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殺人というのはこのご時世にやってはいけないことの第一位に入ると思うんだよ。だから警察、裁判官、弁護士、法律があると思うんだよね。
経緯や反抗手口なんか関係なく、人を殺すのは、ましてや自分で自分を殺すのもご法度な時代だ。

故に、そんな行為をしたあかつきには地獄が待っているというがどうなんだろうね。
私は地獄だとか信じてないから何とも言えないけど、仮にあったからってだからなんだって話なんだよ。

殺人が悪い?
そんなの私たち人間の祖先が勝手に決めたことであって、あの世と比喩する死後の世界、それこそ天国とか地獄では殺人なんてのはそりゃ素晴らしいことで殺人した人間は崇め讃えられているかもしれないと、私は思うわけだよ。

この話を聞いて相づちを打ってくれたのは、兄さんと姉さんたちだけだけどね。

君はどう思う?


牧野さんは固まっている。目を見開いて、私を見ている。

まさか、本当に?

半分冗談で言っただけなのに。でも言った根拠はある。
だって彼女は、明らかに殺人者の目をしている。
なんでそんなことわかるんだと言われたら私も正確には説明できないけど、何て言うのかな、彼女みたいな目をした大人を嫌という程見たから、とだけ言っておこうか。

殺人者ってのは皆一様に同じような目をしてる。
自分に溺れているそんな目だ。
彼女も、そんな感じ。

「おーい、大丈夫?」

私がそう声をかけたら本人はハッとして目を2、3回ぱちくりさせた。
そしてキッと私を睨んだ。


「そんなわけないでしょ!?馬鹿言わないで!!私が!?人を殺した!?何言ってんの!?」
「何もそんな啖呵切らなくてもいいじゃない」

きゃあ怖い。愉快愉快。

「気分を害したならごめんね。でも君って、どうもおかしいんだよなぁ」
「は!?何が!?」
「前にいた学校が不明、親御さんもいない天涯孤独、でも君は何があってか学校に通える身。おかしいよ。何かの施設に入ってるわけでもなさげだし、誰かに援護されてる身ならもうちょい身の程をわきまえてるはずだけど…君ってそんなでもないし。私の考えでは昔何かの間違いで人を殺めてしまって、両親から勘当され、どこかの施設に預けられ、何があってか今ここにいる。殺人なんて今の歳でしちゃってたら受け入れてくれる学校もなさげだし、書類偽造して何もないかのように、ここにいる」

私が一気に喋ると牧野さんはより一層顔を歪めた。 この顔はいやはや。思い当たる節があったらしい。
やはりコイツは人を殺している。何人だ?まさか家族全員?はたまた他人か、友人か。

「ねぇ、喋ってくれない?誰を何でどうやって殺した?」
「こ、殺してない!私は、そんなことしないっ!」
「じゃあなんで君はそんなに淀んだ目をしてるんだ?」
「目だけで私を殺人者呼ばわりしないで!だいたいいきなり現れて何!?人殺し!?ふざけないでよ!」
「確かに、目だけで判断するのは駄目だね。いやぁごめん。でも、ま、聞かなかったことにして。じゃあ教室戻るね。あ、あと5分くらいしてから君は戻ってよね。一緒にいたくないから。じゃあね」

一方的に話を終わらせ、適当にはぐらかし、私は牧野さんを置いて教室へ向かった。

ああ、間違いない。
彼女は確実に誰かを殺している。
じゃなきゃ、あんな必死にならない。

嗚呼、なんて楽しいんだろう!
こんな身近に非道徳な行為をした人間がいるなんて。私は恵まれてるなぁ。

スマートフォンをポケットから出して、慣れた手つきでアドレス帳を開いて、電話をかけた。

1コール、2コール、3コール。

プツッと電話が繋がり、声がした。

『もしもし?珍しいね、何かあった?』
「あ、もしもし。いやぁね、ちょっと声が聞きたくなって」
『うわ、超嬉しい』
「冗談はさておき兄さん、ちょっと調べてほしいんだよね…」

まずは、下調べから。





まさか、折原は、私を知ってるの?

前いた世界から私を見ていたっていうの?
もしやあいつも、私と同じなの?
私と同じく人を殺して私と同じく「テニスの王子様」の世界に来たっていうの?

そうよ、ならつじつまがあう。
突然出てきた私の存在が邪魔になって、私を陥れようとしてる。
でも、あいつは「自分は人を殺したことないから教えてよ」みたいな口振りだった。
人を殺さずこの世界にきたの?でも神様からそんな話聞いてない。

じゃあ何?

折原心亜は最初からこの世界にいたってこと?
それでもなお、私のことを知ってるっていうの?
ならやばい。バレたら、終わりだ。

……ああ、そうだ。
あいつを殺せば、上手くいくんじゃない?

……ううん、でも駄目。

あいつには、働いてもらわないと。




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