26

やばいと思った時には手遅れで、俺はラケットケースを背負いながら爆走中。

今回はヤバイ。
怒られる。真田副部長に。
多分もう朝練始まってるじゃねぇか俺の馬鹿!!!

よりによって今日、昨日の今日でこんな部活なんか遅刻したらたまったもんじゃない。
ヤバイヤバイと走っていると角に差し掛かった。
んな漫画的なことなんて起こらないだろうとたかをくくって猛スピードで曲がろうとしたら人影が見えた。
うわっ、マジかよっ!!

「危ねぇ――!」
「おっと」

すると相手から避けた。

当たることが分かっていたように、あらかじめ腕を伸ばし、俺の胸元にあて、距離をとった。
その反動で俺は尻餅をつくことになったんだが。

「いっつ……」
「ああごめん。大丈夫?」

慌てることもなく、冷静な声がした。
目線の先には黒いソックス。まさかと思ったけど女子かよ。

「曲がり角を走るときはスピード落とさなきゃ
「す、すんません」

敬語になった。
いや、まぁ俺が悪いんだから当たり前だけど。

恐る恐る顔を上げてみた。
直後、俺は固まった。


「あれ、テニス部だ。2年生か」


ニヤニヤ笑うその人物は、立海じゃ絶対敵に回しちゃいけない人物

「大丈夫?」

女王、折原心亜だった。




「朝練かぁ。お疲れ様」

尻餅つく俺を見下ろしながら女王はペラペラ喋りだした。

「あ、はい。立てる?」

なんて言って手を伸ばしてきたもんだから、俺は反射的に手をとった。
すると思いがけない力で俺を引っ張った。力強っ。

「今、力強いって思ったでしょ」
「!あ、いや…」

見透かされた。
超能力…じゃ、ねぇよな。でも女王なら…。

「ねぇ、牧野さん見た?」
「へっ?」
「知ってるだろ?牧野まなかさん。彼女さっき筒井さんリンチして仕事押し付けて帰っちゃったんだよねぇー」
「!?筒井に!?」
「だから今諭しにいこうと。見なかった?」
「なっ…!ちょっと待て!アンタ、筒井のこと見て見ぬふりしたのか!?」
「おやおやそうとらえるか」

クククと笑った。
何でコイツ笑ってんだよ、何で、何で。

「っていうか、さっきの話信じたんだ」
「――な!?」
「もうちょい人を疑いなって。今日初めて会った人の言うことなんて信じてるうちじゃ、まだまだ餓鬼だね」
「ッ…!」
「真偽は君が確かめるとして…。あ、この先の水道に筒井さんはいるよ。じゃ、私は牧野さんを探しに行くから」

じゃあね、と手をヒラヒラさせて俺の横をすり抜けた。
俺は横目で睨んだが、女王はほくそ笑んでるだけだった。

それより、筒井だ。

俺は全速力で水道まで走った。




「筒井っ、大丈夫――」
「!」

切原が息を切らしながら走ってきた。
なんだこいつ。

「…大丈夫ではないけどどうかした?」

大量の洗濯物を横目に切原に答えた。

「怪我は!?牧野は!?」
「怪我はしてないし、牧野先輩ならどっかいった」
「リ、リンチされてた…って女王に聞いたんだけどよ」
「!」

…折原先輩か。
また何を誤解されるようなことを言ったんだか。

うわ、面倒なことしてくれるぜ先輩も。
どう答えるか…。


「…折原先輩が言ってたなら、本当だよ」

渋々そう答えると、切原は舌打ちしてからギリリと歯をくいしばった。

また何を勘違いしてんだか、こいつは。

「ま、大丈夫だからさ。切原これ手伝ってくんない?先輩には言っとくから」
「…おう」

腑に落ちないといった様子だったけど、洗濯物をつき出すとわかった、と言って蛇口をひねった。

さてと、どう聞き出すか。
折原先輩と会って何を言われたのか。






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