36昼休みになった。
私はにやにやしたいのを押さえて、4時間目の授業か終わったらすぐ教室を出た。
あの手紙の主の待つ体育館裏へ行くため、人混みを抜ける。
ああ、誰かな?誰かな?
もしかして、実は幸村とか?
ありえるかも!!幸村って、なんか結構ウブだし!!皆がいる前じゃ話せないから、わざわざ手紙を書いて私を呼んだのかな?
もう、私は気にしないのに!!
まなかは胸を踊らせ、廊下を走っていった。
ツインテールの髪が風に揺れ、それを見た何人かの女子生徒は顔をしかめた。
男子もまたしかり。
まなかが通りすぎると、甘ったるいバニラの匂いが鼻をつく。
振り返ると、ああ、転校生かと呆れ気味。
牧野まなかという名前は着々と広まっていた。
転校初日に男子テニス部マネージャーを志願し、仁王雅治に媚を売り。
また、敵に回してはいけない人間、折原心亜から目をつけられ。
あの写真ときた。
彼女はまだわかっていない。
自分の置かれている立場というものを。自分が他人からどんな目で見られているかも。
少女は知らない。知っても意味がない。
だから少女は嫌われるのだ。
「……は?」
体育館裏に来てみると、幸村でもかっこいい男がいるわけでもなかった。
いたのは、いかにも「悪」って感じの女。
スカートをギリギリまで上げて、髪は茶色。
何こいつら。
さっきから私のこと睨んでるし。意味わかんない。男の子は?
ヤンキーの溜まり場に来ちゃったみたい。早く男の子探さなくちゃ。
女達から背を向けると、肩を掴まれた。
「…何よ?」
掴んだのは、ショートカットの女。目元に黒子がある。
「待ちなよ」
「は?何か用?」
そう言うと肩に置いた手を乱暴に離した。
その衝動で押されて、少しよろめいたけど。
それを見て女がフッと笑った。
何こいつら。
「牧野さんでしょ?」
「だったら何よ」
「あんた、テニス部が目当てなの?雅治が目当てなの?」
「は?」
後ろにいた女が言った。
雅治って、仁王のことよね?何で呼び捨てにしてんの?
「何?私はテニス部の皆をサポートしたいだけよ」
「嘘よ。あんたのテニス部の皆を見る目はやましい。しかも、雅治の隣の席になって、随分と好き放題やってるみたいじゃない」
ショートカットの女子生徒の声は嫉妬に満ちていた。
嫉妬というより、憎悪に近い。だが、誰を憎んでいるのかはわからない。
まなかはそんな女子生徒が何を言いたいのかわからない。
いや、大体わかる。
小説でこういったいかにもお決まりな場面はある。
私がいじめられている場面に、颯爽とテニス部登場!みたいな?そしてこの女達はテニス部から未来永劫、嫌われることになるんだから。
そんな事を思っていたら笑みがこぼれてきた。
それを見たショートカットの女子は気分を悪くし、舌打ちした。
「何笑ってんの?」
「あなた達でしょ?こんなくだらない手紙出したの」
「そんなくだらない手紙にひっかかったあんたは相当馬鹿だよね」
ハッと鼻で笑われたので、まなかは女を睨んだ。後ろにいた女もはは、と笑った。
ちなみに、今この場にはまなかと、女子生徒が3人。まなかはこの3人と面識はない。
「で?何の用よ。言っておくけど、マネージャーはやめないわよ」
「何言ってんの?あんた今マネージャーでもなんでもないじゃん。大体、テニス部マネージャーは半田と筒井だけで十分なのよ」
「…いい加減にしてよ。何が言いたいわけ?」
「だからあんた、雅治とテニス部どっちが目当てよ?」
「は?」
質問の意図がわからない。
仁王…雅治とテニス部?何それ。
第一、目当てってどういう意味よ。
「……質問の意味がわからないわ」
「……シラ切るつもり?」
それまで一言も喋らなかった、後ろにいる女が腕組みしながら言った。
こいつがリーダー格?
「…何?あんた達仁王の何なのよ」
「関係ない。あんた、雅治が好きなの?」
「ええ好きよ」
好きよ。何が悪いの。
そう答えたら、3人から睨まれた。
何?何なのよ。
「あんたさぁ、雅治と付き合ってるわけ?」
「その前に、あんたテニス部の連中をどう思ってんの?」
「何よ。いっぺんに話さないでくれる?ええ、テニス部の皆は大好きよ。皆かっこいいし」
「あんたそれ、自分はミーハーです、って言ってるようなもんじゃん」
「好きなのはしょうがないでしょ。それに皆、私のこと大好きだし」
そう言うと、3人から憎悪の目で見られた。だがまなかは動じていない。
それどころか、優越感にも似た快感を感じていた。
「最低ね」
「は?」
「あんた、ほんと最低。最悪。ゲス野郎だわ」
「はあ!?何勝手にベラベラと――……」
まなかが女に歩みよろうとすると、目の前に携帯がつき出された。
は?と思ったが、まなかは目を細めて携帯を見た。
画面にあるのは、人間二人。
それは見覚えがあるものだった。
画面の中の男女、
私と雅治が、キスをしていた。
top