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デュラハンとは、俗に言えば妖精。

だが、首から上がない騎士の格好をした妖精は妖精と呼べるのか?恐怖に近くないか。
まぁ、大事なのはそこじゃない。
黒バイクがデュラハンかどうかだ。
デュラハンの存在は前から知っていた。伊達にオカルト好きを名乗ってるわけじゃない。いや、実際名乗ってはいないが。
図書室に確か、そういった本があった気がした。
インターネットより、分厚い本を読んで知識を得ることのほうが俺には性にあっている。

いつの間にか抹茶オレは無くなっていて、俺は廊下に設置されているゴミ箱に捨てた。
すると後ろから誰かに押された。

「!?」

条件反射で後ろを振り向くと、にこりと笑った顔が目に映った。
俺より10センチは低い身長の女子は、手を後ろでくんで、上半身を付き出した形でいた。つまり、顔との距離が近い。

皮肉にもその顔は、この世では万人受けする顔である。
すると、向こうから口を開いてきた。

「なぁーにしてんだい?日吉」

独特な口調で、女子は言った。またにこりと笑う。

「…名城…」

俺が名前を言うと、奴は満足そうに笑うのだった。




名城遊月は俺と同学年の女子である。
クラスは違う。委員会も違う。接点なんてお互いがテニス部、ということ以外しかない。
部活が同じと言っても俺は男子テニス、あいつは女子テニスだから仲がいいわけでもない。
でもこいつは、何かと俺に絡んでくる。

何をしたわけでもないのにあっちから話しかけられてきたのが…いつだっけな。2年にあがってからか?なんで俺を知っていたのかは知らないが、挨拶から何から何までことあるごとに俺に話しかけてくる。

こいつ俺に気があるんじゃねぇの、とは思ったことはないが、他人から見たらそう見えなくもないので俺はぶっちゃけ、こいつが苦手だ。
苦手というか、極力関わりたくない。嫌いとはまた違う、負の感情を俺は持っている。
別に名城も俺に気があるわけじゃなさそうだ。俺以外の男子と話しているのを何回か見る。
つまりこいつにとって男女なんてものに差はないんだろう。

ここで名城の外見について説明するとしたら、背は小さい。何センチかは知らないが、俺は悠々とこいつを見下せる。
前髪は短く、眉毛の上できっちり揃えられている。髪は今日は一つに纏めていた。
やっかいな奴に捕まった。

「…何か用か」
「用がなかったら話しかけちゃ駄目?」
「駄目だな。そんな理由で俺を引き止めるな」
「わ、ちょ、ひどいな!いいじゃん、なんか話したかったんだから!」

知るか。

「俺は急いでるんだ。お前と話してる時間はない」
「まぁまぁ、減るもんじゃないんだし」
「確実に時間が減る。用がないなら呼び止めるな」
「うわぁ冷たい。なんて冷たいんだ。超悲しい」

途端に悲しそうな顔をする名城。もちろん、これは演技だ。
なんで女子ってこう、めんどくさいんだろう。

そんなことを思っていたら、今度は不貞腐れた顔をする。

「最近日吉冷たくない?あたしが挨拶しても返事してくれないし。社交辞令ですよ社交辞令!どぅーゆーあんだーすたんど?」
「じゃあ聞くが何でお前は俺に構うんだ」

そんなの!
と、名城は後ろでくんでいた手で今度は俺を指差した。

「友達だからだよ!」
「…お前と友達になった覚えはない」
「友達というものは自然となっているものなんだよ日吉くん」
「馬鹿も休み休み言え」

ああもう本当めんどくさい。なんなんだこの女は。
このまま話し込んでいたら昼休みが終わる。さっさと図書室に行こう。

「あっ、待って日吉どこ行くの?」
「………図書室だよ」
「おっ、あたしも行きたい!一緒に行こっ」
「馬鹿かよせ。お前みたいなうるさい奴がきたら迷惑だ」
「いーじゃん!図書室の中には入らないよ」
「は?それじゃ行く意味ないだろ」
「まぁまぁいーからいーからっ」

と、名城は俺の手を掴んだ。
反射的に俺はその手を払った。
名城は少し驚いた顔をした。俺が何も言わないのに耐えかねたのか、あははと苦笑いした。

「あちゃー、ごめんごめん!やっぱり手とか握るの嫌だった?うんうん、思春期の男子ならそういう反応するよねっ。ごめんっ!」
「……」

謝罪をする気はあるのか、こいつ。
名城はたまにこういう事をするから嫌なんだ。
肩を叩いたり手を握ったり触ったり。思春期だからとかじゃなく、潔癖症だからとかじゃなく、俺は人に体を触られるのが嫌だ。

こういう奴は特にだ。

俺は何も言わず名城を見た。名城はやはりあははと苦笑い。
すると急に何か思い出したように顔を上げた。

「おおっ、あたし部長に呼び出されてたんだっ。日吉ごめん!あたし行かなきゃ!あはは、部長の呼び出し忘れちゃうなんてドジだなぁ。じゃあね!また放課後!」

それだけ言って逃げるように去っていた。
俺は見向きもせず、急ぎ足で図書室に向かった。

あいつは何か可笑しい。
毎回そう思うが、それを追跡するほど俺は暇じゃない。






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