顔もするんだ、と青葉は九瑠璃を見ながら思った。強がって笑ってみせたが、全然上手く笑えなかった。
一方、こちらは。
姉たちからの電話のせいですっかり目がさえてしまった心亜は、まだベッドから起き上がっていなかった。
こんな朝からチャットをする気にもなれずただぼーっとしていた。
こっちに来てから、彼女にとって休日はとてもつまらないものになってしまった。
前はあっちに行ったりこっちに行ったり、わりと楽しかったが今はどうか。仕事の邪魔をするバーテンダーも、虎視眈々と自分を拉致しようと企む二人組もいない。
こっちには楽しみがない。
「…そうでもないか」
牧野まなかが来てから、楽しいとまではいかないが、退屈はしなくなった。
あのじゃじゃ馬はちゃんと言い付けを守っているのやら。
電話でもしようかと思い携帯を手に取ったがやめた。
仕事の邪魔しちゃ悪いし、何かあったら向こうからかけてくるだろうし。
そう思いながら携帯の電源を切った。どうやら電話に出る気はないらしい。
「…さてと、何しようかな」
学校のパソコンにでも潜入してやろうかな。あーでもパソコンつけるの面倒くさい。などと考えながら、ベッドから起き上がった。
携帯を放置し、部屋を出ていった。
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