25

池袋のとある駐車場にワゴン車が停まっていた。どこにでもあるような、小さなワゴン車だ。
ただ一つ違う点をあげろと問われれば、後部座席のドアにアニメのキャラクターが描かれているところだろう。

そんな一際異臭を放つ車に、4人の人間が乗っていた。



「最近心亜ちゃん見てないなー」
「そっスねぇ。どーこ行っちゃったんだか」

狩沢と遊馬崎が間延びした声を出した。
その声を聞き、門田も長らく見ていない少女を思い出す。

「渡草さん知らない?」
「そういや最近見てねぇな」
「ドタチンは?」
「お前らが知らない情報を俺が知ってるわけないだろ」
「ぶー」

門田はそう言って、シートに寄りかかった。

確かに、最近見ていない。
最近というか、4月あたりから見ていない。どこかに引っ越したっていう線もあるが、あいつはここを気に入ってる。

それについて静雄は不安そうにしてた。臨也は…どうなんだ。あいつの心亜好きは一線を越えてる。
わざわざ自分の前から遠ざけるようなことするわけがない。

逆に考えてみる。

自分のすぐ近くに置く。
一目もつかないような場所で。
……オイオイまさか、監禁、とかしてんじゃねぇだろうな。

臨也ならやりかねない。
歪んだ、しかも変質的な感情を持つあいつのシスコン具合は半端じゃない。
下手したら…いや、それはないか。

「コーヒー買ってくる」
「私アイスココアー」
「俺微糖のコーヒー」
「何でもいいでーす」

上から俺、狩沢、遊馬崎、渡草。
はいはい、とため息まじりに返事をして、車のドアを開けた。



こういう時に限ってどこの自販機もアイスココアが売り切れ。
無駄に遠出しちまった。
っていうか狩沢のなんだからここまでする必要はなかったよな…。
買ったアイスココアを持って戻ろうとしたら、見たことある人間が向こうからやって来た。

「静雄?」
「!門田…」

タバコを吸いながら、静雄がやって来た。
たしかにこの辺は、よくこいつがうろついている。

「よぉ。久しぶり」
「ああ」

サングラス越しだけど、笑っているように見える。臨也が来ないことを祈ろう。
そういえば静雄にも最近会ってなかったな。

「ソレ一人で全部飲むのか?」

俺の両手を指差して行った。

「ああ、遊馬崎達の分だ」
「ああ…成る程な」

そういうと静雄は自販機に近づいてきた。
ポケットから手を出して小銭をチャリンチャリンと投入していく。
もしや、こいつなら。

「なあ静雄」
「あ?」
「心亜、今どこにいるか知ってるか?」
「!」

ピタリと、静雄の手が止まった。
知ってるのか。

「最近たんと見なくなったからよ、何か変な事件に関わってんじゃねぇかと思ってよ」
「……アイツは、今ここにはいねぇ」
「は?」
「神奈川だ。神奈川にいる」
「…神奈川?何でまた神奈川なんかに……」

静雄がタバコの火を揉み消した。

「アイツは馬鹿だからさ、臨也になろうとしてやがる。池袋で俺たちに会って、裏の事情も知ってる。しかも兄貴が臨也ときた。確実に何かされるだろうし、する気でいる」
「……」
「そうなる前に、こっから出ていくのを勧めたらよォ、わざわざ神奈川なんかに行きやがった。馬鹿だろ」
「!お前が?」
「ああ。悪かったか?」
「いや。…俺もあいつには心配してたから丁度いい」
「そうか」

静雄も静雄で、臨也とは全く違う感情をあいつに抱いていて、それが無自覚だから臨也の逆鱗に触れる。

なんやかんやで、静雄もあいつを思っている。


「神奈川のどこにいるんだ?」
「それは知らねぇ」


プシュッと缶を開け、静雄は買ったばかりのコーヒーを飲んだ。

「っていうか、神奈川なのかもわかんねぇ」
「は?」
「臨也がこの前池袋に来て、んなこと言ってた。嘘かも知れねぇけど、一応心亜の電話には繋がった」
「……」
「安心しろ。生きてるよ」
「!」

静雄の言葉にハッとした。
俺、どんな顔してたんだ?

「じゃ、俺もう行くわ。遊馬崎達にもよろしく。んじゃな」
「ああ。またな」

そう言って、静雄と別れ、来た道を戻った。
とりあえず、あいつらに報告することが一つだけ。





「ドタチンおそーい」
「随分遅かったっスね」
「うるせーよ」

買ってきた缶コーヒーを遊馬崎達に適当に渡し、俺は一呼吸置いてからこう言った。


「心亜、今神奈川にいるらしい」






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