24-2

「いえいえ。気にしてませんから…久しぶりです、折原先輩」
「うん久しぶりー。最近見てなかったから名前忘れてたよ」
「でもまた最近、つるみそうですね」
「だねぇ」

クックックなんて笑う折原先輩は目を細めた。

「まだ癖、直らない?」
「え?」
「「私」と「あたし」。そろそろ統一したら?」
「…無理でしょ、多分」
「決めつけるのはよくないなぁ」

なんの話かっていうと私…いやあたしの一人称のことだ。

癖か何かわからないけどあたしは「私」と「あたし」を使い分ける。
客観的に見ると、比較的親しい人には「あたし」で、関わりたくなかったり、あたし自身が受け入れられない人には「私」らしい。
なんともややこしいことだ。

気分によって違うんだな、これがまた。

「君見てると知り合い思い出す」
「知り合い?」
「君と同じで一人称がコロコロ変わる人がいてね」
「そんな人いるんですか」
「面白いよね」

クスッと笑った。
やっべーあたし面白いって認識されてる。

「…っていうか先輩、なんでここにいるんですか?」
「研究対象者の調査。牧野さんどう?使える?」
「…牧野先輩に目ェつけてんですか」
「だって彼女面白いし。マネージャーにさせたいんだけど君はどう思う?」
「毎日あんなのが続くんですか…。うわ、嫌だなぁ」
「彼女がマネージャーになった場合、半田さんはマネージャーを抜けるだろうね」
「!…翔也もグルですか」
「あれ、なんでわかったの?」

折原先輩はとぼけてみせた。

「紗和子の名前が出た時点で反射的にあいつが出てきます。それにあいつテニス部嫌いだし…。復讐するにはもってこいでしょ、牧野先輩は」
「カンがいいね、君。どうする?君もやめたいなら台本書きかえるけど?」
「先輩にお任せします」
「変わらないね」
「え?」
「その態度。あ、誉め言葉だよ」

…どうやらほんとに誉めてるらしい。

「自分のことを他人のことのように振る舞う態度」

その言葉には皮肉が込められている、と解釈していいのかな。

「いずれ死ぬんだからさ、もっと楽しく生きたら?」
「…楽しく、よりも。楽に生きたいんですよ」
「…へぇ」
「先輩は、長生きしそうですね」
「それって誉めてる?…まぁ、私は死なないからね」
「先輩がそういうと本当みたいですね。さっさと帰ったほうがいいですよ。誰かに見られたら面倒です」
「私が嫌い?」
「そうじゃなくて…」
「わかったわかった。…じゃあね、筒井さん。また近々会うかな。その時はよろしく」
「…善処します」


そういうと、折原先輩はにこりと笑って去っていった。

あの顔は、また何かしら企んでる。
…ああ、あたしと折原先輩の関係?
ただの先輩と後輩ですよ。
前にちょっと、助けられただけ。

さてと、この洗濯物を片付けますか。紗和子は来ないし。あーあ、なんかあたしだけ不幸じゃない?

「…あーもう、死にたい」

小さな独り言を呟いた。




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