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いつになく真剣な柳に、俺は少し驚いた。

こんなに、あいつらに執着するとは思ってなかった。

「俺はこの写真を貼ったのは、折原だと思っている」
「…」
「お前はどう思う、仁王」
「…俺もそうじゃの。心亜か速水あたりが犯人じゃと睨んどる。他に思いつかん」
「心亜?」

柳が反応した。

「ああ、下の名前で呼ぶくらいにランクアップしての。ま、あっちからは名字じゃが」
「驚いたな…。そんなに仲が良かったとは」
「ブンちゃんにも言われたぜよ」

でも実際、仲は良くない。

俺が勝手にやってるだけで、あっちから正式に「友達」と認識されない限り仲が良いとは言えない。
速水にはまだまだ敵わない。いや、あいつに敵う奴はいない。多分。
心亜はあんな性格だから、前にいた学校でも仲が良かった人間は一人か、二人、それかゼロ。

そんな心亜に付きまとう変人は俺か速水、柳しかおらんじゃろ。

「では、写真を撮ったのは?」
「十中八九、心亜じゃな。それは断言できる」
「牧野はこれについて何か言っていたのか?」
「あいつはまだ知らん」
「そうか…。折原は?」
「全っ然、そんな素振り見せん。知らんぷりじゃ」

ああも感情を押し殺せるのは凄い。
詐欺師と言われる俺でも口元が緩むくらいする。でもあいつの場合、年がら年中ほくそ笑んでるから分かりにくい。
もしかしたら、違うのかも。

そう思うが、やっぱり心亜意外の人間がやるなんて思えない。

「…厄介じゃのう。幸村とか何て言っとるんじゃ?」
「精市はまだ知らない。俺から伝えておく」
「…ハァ……。何がいけなかったんかのう…」
「弱気だな」
「いや、そうじゃなくてな…。…何て言うかの、心亜にこんなことされるのが、嫌なんじゃ」

柳がまた開眼した。

するとクスリと笑う。何で笑う。

「成る程。そういうことか」
「は?」
「確か、折原が転入してきてすぐ大野をフッただろ」
「…大野?…ああ、あいつか」

そう言えば、付き合ってたっけ。3年になってフッたけど。

「それからもお前は女子の告白を全てフッているだろ。前は告白されたらとりあえず付き合って、飽きたら別れての繰り返しだったのに」
「誤解を招くような言い方はやめんしゃい。部活を優先させてると言え」
「確かに、精市が復帰してから部活に精を出してるようだが、まだ部活を優先させてるとは言えないな」
「あーもう、何じゃ。何が言いたい」
「つまり、お前は折原のことが好きなんだ」


思わず失笑した。


「…何じゃ、お前さんまでそんなこと言うのか」
「違ったか?誰が聞いてもそう言うと思うがな」
「……好きなんかのう」
「……」

柳が黙った。頬杖をついて、俺は考える。

好き、ねぇ。

俺が、心亜を、ねぇ。


「…でもそれは別問題じゃろ。好きとか嫌い以前に、こんなことされたら凹むし、怒る」
「…だな」
「牧野のことだってそうじゃ。全部、元凶は心亜じゃろ」
「ああ」

柳が、静かに言った。

途端、心亜の不敵な笑みが頭に浮かんだ。
今思えば、俺はあいつの笑顔をちゃんと見たことない気がする。何がしたい。何が目的だ。

何を望んでるんじゃ、心亜。
返ってくるはずのない質問を投げ掛けた。




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