29

何かが始まる。そんな気がする。


「…」

俺が教室に入るなり、生徒は不安そうな目をして俺を見てきた。
なんじゃ、何かしたのか俺。

後から入ってきたブン太もその異質な空気を感じ取ったらしい。

「…なんだよぃ?どうかした?」

そう言うと何人かの男子のかたまりがちょいちょいと手招きをした。
なんだと思って近づくと、みんな携帯を見ていた。

「何?皆に不幸のメールでもきたのかよぃ」
「俺たちは不幸でも何でもねぇけど、仁王には不幸かも」

この時ふと気になって教室を見渡した。心亜はいない。
何故だろう、心亜がいない教室は心亜がいるときより居心地が悪い。

いや、それより何だって?
俺には不幸?

「どーいう意味じゃ」
「仁王、お前牧野と付き合ってたりとかしてねぇよな?」
「当たり前じゃろ」
「…一昨日さ、仁王が牧野にキレただろ?」
「……ああ、昼休みのか?」

一昨日、確かに俺は牧野にキレた。

そういや屋上で幸村は何の話をしようとしたんかのう。
まぁあいつのことだから幸村が呼んでただとかはデマカセじゃろ。

「それがどうかしたんか?」
「これ見てみ」

携帯を差し出されたので、それを受け取った。

画面にうつし出された写真を見て、俺は戦慄する。
ブン太も画面を覗きこみ、固まった。




切原がムカつく。
なんで普通にできないかな。馬鹿か。ああ、馬鹿か。

丸井先輩はなんか勘づいてきてるし。
柳先輩も顔には表さなかったけど、あの人絶対気づく。
ああもう、折原先輩のせいだ。
なーんであんな人に関わっちゃったんだろう。めんどくさい。ああめんどくさい。

「梓ー。教室移動だってー」
「んー」

紗和子は平和そうですな。あのヤンデレ根暗彼氏がいれば、この子は十分平和なんだけど。




「精市、牧野の件だが」

「ああ、考えてる。もう少し待ってくれないかな」

そう言って精市は足早に教室に戻ってしまった。
最近牧野の話題をだすといつもこうだ。
あいつは人に相談したりしない。全て自分で処理しようとする。友人として何もしてやれない自分が嫌になる。

折原も速水も。
早く、あいつらをどうにかしなくては。




下駄箱にメモがあった。
ルーズリーフを切っただけの、無愛想なメモ。



昼休み、話したいことがあります。
体育館裏で、待ってます。





たった2行だったけど、何言われるかわかっちゃった。
ああ、やっぱり私は!まなかは誰にでも愛されるんだ!





「All the world's astage」
「どういう意味?」
「この世界はすべてこれ一つの舞台、って意味。シェイクスピアだよ」
「ふーん」
「人間は男女を問わずすべて役者にすぎず。それぞれ舞台に登場してはまた、退場していく」
「今の状況とくりそつだね」
「ほんと。…さぁて、誰が最初に退場するのか。見物だね」


And one man his time plays many parts.

(そしてそのあいだに一人一人がさまざまな役を演じる)




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