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『そこは嘘でも「今すぐ会いたい」とかいうところじゃないの?』
「私は相手が喜ぶような嘘は言わない」

先ほど、心亜は牧野まなかに向けて「先に戻る」と言ったがそれはその場しのぎにでたデマカセだった。
彼女は電話をしながら校舎から離れていった。

校舎に戻り教室で電話してもいいのだが、いかんせん相手はあの臨也だ。
それほど彼女にとって臨也は、知られたくない存在なのだ。

この二人、そして双子たちが兄妹になった時から、心亜は臨也と姉たちについて多くは語らなかった。
否、語りたくなかったのだ。


『え?俺嬉しいなんて一言も言ってないよ?』
「あーハイハイ」

そして冒頭の会話に戻る。
臨也の返答に心亜は苛立った様子で答えた。

『あ、もしかして俺が喜ぶって思った?心亜ってば可愛い』
「私の勘違いだったみたいだね、ゴメン。ってそれはどうでもいいんだよ。調べてっつってんの」
『わかったわかった』

電話の向こう側でほくそ笑んでいるだろう兄の声を聞いて心底苛ついたがかまっていたらキリがないのでここは心亜から一歩退いた。

『で?何を?』
「犯罪者」
『えぇ?そりゃまた何か面白そうなことを』
「犯罪者って言っても、未成年のなんだけどさ」
『未成年?もしかして転校生が何かしたっていうの?』
「それっぽいんだよなぁ。人を殺したか、まぁ傷害が殺人なんだよね」
『ほうほう』

楽しそうに相づちを打つ臨也。一方心亜は無表情。淡々と言葉を述べる。

「気になったから探しといて。顔写真と名前は前メールで送った通りだよ」
『あの子だいぶ化粧してるよね。できれば素っぴんの写真が欲しいんだけど』
「笑いたいだけじゃん」
『ご名答』

へらりと笑ったのがわかった心亜はため息をついた。
兄である臨也と電話するのはだいぶ疲れる。ペースを乱されるからだ。

『調べるのはいいんだけど』
「じゃあ調べてよ」
『報酬は貰うよ』

ほら来た。言わんこっちゃない。

「ほざけ馬鹿。妹から金とる気?」
『お金が欲しいわけじゃないよ。だだ心亜が欲しいだけ』
「ははは、面白い冗談だよね」
『冗談じゃないよ。ただちょーっと、その身を俺に任せてほしいだけ』
「嫌だよ。なんで兄さんなんかに」
『キスくらいいいじゃん』
「そら見ろ、冗談じゃない」
『…じゃあ、池袋に遊びにきてよ。デートしよう』
「二人で出かけるの?」
『正確には二人だけで、だけど』
「めんどくさいから嫌だな」
『迎えにいくよ』
「いや待って、なんで遊ぶ前提で話が進んでるの?」
『じゃなきゃ調べてあげないよ?いいの?』
「そしたら自分で調べるよ」
『参ったな。いいじゃん、遊ぼうよ』
「考えとくね」

とだけ言って一方的に電話を切った。

近くから生徒数人のはしゃいだ声が聞こえたので、携帯電話をポケットにいれてその場を離れた。

「あっいたいた!心亜ー、ご飯食べようよ」
「…先食べてればって言ったじゃん」
「一人で食べるの寂しいじゃん」

そして彼女を探していたハチと出会い、校舎に戻った。

そして心亜は、彼女の数歩後ろを歩きながら、日曜日に何を着て池袋に行くか考えていた。





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