33

「朝どこ行ってたの?」

まだ教師がいない教室で、ハチが話しかけてきた。

「あのままサボるーとか言ってたのに帰ってきちゃうし」
「駄目?」
「いや駄目なんてことはないけどさ。心亜って一度決めたら絶対やるじゃん。珍しいなぁと」

そういえば、朝のことハチに話してなかったな。

まぁいっか。

「私がそんなきっちりした人間だと思う?」
「…そう言われちゃ仕方ないんですが。そういや仁王もいないね。もう授業始まるのに」
「ああ、あいつならサボりだよ」
「え」
「朝あった。サボろうとしたらバッタリ」
「え、それで心亜戻ってきたの?」
「一緒にサボったとか誤解されちゃ敵わないだろ。それに、私あいつ嫌いなんだ」
「!」

ハチが驚いた顔をした。
何?なんか変なこと言った?

「心亜、仁王嫌いなの?」
「嫌いだよ。ああいう、人を騙す奴は大嫌い。弱いし」
「…それあんたが言う?」
「ああ、言葉足らずだったね。「人を騙しきれてない奴」が嫌いなんだ。それが弱いってこと」
「…?」

頭にクエスチョンマークを浮かべるハチ。
わからないらしい。

「ああいうタイプはね、「人を騙す自分が大好き」なタイプの人間なんだよ。だから本当の嘘がつけないし、人を騙してもその後すぐにフォローをして、自分に害が及ばない程度に騙す。それじゃただの強がりだ。だから私は嫌い」
「…なに?なんかされたの?」

珍しいものを見るような目をした。
まぁ、確かに私は何かされなきゃ何もしないからね。

「別に。ただ、本能的にそう思っただけ」

直感、とも言える。

「…本能的、ですか。でも心亜と仁王は似てるよ」
「は?」
「似てなきゃ本能的に、なんて思わないし感じないよ。うん、似てるよ二人共」
「…納得いかないな。私と似てるなら兄さんにも似てるはずなんだけど、あいつ弱いし」
「随分低評価だね」
「言っとくけど私の中で低評価っていうのは結構喜ばしいことだよ?」
「ちなみに今のところの高評価は?」
「牧野さんかな」
「そりゃ喜ばしいね」

ドアが開いて、号令がかかった。

嫌いじゃない。大嫌いなだけ。
大嫌いじゃない。関わりたくないだけ。
同族嫌悪っていうのかな。似ているからこそ、近寄りたくない。





「チャイム鳴ったな」
「いいんか?サボりになるぞ」
「なに。バレないように対処するさ」

そう言って柳は俺の数段下の階段に腰を下ろした。

「よく俺がここにいるってわかったの」
「俺の教室の前を通っただろう。必然的に、ここがベストの場所のはずだ」
「おー怖い。お見それしたのう。何でも知っとるのか」

クク、と笑うとおもむろに携帯を取り出した。
慣れた手つきでボタンを押し、携帯画面を俺に見せた。

画面には、今朝見せられたあの、例の写真。

「…!何じゃ、もう出回ってるのか」
「出回る以前の問題じゃないぞ。厄介だな。学校裏サイトに載っていた」
「!出所はそこか…。ああ、めんどくさいのう」
「それはもうどうしようもない。仁王、この写真はどういうことだ?俺はお前がこんなことするようには見えない」

少し強い口調で言った。俺だってそんなことしない。

「そりゃそうじゃろ。それはガセじゃ。俺はやっとらん」
「…だろうな。悪かったな、疑って」
「ん」

そう言うと携帯をしまい、立ち上がった。

「何じゃ?戻るんか?」
「…いや、今は自習だからな。戻る気もない」
「優等生がいいんか?」
「問題ない。それより、お前の意見が聞きたい」
「…?何じゃ」
「牧野、と」

くるりとこっちに向き直った。

「折原について」

目をうっすら開けて、言った。





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