47-1清々しい朝、とまではいかないが晴れている。なんと今日の気温は20度を軽く越すらしい。まだ夏にもなっていないのに勘弁してほしいものだ。
自転車に乗って来たのだが、軽く汗をかいてしまった。
「…あっつい…」
もう5月か。試合のオーダーどうなってんだろ。
「…」
部室まで足を運んでいると、宍戸さんが屈伸しているのが見えた。この人も懲りないよな。
「…お、日吉早いな」
「おはようございます。…宍戸さんはいつから?」
「あ?さっき来たばっか」
屈伸から一転、伸脚をする。
後ろ姿を見たが、宍戸さんはすでにぐっしょりと汗をかいていた。
見てみぬふりをしでドアを開けた。
「なぁ日吉、一緒に走らねぇ?」
宍戸さんが言った。俺は少し考えた後、嫌ですよと答えた。
「んな固いこと言うなよ。相手がいる方がやる気でるんだ」
「…」
「全速力で走って、どっちが早くにバテるか。競争しようぜ」
挑戦的な目付き。正直やりたくないが、受けてたつか。
「負けたらジュース奢りで」
「おお、やる気じゃねーか」
「よーいどん」
「あっ!待てズリィぞお前!」
知るかそんなん、と思って先に走ったが、宍戸さんはすぐに俺に追い付いた。
俺の横に来て、にししと笑ったのがわかった。
「お前、図太い神経してんな」
「あんたが、お気楽なだけですよ」
「息荒れてんじゃねーか」
笑われた。
こっちは全速力で走りながらお喋りに付き合ってるんだ。息切れくらいする。
とりあえず、何も言わず全速力で走った。
「お前、結構速いな!」
「…」
またスピード上げやがって、と呟いた宍戸さんの声がした。俺はまた無視して、無我夢中で走った。
何分、何時間走ったのかはわからないが、結局俺は宍戸さんより早くバテた。
「…っ……はぁ…」
「おーい、大丈夫か?」
へらへら笑う宍戸さん。汗はかいているが、その顔にはまだ余裕が見えた。
支える足は震え、地べたに座り込み呼吸を整えた。ポタポタと汗が髪から地面に落ちる。
「だいぶ走ったな」
宍戸さんは感慨深そうに言ったが、俺はそんな余韻に浸れなかった。だいぶキツい。暑いし。
「ま、何だ。気が向いたらまた誘うから、それまでに持久力つけとけ」
「…次は、俺が勝ちます。…準備体操するの忘れたし」
「確かにな。でも素直に負けを認めろ。ジュース一本な」
「はいはい」
タオルが被され、宍戸さんはまた走って行ってしまった。まだ走るのか、あの人。後ろ姿はすぐになくなった。
レギュラー落ちしてから、あの人は変わった。以前の生ぬるい練習から足を洗い、今はああやって自らを追い込んでいる。それほど、レギュラー落ちしたことが応えたんだろう。
息が整ってきたので、立ち上がり水道に向かった。
テニスコートからボールを打つ音が聞こえた。走っている最中にも何人かと会ったが、だいぶ人が集まってきたらしい。
そんなテニスコートのもっと向こうに水道がある。
蛇口を捻り、水が冷たいのを確認してから顔を洗った。当たり前だが、冷たかった。
顔を拭いてボーッとしていると、聞いたことのある女子達の声がした。
女子テニスか。
正直、女子テニス部は嫌いだ。練習中も、それ以外でもうるさいから。
「…おっ、日吉!おは!」
「………ああ」
おーい挨拶しろよー、と。名城が笑って近づいて来た。
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