46土日は学校は休みだけど、部活はあるのです。ああなんてめんどくさい。
「おはよ」
「あ、筒井先輩。おはようございます!」
ひひ、と笑う後輩。レギュラーじゃないのによくこんな早くに練習に来るよなー。えらいえらい。
「何人来た?」
「まだ俺たち1年だけっす。まだ練習まで時間があるんで…走り込みか打ち合いでもしよっかなーって…」
「ああ、じゃあ走ってきなよ。その間ネットはっといてあげるから」
「あっ、ありがとうございます」
ちなみにあたし、テニス部では「いい先輩」として通ってる。こうしておくことで、何かあった時味方になってもらえるからね。
だから決して、年下好きだとか媚びを売ってるだとかそういうわけではない。
でも1年の後輩たちには好感が持てる。そりゃキャーキャー言われてるレギュラーよりも。
「あー…クッソだるい」
ネットを用意しながら自然に呟いていた。
今日から、もう紗和子はいないだろう。
折原先輩、牧野先輩、テニス部。紗和子には色んな人と関わりがありすぎた。翔也がここまで彼女のマネージャーを理解…してはいなかったんだろうけど許していたのはすごいことだ。あたしの知ってるあいつは、第一に自分、第二に紗和子を干渉されることを拒む。ヤンデレなんてもんじゃないんだよ、あいつらはさ。
つまり、あの折原先輩の言動から。紗和子がテニス部マネージャーを辞め代わりに牧野先輩が入ってくることはもう決定事項。避けられない。
つまるところ、あたしの苦労は増えるってことか。
…っていうか、だいぶ理不尽だよなぁ…。
紗和子から誘われて嫌々ながらもマネージャーしてるあたしより先に辞めるってどういうことだよ。…まぁ、翔也の圧力のせいなんだろうけど。
とりあえず、猫の手でも借りたい。
「筒井」
「!」
名前を呼ばれた。
いつのまにか半径1メートル以内に牧野先輩がいた。だがしかし。いつもと様子が違う。
「…ああ、おはようございます」
「何すればいい?」
「え?」
「何をしたらいいか聞いてるの」
それは人に教えてもらう側の態度としてはどうなのだろう。先輩はその大きな目であたしを睨む。
…なんじゃこりゃ。
ちょっと待てちょっと待て整理しよう。
今目の前にいるのは牧野先輩。この人は今まで人の頑張りを自分の手柄にしているような人だった。
そんな人が突然仕事を求めてきた。そこから導きだされる答えは一つ。
「…折原先輩か」
「は?」
「あーイエイエ、何でもないっす」
途端顔を曇らせる先輩。こういうところは変わってない。変わってるのは、昨日とは違った控えめの化粧に、髪をゆったりと束ねただけの髪型。どうしたんだろ。イメチェン?
「…じゃあとりあえず、ブラシ使ってコート……はいっか…。昨日のままだし…。とりあえず後輩たちが打ち合いするようなんでボール持ってきといてください」
フン、とそっぽを向くと倉庫の方へ行ってしまった。仕事熱心なのはいいけど、倉庫って鍵かかってるんだよね。
まぁとりあえず。真面目に仕事して自分の株をあげる気らしい。今さら手遅れじゃないのかと思うけど、紗和子のこともあるからどうなるかわかんないな。
まぁ、私はいいですよ。
頑張るなら応援します。あの人に全部任せて私も早くマネージャー辞めたいし。
準備が整い、外周する1年に向かって声を出した。
「コート使っていいよー」
するとさっきより速く走ってコートに向かって来た。外周、手ェ抜いてたな。
後輩から、ここに来るまでに倉庫のドアの前に牧野先輩をがいたと目撃情報が入ってきた。ああそうだ、早く鍵渡しに行かなきゃ。
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