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「…は?」

意味がわからない。混乱した。
整理しようとした矢先に、目の前から携帯が消えた。

「随分話題になってるわよ」

カチカチとまた携帯をいじるショートカットの女子生徒。まなかはただ呆然と突っ立っていた。

あの写真は何?あんなの私、見に覚えがないわよ。キス?私と雅治が?
違う、私たちはまだそんな関係じゃない。

「マジキチ、うざい、これ転校生でしょ、男漁り……。これ全部、立海生徒が書き込んだのよ」

書き込んだ?ちょっと待ってどういうこと。
困惑するまなかを見る女子生徒は失笑した。だがそれはすぐに止み、また憎悪な顔に戻った。

「なに?ほんとに何も知らないワケ?」
「当たり前でしょ…。何よそれ!?私たちはまだそんな関係じゃない!!」
「でもキスしたのは事実でしょ」

パチン、と携帯をとじる。

「どうせアンタからやったんでしょ。確かに雅治はたらしだけど、アンタみたな女が一番嫌いっていうのは知ってる」
「ちょっ…!どういうことよ!」
「だから、アンタがテニス部をどーこーしようが知ったこっちゃない。でも、雅治を好きになることは許さない」
「…はぁ?ちょっと待ってよ。まず第一に、私はキスなんかしてないっつーの!」
「黙れ!じゃああの写真はなんなのよ!?」
「あれを見てキスをしてない!?よくそんなこと言えたわね!」

だって、私だって本当に知らないわ。

誰かが雅治と私に成り代わって、あの写真をばらまいた?
いや、そんなはずない。確かにあれは、私だ。
カーディガンも、髪飾りも私のだった。じゃああれは何?何?何何何何何――?

意味がわからない。

でも、私はキスをしてない。
確かに、あの時キスされる、なんて思ったけど、全然違った。怒られただけだった。



あの時?



ああ、そうだ。あの日あの時、私はあの髪飾りしてた。
雅治にも顔を近づけられたし、見方によってはキスしたとかされただとか、そういう風に見える。

じゃあ、誰が?

「聞いてんの!?」

肩を押され、尻餅をついた。睨みあげると、3人の目はまなかをとらえていた。
クソ、なんなのよこいつら。

馬鹿じゃないの、キスなんてしてないっつーの。
とにかく誤解をといて、こいつらを味方につければ折原に対等に張り合える。


「まだわかんないみたいね」
「痛い目見せよう。話し合いで解決するなんて考えたのがいけなかったんだよ」
「そうだね」

ブツブツと3人は呟いて、傘立てに立てておいたバットを取り出した。
それを見てぎょっとするまなか。

「ちょ、何よ!?」
「恨むなら自分を恨みなさいよ。アバズレ」

段々と話が進み、まなかはついていけなくなっていた。だが、この状況はやばいというのはわかった。
でもどうする。

立ち上がって反撃しても、相手は3人だ。押さえつけられたら、やばい。

泣き落としは女になんか効かない。それに泣いたって、私が惨めなだけだ。ああ、そうだ。

皆が助けてくれる。

私を心配した皆が、血眼になって私を探してくれているんだ。
だから、私は全然平気。


「…何笑ってんのよ…!!」



少女はわかっていない。
そんなゴミにもにた知識など、全て幻ということを。
少女はわかっていない。
この世界で、生きていると。
幻を想うことは、異常者への第一歩だと。



バットを振り上げる少女を見て、まなかは薄く笑っていた。

ああ、もうすぐ、もうすぐよ。
皆が助けてくれる――…!!


だが、少女の願望は裏切られることとなる。


パン、パンと手を叩く音が聞こえた。


「はーい、そこまでー」


皆が一斉に、手の鳴ったほうを見た。

全員が、それを見て戦慄した。


「イジメ、よくないよ」



にっこり笑う彼女は、ヒーローというにはあまりに役不足で、悪役にはもってこいな、そんな人間だった。





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