41まなかは小走りで教室を出ていった。
仁王は椅子にだらりともたれた。
折原はニヤリと笑って教室を出ていった。
来栖は無表情で教室を出ていった。
速水が一人、大きなあくびをした。
そして俺は、ガムを紙にくるんで捨てた。
なんだろ、この居心地の悪さ。
なんかとんでもねーことが、俺の知らない間に起こってる気がする。
いてもたってもいられず、俺は自販機に向かいながら、赤也のクラスを覗きに行くことにした。
やっぱり気になる。だってあんな顔してたんだぜ?絶対何かあるだろぃ。
この際筒井とか半田でもいいや。確かあいつら3人同じクラスだったよな。
階段を降りて、赤也のクラスに向かう。
「えーっと…。どこだっけ」
廊下を歩いていると、ある教室から来栖と半田が出てきた。
「!」
「!…」
俺と目が合うなり、来栖はすぐ目を逸らした。こいつはこういうとこがあるから、俺は少し苦手。別に何かしたわけじゃねぇのに。
後ろには半田がいて、よく見ると手を繋いでいた。
いや、来栖が半田の手を掴んでる、って言ったほうが正しい。
「なぁ、半田」
俺を通りすぎようとする2人を引きとめた。
来栖は素早く立ち止まり、半田を自分の後ろに隠す。
来栖の身長に隠れて半田は見えないが、半田は来栖の背中からひょいと顔を出した。
「何の用だ」
半田が口を開ける前に、彼氏のほうが口を開けた。
…俺、半田と話したいんだけど。
「あ、いや、半田。ちょっと聞きてぇことあんだけど、今、時間ある?」
「ない」
間髪入れずにまた彼氏が口をはさむ。
いやだから、お前じゃなくてさ。
半田は顔を出したには出したが口を開こうとはしない。
俺たちのどちらかが喋るのを待っている。
「いや、ほんとちょっとで終わるからさ」
「くどい。そんな暇ないって言ってるだろ」
「なんでお前が答えるんだよぃ。俺は半田に聞きたいことがあんだよ」
「お前に費やす時間がないって言ってるんだ」
会話が噛み合ってない気がする。
「いや、だから…」
「待って、翔也くん。昼休みまで私の所に来たんだよ?多分とても重要なことなんだよ」
ここでやっと、半田が口を開いた。
「何かありましたか?」
半田はそう言うが、来栖の背後に隠れたままだ。んで、来栖はすごい目で俺を睨んでる。
うん、早く終わらそう。
「赤也のことなんだけど、何か知らね?朝から調子悪いみたいでさ」
「うーん、ごめんなさい。よくわかりません。あ、でも教室に梓がいるんで、聞いてみてください」
「あ、おう…」
一通り会話が終了すると、来栖が行くぞ、と半田に言って、俺に見向きもせず通りすぎた。
舌打ちが聞こえた気がしたけど、気にしないでおこう。
…っつーか、半田の返事適当すぎじゃね?
彼氏が大事なのはわからなくもないけど、もうちょい考えてくれよ。
多分あいつは、俺と来栖のやり取りで時間を潰されるのが嫌だったから、自分から話をしだしたんだ。
蓮二の言う通り、やっぱあいつらに絡まないほうがいいかもな。
とりあえず、教室を覗いた。
あれ、赤也がいない。学食か?
近くにいた女子に話を聞くと、赤也は男子数人とついさっき学食に向かったばかりらしい。入れ違いか。
筒井呼んでくれ、って言ったら、わざわざ筒井の席に行って呼んできてくれた。
で、筒井は気だるそうな足取りでやって来た。
「えーと…何ですか?」
寝ていたのかはたまためんどくさいからかどっちかわからないけど、筒井はなんか苛立ってる。
「お前寝てた?」
「確かに、途中から記憶がないですね」
「寝てたんじゃねぇかよぃ」
ふぁああ、とあくびをして、扉によりかかった。
「ちゃんと夜寝ないからそういうことになんだろぃ」
「マネージャーの仕事のせいで忙しいんですよ。テストもあるし…っていうか、何の用ですか」
「あ、ああ。そうだ、赤也のことなんだけど」
またあくびをした。
「あいつ、何かあったのかよぃ?朝から調子悪そうだから、気になって」
「知りませんよ。どうせ宿題やってないとかそんなんでしょ」
「まぁ聞けって。あいつ、練習中にまなか……牧野を睨んでてさ」
何故だか、まなかと呼ぶのが嫌で、牧野に言い換えた。
「何かあったのかなーって」
「知りませんよ。本人から聞けばいいでしょうに」
「言うわけねぇだろ、あいつが。牧野と話すのは、回りの視線が痛いし」
「へー」
興味なさげに相づちを打つ。
少しは興味を持てよ。
「だから、お前に聞きにきた」
「紗和子もいるじゃないですか」
「さっき会った」
「まぁどうでもいいですけど、知りません。知ったこっちゃないんで」
「お前ってさ」
「は?」
「…可愛くねーな」
何言ってんだこいつ、みたいな目をされた。
「何をそんな当たり前のことを今さら」
「いや顔じゃなくて、態度が」
「知ってますよ。顔も悪いですけど」
「自信持てよ」
「あーはいはい。とりあえず私、知らないんで。関係ないし。ちなみに言っとくと、授業中は普通でしたよ、切原。じゃ、お昼食べたいんで」
言うだけ言って、あいつは席に戻って行った。なんだか釈然としない。
そのままボーッと筒井を見てると、あいつの周りに女子が数人集まってきた。友達多いな、あいつ。
そして俺は自販機に向かった。
結局何もわかんなかったけど。
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