47-2

「いやいや奇遇だね!何してんの?…ああもう、使わないなら水止めて!」

手を伸ばし、蛇口が閉まった。朝から厄介なのに捕まってしまった。

「…お前、部活は?」
「ん?あるよ。今来たとこ」

ふふ、と笑う。確かに背中にはラケットケースがある。なんてタイミングだ。

「わー、汗すごいね!サウナでも入ったの、ってくらい!」
「入ってない」
「やだなぁ冗談だよ。…とにかく、風邪ひくから着替えなよ?」
「余計なお世話だ」
「素直に受け止めたまえよ」

手を洗い出す名城。それを横目で流し、俺は歩きだした。

「ちょ、待って待って!一緒に行きたい!」

後ろで声がしたが、俺は無視して戻る。すると走ってくる音がして、隣に名城が来た。なぜこいつは俺に付きまとうんだろう。

「…何か用か、俺に」
「目指す場所が一緒なら、一緒に行こうよ」
「…かなり横暴だな、お前」
「日吉はかなりひねくれてるね」

お前に言われたくないし、ひねくれてなんかいない。
昨日今日と、何で俺はこいつに絡まれるんだろう。

「ねえ、日吉」
「なんだ」
「うんとさ、ちょっと聞いてもいい?」
「…」

ロクなことじゃないな、と直感が語る。ないがしろにしたらしたで、こいつは鬱陶しい。

「…早くしろ」
「うん、あのさ。日吉って彼女いるの?」

ほら見ろ、ロクなことじゃなかった。
横目でこいつを見ると、平然を装っているのがわかった。

「いる、って答えたらどうするつもりだ」
「え?えー…別に、変わらないよ。なんら変わらない」
「変わらない?」
「いつも通りってこと。…いるの?彼女」
「……」

何かおかしい。
なんだ。なんでそんな変なこと聞くんだ、こいつ。彼女なんているわけないだろ。いたらお前なんかと肩を並べて歩かない。
こいつ、俺のことが好きなのか?いや、それはないか。

「日吉!」

口を開くまえに、後ろから声がした。名城も後ろを振り返ったらしい。

「名城さんも、おはよう!」
「おー、鳳くん。おはよう」
「名城さん、さっき先輩が探してたよ」
「あちゃー、ほんと?んー…どうしよ…」

名城は俺を見る。何しろって言うんだ、俺に。

「…じゃあ、また後で聞くよ。日吉、鳳くんも、またね」

渋々といった様子であいつは駆け足で部室へと走って行った。
やっと行ったか。

「…なに、話してたの?名城さんと」
「別に。お前こそ、嘘が上手いな」
「え?」
「先輩が呼んでるとか嘘だろ。悪いな、助かった。絡まれててイライラしてたんだ」
「え…ああ、うん」

歯切れの悪い返事をする鳳。その目線を探ると、とうにいない名城を追っていた。

「…日吉ってさ」
「あ?」
「彼女いるの?」

こいつもか。
何で俺の周りにはこんなに馬鹿がいるんだ。

いない、と短く返事をすると、鳳は苦笑いした。




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