27切原の話はこうだった。
折原先輩と曲がり角でごっつんこ、フラグが立ったと思ったら一方的に話しかけられ、あたしが牧野先輩にいじめられてたよ、と他人事のように言い捨て、自分は牧野先輩を探しに行ってしまったらしい。
切原は折原先輩があたしを見てみぬふりをしたと勘違いしているらしい。
なんともまぁ…。
こういう場合、一般的には勘違いを指摘して和解をさせるんだろうけど、今のあたしにはそれができない。
何故かって?折原先輩に聞いていただきたい。
先輩と別れてせっせとTシャツなんかを洗っていると、2分後くらいにその先輩からメールがきた。
何か言い忘れかと思ってメールを開くと、頭に?が浮かぶ文面だった。
余計なことは言わなくていい
誤解を解くな
何だコレ、である。意味分からなかった。
文面からしてあたしに何かをさせようとしてるのは確かで、あたしはそれを従わなければならないらしい。
その時は意味分からなかったが切原の話で、ああそういう事か、と納得した自分は折原先輩と思考が似てきたと思う。
なんてこったい。
というわけであたしは折原先輩から聞いたという切原の話と矛盾のないように演技をしなくちゃいけないらしい。めんどくせっ。
「…少し口論になっただけだって。気にしないで」
「やっぱ幸村部長に言ったほうがよくねぇ?」
「やめて、それは」
「何で!だってお前…」
「…じゃあ言ってもいいよ。でも一切関わるなって言っといて。あたしと牧野先輩の問題だから、練習でもしててくださいって」
「ッ…!なぁ、なんでお前っていつもそうなわけ!?少しは俺たちを頼れよ!」
「頼れだぁ!?勝手に人をマネージャーにさせといて頼れ、信頼しろ?ふざけんな!あたしはあんたらなんかと関わりたくないのこれ以上!」
「ッ…!」
そこ、笑っていいよ。
「…これ以上何かしたら、本当にあんたのこと嫌いになるから」
「…今までも嫌ってんだろ」
「じゃあもっと嫌いになる。…ほんと、部外者が口挟まないで」
「……」
もう話すことはないだろと思い、小さくありがとうと言ってその場を後にした。
あー、緊張した。
口が滑ったらどうしようかと思った。
切原は馬鹿だから一人で何かを抱え込むことはできない。
幸村部長でなくとも、誰かに話す。
まぁ誰かに言おうが言うまいが、あたしがあれだけ念を押せば誰かに探りをいれられることも聞かれることもない。
自信はある。根拠は…五分五分だけど。
「!」
携帯のバイブ音が響いた。
開くとメールが一通。
演技上手いね(笑)
他人事だと思いやがって。
っていうか、どっかから見てやがったなあの人。
誰からのメールかなんて、言わずもがな。
携帯を閉じて呟いた。
「…あー疲れた」
ほんと、疲れた。っていうか先輩、牧野先輩はどうしたんだ。
「心亜、あの子と仲良いんだ」
「前、少し助けてあげただけだよ」
誰も来ない階段の踊り場で、窓を開けて外の様子を眺めた。
ハチは小さくあくびをした。
「何させる気?」
「別に?彼女は楽に生きたいらしいから、もう何かをさせる気はないよ」
「これから先は楽じゃないってことね」
「そうかもね」
「今さら、か」
遠くを見つめてハチは言った。
もうそろそろ、何かが始まる。
自然に笑みがこぼれた。
どうなるかな、どうなるのかな。
さぁ、楽しませておくれ!!
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