32-2

「どうだった?」

切原の所から駆け足で戻ってきた紗和子に開口一番、そう聞いた。

「うん。何も言わなかった。梓の話、ちゃんと守ってるみたい。別に探りを入れなくてもよかったんじゃない?」
「念のためだよ」

朝の出来事を紗和子に言う位じゃ、部長とか、クラスの男子にも言ってることになる。
紗和子に探りに行かせても何も言わなかったのは誉めてやる。
だからこれ以上関わるなよ馬鹿。ましてや折原先輩と同じクラスだという仁王先輩なんかに言われたらたまったもんじゃない。
あの人絶対面白がる。

「で?私にも教えてくれないの?」
「…教えてほしいの?」
「半々かなぁ。だって私じゃ話を聞くだけで力になれないもん」

あははと笑う紗和子。
折原先輩が同じこと言ったらムカつくけど紗和子は何らムカつかない。
本当だからなんだけどね。

紗和子は翔也以外のことで本気になったりしない。つまり、戦力は0だ。

「話すのめんどいから話さなくていい?」
「うん、わかった」

納得すんのかよ。

呆れるあたしに紗和子はあ、そうだと何かに気づいたらしく小さく耳打ちしてきた。

「切原くん、心配してたよ?あと折原先輩と何かあったのかって探ってきた」
「探ってんじゃん。…で、なんか言ったの?」
「うーん、言ってないけど言いそうになっちゃった。もしかしたらいつか聞かれるかも。そしたら何て言っておけばいい?」
「適当にはぐらかしといて」

正直、折原先輩のことは話したくないし聞かれたくない。
大体、折原先輩については紗和子とあの馬鹿男にしか話してないし、これからも話す気はない。
でも折原先輩はもしかしたら誰かに話してるかもしれない。
ああもうやめてくれ。これ以上平和を壊さないでくれ。
切原と目があった。何か言いたそうにしている。
ああ、もう。どいつもこいつも。

「…めんどくさい」




出入り禁止の屋上へと繋がる階段。

仁王はそこでやることもなく、ただ座っていた。
1時間目終了のチャイムが鳴ったが、仁王は授業に戻る気はなかった。
下から、階段を上ってくる足音が聞こえる。だが仁王は慌てない。誰がこようがどうでもよかった。

足音は近づいてくる。
階段の踊り場を上から見ている仁王。足音の人物が踊り場に差し掛かった。

「……やはりここか。仁王」

仁王を見上げるその生徒は、携帯電話を右手に持っていた。

「…参謀か」

柳を見て呟いた。




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